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第3章その1 二次元ならむしろご褒美

(エルメンリッヒ様に怒られてしまった……)


 メトゥスとの戦いを終え学生寮の離れに戻ってきた私は、姫系天蓋付きベッドに寝ころび、枕を抱えてうだうだしていた。

 ついつい『様』呼びになってしまうのは、今の自分に彼を親しく呼ぶ権利はないと思うからだ。馴れ馴れしく呼び捨てになんて出来ない。


―お前は己の命を何だと思っているのだ! 死んでしまっては元も子もないのだぞ!―


(心配してくれたんだよね、あれって)


 発売前から、ミサと『銀オラ』の情報を見まくって、2人でキャラ妄想を膨らませて遊んでいた。 エルメンリッヒ様は真面目で言葉は厳しいけど、優しいタイプだろうって。きっと叱る時も根底には思いやりがあって、でも不器用だから怖くなっちゃうだけなんだって。


(だから、あの言葉自体にショックを受けたり傷ついたりは、してない)


 それに……


―戦力にならず己の役割も理解しておらぬ者を―


「事実だしねー……」


 自分が応援しかできないクソヒロイン状態なのは、自覚している。

 だけど、私の取った行動が間違っていたとも思わない。


(第1章の敵は回復さえ使えれば、そこまで苦戦する相手じゃない。それが使えなくても、こちらが3体であれば攻撃が分散されて、なんとかクリアできる強さだった)


 だから、私が非を認めて謝る……みたいなのも何となく嫌だ。


(いや、分かってるよ? 乙女ゲーならここで選択肢が出るって)



☆自分から謝りに行こう

☆向こうから何か言って来るのを待とう



(……ってね)


 そして当然好感度が上がるのは上の選択肢。だから私も、本当はそうすべきなんだろうけど……。


(やだ、怖くて行けない)


 恋愛シミュレーションゲームでいくらシミュレートしていても、現実の行動に移せないのは、私だけじゃないだろう。


 エルメンリッヒ様が意地悪や傷つける意図で、ああ言ったんじゃないことは理解している。それに、彼が不器用だが本当は優しい人と言うことも、キャラ設定読みつくして把握している。


(でも、目の前にいるんだよ?)


 二次元が三次元になっただけでも気後れやら畏怖やらしているのに、不機嫌なオーラを放たれたり、きつい言葉を投げ掛けられたら震え上がってしまう。しかもその原因がこちらにあるとなれば、なおさらだ。


 私みたいな対人スキルの低い人間は、この手の空気が本当に苦手なのだ。


(無理無理。とりあえずしばらくこの部屋に引きこもろう)


 ごろりと仰向けになり、大きく息をつく。

 ふいにミサの声が耳の奥に蘇った。


―一緒にサボってさぁ、クソ真面目そうなエルメンリッヒ様に城之崎ボイスで叱られたくない?

『学生としての責務も果たさず、お前は何をしているのか!?』って―


「ぶっふ!」


 思わず吹き出してしまった。


(ごめんね、ミサ。ミサの願い、私叶えちゃったよ。城之崎ボイスで、至近距離で叱られちゃった)


『なんですと!? それは我々の業界ではご褒美ですよ! いいなー!』


 きっとミサがここにいたら、そう言うだろう。こう思うだけで、妙におかしくなって笑ってしまった。今の姿をエルメンリッヒ様に見られたら、反省が足りないとまた好感度下げちゃうだろうけど。


(いや、お説教上等? むしろ、くどくどと小一時間城之崎ボイスで責めたてていただきたい。なんですかこれ、私個人のために制作された、責められシチュのボイスCDみたいな感じですか? うひゃっほぃ、ばっちこい!)


 誰が見ているわけでも聞いているわけでもない、頭の中なら言いたい放題だ。実際に目の前に立たれてお説教なんてことになれば、委縮してしまうだろうけど。


(目の前で実体化してるから怖く感じるけど、液晶越しならこれ、最高じゃないですか? 高貴で冷静な騎士が、感情を露わに声も荒げて『お前は己の命を何だと思っているのだ!』とか、萌え以外の何物でもないよね?)


 そう、液晶画面越しなら、さっきのシチュエーションも鼻血もののときめきイベントだ。お叱りの言葉もするすると耳に入る。悦びを伴って。


(何とかして導魂士の彼らとの対話を、液晶越しっぽく感じられるようにできないかな。アクリル板? アクリル板を持って間を仕切れば、ひょっとすると……)


 その時、扉を控えめにノックする音が二度聞こえた。


「へぁいっ!?」


 妄想大暴走状態だった私の全身が、反射的に跳ね上がる。


(え、エルメンリッヒ様来ちゃった? アクリル板用意する前にお説教タイム?)


 緊張でドキドキと騒ぐ胸を押さえ、私は震える声で返事をした。


「……どなた、ですか?」


「私ですよ、睦実。中に入ってもよろしいでしょうか?」


(シェマル!?)


「あの、シェマル、だけ?」


「はい、私1人です」


「どうぞ……」


 扉が開く。

 プラチナピンクの髪の優美な彼の後ろに、厳格な騎士が控えているのではないかと警戒したが。


(本当に1人だ……)


 私はほっと息をついた。


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