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信じて送り出した幼馴染みが、結婚報告の絵を送ってきた。

コメディです。そこんところよろしくお願いします。




 その手紙を見て、ボクは冷や汗が止まらなかった。


「やっぱりこうなった!」


 嫌な予感は的中した。

 ボクの住む田舎町の教会で、シスターの真似事をしていた幼馴染みがいた。

 幼い頃はずっと一緒にいて、成人したら結婚しようと誓っていた仲だ。

 彼女の名前はエルナ。神に授かった治癒魔法の腕を請われて、一年の半分ぐらいは王都まで手伝いに行っていた。

 そこで当代の勇者と出会い、魔王討伐の旅に出たのだ。

 魔王とは強力な魔法を操り、多くの魔物を従える存在だった。僕らの国のあるアルカディア大陸は、その半分が魔王の領土となっていた。

 それを討伐するために、勇者の旅の供となったのだ。

 ……というのが二年ほど前。

 ここ半年ほど音沙汰ないなあと思ってたら、これだよ!

 エルナは今じゃ王都で『癒やしの乙女様』とか呼ばれてるらしい。

 そんな彼女から送られてきたのが、子供を抱きかかえ勇者様と並んでいる絵画である。

 これは貴族や富豪なんかが子供ができたときに作られるもので、ご丁寧に勇者のサイン入りで『ボクたち結婚します!』って書いてある。

 つまりすでに子作りは済ませ、今から結婚するってことかよ! なんてこった! ボクと彼女は、お互い成人したら結婚しよう! と約束してたというのに。

 確かにエルナは可愛いし、おっぱいもでっかい。ボクにだけ厳しいところがあるけど、教会では概ね優しいし、魅力的な女の子だった。

 だからって……だからって……これはないだろ!


「信じて送り出した幼馴染が、結婚報告の絵画を送ってきたなんて!」








 そりゃね。ボクも旅に付いて行きたかったさ!

 でも、ボクが神様から与えられた職業は『羊飼い』。牧羊犬を操るためのスキルと羊に好かれる特性ぐらいしかない。

 つまり羊飼いのために生まれてきたような男だ。足手まといにしかならない。

 ちなみに神様の趣味なのか、世界中で最も多い家畜は羊らしい。なので羊毛で作られた服が一番安く需要も多い。

 つまり羊飼いという職業の人間は山ほどいる。そういう意味でも、ボクはいわゆる一般人だ。

 実際、王都についていくと言ったら、エルナは困ったような面倒くさそうな顔してたもんね!

 ああ……もう……やだ。


「それでもさあ、幸せにしようと頑張ったんだよ……ねえ、聞いてる?」


 とりあえず酒場でくだを巻く。

 だってやってらんないもん。


「おいルーク、もう三日目だぞ、毎日毎日、同じ話してるじゃねえか」


 テーブルに突っ伏していると、呆れたような声が振ってくる。

 はげ頭にマッチョボディの酒場の店主、通称マスターだ。


「うっさいよ、マスター。ボクだってなあ、ボクだってなあ……」

「ならエルナちゃんやその勇者ってのを、見返すように頑張りゃ良いじゃねえか」

「どうやってだよ! 相手は魔王軍と戦うような勇者だよ!」

「ああ……まあ、そのなんかこう、すごい魔物を倒すとか」


 ボクの絡みに、マスターが面倒くさそうに目を逸らしていた。だが許さない。


「ボクは羊飼いだぞ! できるわけないだろ! 毎日を地道に暮らすしかない羊飼いにさあ!」

「あー、はいはいわかった。っとらっしゃい」


 食ってかかるボクを避けて、マスターが入り口の方に声をかける。

 胡乱な目でそちらを見れば、長い金髪の貴公子みたいな人が立っていた。周囲には鎧をまとった騎士や侍女たちが控えている。

 少し面長だが、筋の通った鼻に長いまつげ、服装だって一流の生地だ。羊毛じゃない。

 ただ、戦闘とかには向かなそうな体付きをしていた。鍛えてないんだろうなというのがすぐにわかる。ひょろひょろという感じだ。

 そんな彼はキョロキョロと見回した後、ボクを見てツカツカと歩いてくる。


「やあ、ここ、良いかい?」


 爽やかに白い歯を光らせて、なぜか親指を立てながらボクに問い掛ける。


「こんな駄目男の隣なんてやめといたほうが良いぜ、兄ちゃん」


 マスターが親切心で声をかけた。その優しそうな声色が腹立つ。

 だが彼は気にした様子もなく、ボクの隣に座り肩に手を置いた。


「キミ、ボクと同じ匂いを感じるね!」

「へ?」

「私にはわかる。キミの出している負のオーラは、まさしくボクと同じ境遇のそれだ」

「……なんかわかんないけど、ほっといてよ……」


 ヤバイ人かもしれないと思い、少し声を潜めてしまう。関わりたくない空気よ、全身から溢れ出せ。


「おっと、まずは自己紹介からだね。私の名前は、サンジョルノ・ボンジョルノ・ヴァン・ヴィエータ。この国の王の息子さ!」


 なんてこった。貴公子は本物の王子だった。やべ、無礼働いたとかで殺されたりとかしないかな!?

 思わずカウンター向こうのマスターと視線を交わし合う。

 なんか言え、お前が謝れ。代わりに殺されろ。なんならトドメは刺してやる。

 そんなアイコンタクトを送り合っていると、貴公子は再び親指を立てて爽やかな笑みとともに、


「人呼んで、寝取られ王子さ!」


 と、歯を光らせたのだった。

 そのときのボクとマスターの心情といえば、


(やばいヤツに絡まれた)


 以外に何もなかった。







「ダンジョンレース?」


 気さくなサンジョルノ王子が得意げに語る。


「そうさ。この大陸から魔王軍もほぼ撤退して、国々にも余裕がでてきたからね。そういう競技でも開こうかって」

「ダンジョンっていうと、あの魔物がいて、ボスモンスターがいて……ボクはただの羊飼いだから潜ったことないけど」

「私だって生きたダンジョンには潜ったことないけどね。何せ王子だからね!」


 いちいち歯を光らせるのやめてくれる? という言葉をぐっと飲み込んで、


「そこでゴールまでの到達時間を競うんですか?」


 と競技内容の確認をする。


「そうとも! しかも新型の魔道具で、競技中の映像を映して観客に見せるのさ」

「はぁ……」

「そこで私たちが勇者ハーレムパーティに勝つ! そうやって見返してみせるんだ!」

「でも……ボクはただの『羊飼い』で、牧羊犬を操るぐらいしか」


 たぶん、そんな能力じゃ一番弱いモンスターも倒せない気がする。

 だって犬を操るだけだよ。可愛いけどね、犬。


「大丈夫だよ、何せボクが主催者だからね! どうとでもなるよね!」


 駄目だろそれは……。

 ボクはカウンター向こうのマスターと目を合わせる。マスターは一つ頷き、


「な、なあ王子様、そんなことしたら、嫌われるんじゃないか?」


 と恐る恐る切り出した。


「ははっ、もうこれ以上嫌われることなんてないさ! 何せ意中の人は『死ねウジ虫』って言ってくれるからね。もう声を聞かせてくれるだけでご褒美みたいなもんさ」


 仮にも王子様相手にウジ虫とか、すごいな王子様を振った相手。


「ちなみにその人は、今どこにいるんです?」

「もちろん」

「もちろん?」

「勇者ハーレムパーティの一員さ!」


 キランと再び歯を輝かせた。


「……はい」


 本当に同志だった。

 ちなみに勇者様とやらは強くて偉いので、何人もの女性と仲良くしているらしい。この国じゃ珍しいけど、一人の男性が多くの女性と結婚するのも違法じゃない。もちろん、甲斐性があってこそだけど。


「彼女はすごいんだよ! 美しい容姿で気品もあって民を思ってて超級魔法も使えて頭も良くてまだ十六歳だというのに、領地経営や商店経営にも関わってるんだよ」


 アンタとは大違いだな、と言いそうになったのをグッと堪えた。

 世の中、超人のような人がいるもんだ。よっぽどスキルに恵まれたのかもしれない。ボクの元婚約者エルナも、治癒魔法超級以外に色々と持ってたもんなぁ。


「それは……ステキな方のようですね」


 引きつった笑みで答える。

 チラリとマスターと目を合わせた。

 マスターも同じ感想のようだが、とても口に出せない。何せ相手は王子様だ。

 しかしボクらの心情を余所に、サンジョルノ王子は得意げな顔で、


「私とは違ってね!」


 と歯を輝かせた。


「わかってるのかよ」


 ダメだ、勝手に口が開いてツッコミを入れてしまう。


「わかってるさ! 何せ私は浮気者で気品はあるが性根がグズだし、国民なんてその辺から生えてくる草と区別が付かないし魔法は使えなくて頭も良くないし、もう二十歳だというのに学校卒業できなかったからね!」

「留年しとんかい」

「すごいだろ?」

「ある意味アンタはすごいよ!」


 王子だったら、あの手この手で卒業ぐらいできようものが……。


「まあ、私は出来損ないだからねえ。有望株の弟なんてスキルは盛り盛り、魔法だってバカバカ使えるんだ」


 でもこの人、偉ぶってないところだけは好感持てるよ。バカなだけかもしれないけどさ。

 まあちなみにこのサンジョルノ王子、国内ではすごく評判が悪い。

 大体は先ほど王子様自身が言ったような噂ばかりだ。今話してて、噂とはちょっと違うのかなっとは思ってるところだけどさ。


「で、でもまあ王子様だって、なんかあるんじゃ……」

「私かい? 私は一つスキルがあるだけだしねえ。王族の中じゃ、ゴミ扱いさ」


 遠い目をしている。使い道がないってことかな。さっきまでキラキラと卑下してたというのに、それだけ辛い思い出があったんだろう。

 気持ちはわかる。

 ボクだって十二歳のときに、神様から羊飼いという職業を与えられた。

 でも付随してくるスキルは、羊を追い立てる犬を操る『犬使い』と、羊に好かれる『羊愛され体質』だけだった。

 実際、治癒魔法超級を持つ幼馴染みのエルナに、少し嫉妬したことだってある。


「わかりますよ……その気持ち。ボクも大したことないのが二つだけですから……ちなみに王子様は、どんなスキルなんです?」


 慰めるように訪ねると、王子様は瞼を閉じて悲しげな顔を浮かべた。


「成長率増大さ」

「それ絶対強いヤツだ!」








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