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自分の気持ちに素直になる事

佳奈の身体を洗い終わってから次は俺自身の体へ。


先に湯船に佳奈を浸からせては滑って沈んだ時に溺れる危険性があり、とりあえず佳奈を鏡と反対にある壁へともたれかからせた。


俺は佳奈に背中を向けて鏡の方を向き、佳奈からは俺が邪魔で鏡に映る俺は見えない。


完璧だ。


椅子は佳奈が使ってるので中腰のままシャンプーで頭を洗い始め、そして次に身体へ。


たまにチラリと鏡越しの佳奈の様子を伺いつつそれほど時間をかけずにぱぱっと全身を洗った。


「さて、じゃあ浸かるか。」


タオルを巻き直してから振り返り、佳奈を持ち上げる。


そして佳奈を抱えて浴槽に入ると、ここで俺はとてつもなく重大な決断に迫られた。


向かい合って浸かるか、俺の前に座らせるか、である。


本来、本当に佳奈が動けないというのなら向かい合って座るのは少し危険に感じなくもないところなのだが......。


「お兄ちゃん、固まってどうしたの?」


「いや、お前をどうやって浸からそうかと思ってな?」


「どうってお兄ちゃんの膝の上でいいよ?」


「............そう...だな。」


佳奈は表情一つ変えずに平然と言ってのけた。


昼の風呂では、俺が平静を装って恥ずかしがってた佳奈をリードしていたが、今やまるで立場が逆転したかのようだ。


そして佳奈を抱えたまま腰を下ろし、佳奈を俺の太腿の上へと座らせる。


そして力を抜いている佳奈は自然と全体重を俺の方へと預け、体がピッタリと密着した。


小柄な佳奈の濡れた髪が俺の顎あたりに軽く触れて、シャンプーのいい香りが鼻に香る。


そして何より気になるのが俺の太腿。


抱っこや、洗う時にも多少なりとも触ってはいるが、佳奈の柔らかいお尻が俺の太ももに直接触れるとどうしても意識してしまう。


「............。」


「............。」


............だぁあ!ダメだ!


こんな時に静寂な時間はいらん!


何か話題、何か話題......、


そう頭を回転させるがこういう時に限って何も出てこず、結局それから暫く二人無言の時間が流れるのだった。


そして俺の頭もだいぶ落ち着き、無言の空間にも慣れた頃、ふと小さく零す。


「なんか妙な感じだな。」


「え?」


「昨日までは今こうしてるなんて想像も出来なかった。」


「そう……だね。」


佳奈は小さく返した。


今日だけで何度こう思った事だろう。


全ては俺が佳奈を避けていたせい。


だから今、佳奈とこんな時間を過ごしているのには少しの罪悪感と佳奈への感謝を感じざるをえない。


そんな事を考えながら片手は滑らないように佳奈のお腹に手を回し、もう片方の手で佳奈の頭を撫でた。


そしてまた暫く時間が経ち、今度は佳奈が口を開いた。


「ねぇ、お兄ちゃん。」


「ん?」


「もしもだよ?もしも私の体が治ってまた元気になったら、それでもまた今日みたいに一緒に遊んでくれる?」


その佳奈の言葉にはもう一切の不安は感じられず、もう答えが分かっているようだった。


そして俺も佳奈の予想を裏切らないただ1つの答えは決まっている。


「そんなの当たり前だろ。」



お風呂で散々お兄ちゃんの身体の感触を堪能してからのぼせるギリギリのラインでお風呂をあがった。


脱衣場は少し涼しくて温まりすぎた身体には凄く気持ちがいい。


「どうする?下着変えるか?変えるならまたとってくるけど。」


「あー、んーん。さっきので大丈夫だよ。」


「そっか。」


だって本当はあんまり汗かいてなかったしね。


それからお兄ちゃんはもう今日一日でだいぶ慣れた様子でタオルで私の身体を拭いて下着を付けた。


思えば最初は力を抜く事に疲れてた私もお兄ちゃんと同じく今日一日で随分と慣れたものだ。


そして再びパジャマに着替えると脱衣場にある椅子にお兄ちゃんが見えない角度で座らされて私の死角で服を着るお兄ちゃんを待つ。


まったく。私の体を洗う時はあんなに男らしいのにこれじゃあ見る影もないよ。


「さて、じゃあ行くか。」


「うん。」


着替え終わったお兄ちゃんは私の体を持ち上げるとママが待つリビングへと戻った。


「湯加減どうだった?」


「うん、バッチリだったよ!」


色々とっ!


グッ!て親指を立てたい衝動を抑えつつ、目でお礼を伝える。


「あら、そう。それは良かったわ。」


ママは嬉しそうにふふふっと笑みを浮かべた。


「じゃあ次入るわね。」


そう言うとママは着替えを持って脱衣場の方へと向かった。


「さて、じゃあ髪乾かすか。」


「うん。」


昼と同じ要領で私を座らせるとお兄ちゃんはドライヤーのスイッチを入れた。


「あ、そういえば佳奈。」


「何?」


コーッ!とドライヤーで私の髪を乾かしながらお兄ちゃんは続ける。


「...今までごめんな。」


「え?」


「佳奈も気づいてたと思うけど、俺はお前を避けてた。」


「...............。」


......うん、知ってた。


「でも、嫌いだったわけじゃないんだ。俺にも俺なりの考えがあって、それが最善だと思ってた。」


「...............。」


「でも、.........今日、佳奈がこんな事になってようやく気付かされた。最善なんてどうでもいい。自分の気持ちに素直になる事、それが一番だって。」


それって.........っ!?


「............好きだ。」


お兄ちゃんの声は小さくて、ドライヤーの音に掻き消されそうだったけど、ずっと、何年も待ち望んだその言葉は私の耳にしっかりと届いた。


「私も大好きだよっ!お兄ちゃん!」




朝になり、目覚ましの音で目を覚ました俺はいつも通りの時間に一階へ降りて朝ごはんの準備を始めた。


そして俺が起きてからちょうど30分。


タッタッタッという階段を降りる足音が聞こえ、


「おはよ、お兄ちゃん。」


佳奈がいつも通り元気そうにリビングに入ってきた。


「おう、おはよう。もう体は大丈夫なのか?」


「うん!なんか朝起きたらもう何ともなくなってた!」


「そ、そうかっ!」


もっと他にないのかよ......、そんな軽い風邪だったみたいなノリで...。


まぁ、俺も大概だが。


「昨日はごめんね。心配かけて。」


「気にするな。お前が元気になってくれて良かった、本当に良かったよ。」


俺は佳奈の頭を軽く撫でて、佳奈と向かい合って椅子に腰掛ける。


「じゃあ、食べるか。」


「うん!いただきます。」


「いただきます。」


そして佳奈と一緒に朝食のトーストを頬張りながら胸中、昨日の出来事を思い返す。


とてつもない心配や不安、そして安心や興奮、それに決意。


あれだけ感情の詰まった1日、一生忘れることはないだろう。


そして俺は誓うのだった。


『この事は墓場までもっていこう』


と。

これにて完結となります。


最後まで読んで頂きありがとうございますっ!


読んでくださった方々、感想や評価をしてくれた方々のお陰で、最後まで楽しく書く事が出来ました。


本当にありがとうございました。


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