第一章 灼熱の火山 ver.3
今回はできる限り人物の背景を描こうと頑張りましたので・・・。
もしよければご意見・ご感想をお聞かせください。
では、どうぞ!!
翌朝、すっかり片付け終わった広場を後にし、一向はアディス山脈へ向かって歩いた。途中、険しい道のりが続いたがソウルは苦にも感じなかった。
「あのさ」
ソウルは、山道の途中ラドムに話しかけた。
「何でしょう?」
ラドムは、少し息が切れかけている様子だった。しかし、ソウルのことは無視できないと思い、返事をした。
「昨日は悪かったな」
ソウルは、ラドムの手の傷を見て心を痛めた。
「ああ、別に気にしないで下さい」
ラドムは軽くそう言い、また前を向いた。
「聞かないのか?」
ソウルは驚き、ラドムの顔をのぞき見た。
「何をですか?」
「いや、だから……どうして俺があんたを斬ろうとしたのか……」
ラドムは黙っていた。そしてついに、口を開いた。
「実は、最初からわかってたんです」
「どういうことだ?」
ソウルは意味がわからなかった。最初からわかっていた?何を言っているんだ?
「あなたのお父様は、私に剣を渡すときにこうおっしゃいました」
ラドムは何かを思い出すかように、目を閉じた。
扉が静かに開いた。訓練中の兵士達は、思わず扉に目を向けた。すると、そこには布でくるんだ白い包みを持つウッドが立っていた。
「ラドム、ラドムはいないか?」
ウッドは大きな声でラドムの名を呼んだ。彼がまだ兵隊長になったばかりの頃の話である。
「全員、訓練を続けろ!」
ラドムは兵士達に命令し、ウッドの元に駆け寄った。その間、兵士たちは訓練に精を出すことはできなかった。
ウッドは村一番の頭脳を持ち、村人たちからの尊敬を集めていた。しかし彼の酒癖はとどまることを知らず、酒に溺れやすくはなかったのだがコストの面で家族に大迷惑をかけることもしばしばあった。
「ウッドさん、お久しぶりです」
ラドムは、にっこり笑って挨拶した。
「おう。お前さんが、兵隊長になったって聞いたもんだから、ちゃんとやっていけるか心配でな」
「大丈夫です。ご心配にはおよびませんよ。それより、今日はどういったご用件で?」
ラドムは、ウッドに問いかけた。
「ああ、そのことなのだが、すこし頼まれてくれないか?」
ウッドは、静かに包みを開けた。そこには銀色に輝く一本の剣があった。
「武器の調整ですか?しかし、研いだり鍛えたりしなくとも立派にみえるのですが……」
ラルドはウッドから剣を受け取り、しばらく眺めた。
「これは……」
しばらくしてウッドが口を開いた。
「これはただの剣じゃない」
「ええ、見ればわかりますよ。こんな立派な剣、生まれて初めて見ました。いくらでご購入されたのですか?」
ラドムは剣を一振りした。振るたびに何か強い意志のようなものを感じた。
「これは、アディス山脈の奥深くに封印されていた、古の剣だ」
ラドムはぴたりと手を止めた。
「先日、我々調査団がアディス山脈に伝わる歴史を調査するため、いつもよりも奥深くに入ったときのことだ。そのときにこの剣を見つけた。まるでこの剣に意志があるかのように、我々の目の前に突如現れた」
「私も自分の目がおかしくなったとでも思った。しかし、剣はしっかりと地面に突き刺さった」
ラドムは驚愕し、言葉もでなかった。
「わ、私はこの剣をどうすればよいのですか?」
ラドムははっきりしない言葉で、ウッドに聞いた。
「この剣を……時が来たら、私の息子に渡してくれ」
「息子さんといえば、ソウルさんですか?」
「ああ」
ウッドはうつむきながら続けた。
「頼む! 理由はきかんでくれ! とにかく、……時が来れば息子に渡してほしい」
「わ、わかりました。ですが、時とはいつのことですか?」
ウッドは真剣な顔で答えた。
「それは、お前さんに任せる。ソウルのことだから、お前さんのことを怒るのではないかと思う。そりゃあ誰だって自分の父親からのものなのに、知らんやつから剣を授けられるのは気持ちのよいものではない。もし、あいつがお前さんのことを斬ろうなんてことをすれば、その時は……よろしく頼む」
ウッドはそう言い残し、訓練所を出て行った。ラドムはしばらく呆然と立ち尽くしていたが、兵士に声をかけられ我にかえった。
「あのときは、やはり親子だなあと感心しましたよ」
ラドムは、明るく笑ってみせた。ソウルはたったの半刻ほどで、いろいろなことを知りすぎてしまった。自分の父親がそんなことをしていたとは考えたこともなかった。それよりも自分の背負っている剣のことも気になった。ソウルの頭の中はパニックに陥った。既に疲れさえも感じていなかった。しばらくソウルは無言のまま歩いた。
「すみません。今この話をするべきではありませんでした……」
ラドムは、申し訳なさそうにうつむいた。
「いや、話してくれてありがとう」
ソウルは静かにそう言い、二人はまた無言になった。
ちょうど山の中腹に差し掛かったあたりの広い場所で、休息をとることになった。しかしこの場に長居するつもりはなかったので、天幕は立てずに各々が手近な岩に腰掛けた。
ソウルは岩に腰掛け一息つくと、荷物の袋から冷え切った水と昨晩に残しておいた肉を取り出した。
昨晩の夜はキャンプで、簡単に焼かれた肉が全員に配られたので、ソウルは今日のために少し残しておいた。ソウルがにやりと笑い、口に肉の塊を詰め込もうとした矢先、空中を飛んできた獰猛な鳥にすばやく持ち去られてしまった。
「お、おい!! 俺の肉、返せ!!」
ソウルは飛び行く鳥に向かって大声で叫んだが、声がむなしくこだましただけであった。
「ちぇっ」
ソウルはふて腐れて、ドスンと地に腰を着いた。ソウルはふと気づき、はっとしてあたりを見渡した。兵士たちは、ソウルのみっともなさに笑いをこらえていた。
「なっ!! 何だよ!! 悪いかよ!!」
ソウルは顔を背けてため息をついた。そのとき、顔を背けた先にいた人物に目が止まった。ソウルはぷっと噴き出すと、腰を上げて一歩一歩足音を立てずに忍び歩きを始めた。その場にいた兵士たちはソウルの心情を悟り、息を呑んでソウルを見守った。
ソウルは一人、自分に気づいていない人物の元に歩み寄った。そっと静かに、だが確実に近づいている。その人物の真後ろまで近づいた。兵士たちの視線はソウルに釘づけになっている。
そしてその人物が袋から小さく丸めた肉の塊を取り出し、口に運ぼうとした瞬間、ソウルは肉に向かってすごい勢いで手を伸ばした。
「もらった!!」
ソウルの手が肉に触れそうになった瞬間、視界から獲物が消えた。
「えっ!? おっと!!」
ソウルは勢いを止めることができず、前のめりにそのまま倒れた。どっと笑い声が上がった。
兵士たちはみな腹を抱えて笑い出した。ソウルは恥ずかしさのあまり少しの間、顔を上げることができなかった。そしてソウルはちらりと顔を上げて振り向くと、ラドムが口に肉を放り込む姿が目に入った。
「ひどいなぁ。ぎりぎりでかわすなんて卑怯だぜ?」
ソウルは体を起こすとくるりと振り向いた。
「甘いですよ。もっと周りの状況を把握しておかないと。急にみんなの話し声が消えるなん
て、どう考えても不自然です」
ラドムは水を一口飲むと、にっこりと笑った。ソウルは兵士たちを睨みつけると、兵士たちは急いで知らないふりをした。
「あぁ。腹減ったなぁ」
ソウルはわざとらしい大きな声で言うと、その場に座り込んだ。ラドムは袋に手を突っ込むと、中から一塊の大きな肉を取り出し、ソウルに向かって投げ渡した。ソウルはあわてて肉を受け取るとラドムに疑問の表情を投げかけた。
「少食なんですよ、私」
ラドムはさりげなく言葉を口にすると、袋を片づけた。ソウルは満面の笑みでラドムに駆け寄りその隣に座った。
「おいおい照れるなよ?実は俺に渡そうと思って取っておいたんじゃないのか?」
ソウルは肘でラドムのわき腹をつついた。
「返してくれてもかまわないのですよ?」
「……ごめん。ありがとう」
ソウルはしゅんと静まり返ると、すばやく肉にかじりついた。まだやわらかく、口のなかに旨みがしみわたった。
「なぁ、ラドムの小さい頃ってどんなだった?」
ソウルは口に肉を含んだまま、ラドムに話しかけた。
「小さい頃、ですか?」
「うん」
しかし、ラドムは黙りこんでしまった。できる限り、過去には触れたくないといった表情だ。
「私は……ティセフで生まれ育ったわけではありません。遠くの国から越してきたんです。それに、小さい頃の記憶がほとんど思い出せない。……いや、思い出したくないだけかもしれません。」
ソウルは空気を重くした責任を感じ、小さくごめんと呟いた。ラドムは腰を上げると歩き始めた。
「誰にでも、知られたくない過去ぐらいありますよ」
ラドムは片手を挙げ、歩きながら兵士たちに合図した。ソウルは残りの肉を急いで口に詰め込むと、立ち上がってラドムの後を追いかけた。
数時間後、一向は既に山のふもと近くまでたどり着いていた。そこには黒い煙をあげるアディス山脈の姿があった。皆、一歩ずつが慎重な足取りになった。ソウルはつばを飲むと、気を引き締めなおした。
次回からはいよいよ火山へ突入です。
・・・(未確認)
また読んでください!!
ではでは。