夕食はアツアツ
「ふぅ、こんなもんか。」
佳奈のベッドを綺麗にしてから一息つく。
若干手間取り、時間はかかったが、まだ佳奈が小さい頃に香恵さんがやっているのを見ていてよかった。
「さて、と。戻るか。」
そう一人小さく溢して一階へ降りると、佳奈は俺が下にいた時と同じくソファに座り、香恵さんはキッチンで黙々と料理の方を進めていた。
「お兄ちゃん、ごめんね。ありがと。」
「おう。」
申し訳なさそうな佳奈の頭を撫でてあげていると佳奈は嬉しそうに目を細めた。
「二人とも、もうすぐ出来るわよぉ。」
と、いいタイミングで後ろから香恵さんの声が掛かった。
「運ぶよ。」
「助かるわ。」
キッチンに行って取り皿、それにサラダが盛り付けられた大皿などを机へと運ぶ。
そして皿を運び終わったら次はもちろん佳奈だ。
「持ち上げるぞ?」
「うん!」
今日だけで散々お姫様抱っこしただけあり、結構慣れた俺は佳奈を軽く持ち上げると昼と同じように俺の隣の席へと座らせた。
「出来たわよぉ。はい、小籠包。」
「おぉ、かなり綺麗に出来てるな。」
「まぁね。お店やってるから。」
「………そう……だな?」
まるで本格中華料理屋で出されるような見事な小籠包。
香恵さんは自慢げに胸を張ってるが香恵さんが経営してるのは中華料理屋じゃなくて喫茶店だ。
もちろん小籠包なんて出していない。
「わぁ、美味しそう!」
佳奈の言う通り見た目はめちゃくちゃ美味しそうだ。
俺の料理は大体香恵さんの見様見真似だが、香恵さんは本当に料理がうまい。
「じゃあ食べましょうか。」
「そうだな。頂きます。」
「「いただきます。」」
3人手を合わせると、香恵さんと俺はさっそく美味しそうな小籠包へと箸持つ手をのばした。
そして自分の分と佳奈の分の2つを受け皿にとり、さっそく1つを自分の口へと放り込む。
「あっつ!!」
噛んだ途端に口の中へ広がる旨味とそれを遥かに上回る熱すぎる汁。
「お兄ちゃん大丈夫?!」
「ほ、ほふ、はひほうふ。」
猫舌ではない方だが、これは中々だ。
心配そうに声をかけてくれた佳奈に手で大丈夫と合図を向けつつ、滑舌の皆無な口で返した。
それから悪戦苦闘しながら口の中で冷ましてやっとの思いでそれを飲み込んだ。
「…ふぅ、まぁ、美味かったけど。」
「もう、お兄ちゃんは猫舌ね。」
…………は?
俺と同じタイミングで1個目を頬張った香恵さんの余裕のある声に香恵さんの方を見てみると、早くも二個目に手を伸ばしてそれを迷う素ぶりなく口へと放り込んだ。
「んー、小籠包、初めて作った割には美味しいわね。」
こんなに美味しく綺麗に作っていて初めてなのかよ。
………そしてなぜ平然とこれを食べられるのか。
二重の意味で驚きだ。
「ねぇ、お兄ちゃん、私も食べたい。」
「お、おう。」
隣から掛かった声に佳奈の箸を手に持って受け皿に置いていた小籠包をつまみ上げた。
「これ、多分熱いけど大丈夫か?」
「お兄ちゃん、フーフーして。」
いや、首から上は動かせるんだから自分で出来るだろ。
とは一瞬思いつつも何も言わずにフーフーと小籠包に息を送る。
暫くして表面が冷めた頃には佳奈は待ち遠しそうにソワソワしていた。
「そろそろいいか?」
「ん。」
「あ、あーん。」
「あーん。はむ……っ、」
◆
......私はバカだ。
お兄ちゃんがフーフーしたのを美味しく食べようと思って熱いものを即座に考えて、そして注文を出した小籠包。
まさかこんなに熱いなんて思わなかった.....。
フーフーしてもらったら冷めると思ってたけど中はすぐには冷めずに口の中が溶けそうなほど熱くてお兄ちゃんの息がかかっている事なんか何処かに吹っ飛んでしまう。
「あっふ……、」
「だ、大丈夫か?一旦出すか?」
「やらっ!」
お兄ちゃんは急いで受け皿を私の口元へと伸ばすけど、一度口の中に入れたものを出すのはかなり恥ずかしい。
今思えばそもそも何故小籠包と言ってしまったのか。
フーフーしてもらうだけなら別に小籠包じゃなくてももっと他にあっただろうに。
「ほんとに大丈夫か?!泣いてるじゃねぇか。」
そりゃ涙くらい出るよ!熱いんだもんっ!
それから一人パクパクと平気そうに食べていくママを除いて私とお兄ちゃんは半分に割って冷めるのを待ちながら食べ進めた。
ただ、冷めるのを待つが故にもうフーフーをしてもらう事もなく、小籠包は美味しかったけど私の思惑は完全不発に終わるのだった。
◆
「「ごちそうさま。」」
「お粗末様。」
夕食を終えると佳奈を再び抱っこしてソファへと運んだ。
「さて、そろそろお風呂沸かそうかしら。」
香恵さんはそう言いながら風呂場の方へと向かった。
「お風呂か。佳奈はどうする?」
「さっきの小籠包で汗掻いちゃったからまた入りたい。」
「そうか。」
まぁ、今は香恵さんがいるからな。昼みたいな事にはならないだろう。
そう考えていると風呂を沸かす準備を終えた香恵さんが戻ってきた。
「佳奈はお兄ちゃんが入れてあげるのよね?」
「………は?」
サポートの話どこいった?!
「いや、でも香恵さんがいるなら俺よりも香恵さんに入れてもらった方がいいだろ?!」
「え?別にもう見られちゃってるし私はお兄ちゃんでいいよ?」
「…え?」
それから佳奈と香恵さんによる静かな視線に見舞われ、俺は1つ息をつくと渋々佳奈を持ち上げるのだった。
そして脱衣所へと行き、もう二度目という事もあり慣れた手つきで佳奈を脱がす。
まさか1日に妹の服を脱がして着せて、また脱がす事になろうとは。
「ん?あんまり汗掻いてなくないか?」
ふと気になって脇筋をスルリと人差し指で撫でてみるとサラサラで全く汗をかいたようには感じない。
そもそも佳奈は昔から汗を掻きにくい体質だったはずだ。
「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん!その辺弱いんだってばっ!」
「……そ、そうか。」
俺の問いは完全にスルーさせたが今日の佳奈の様子からして聞いても無駄だな。
「じゃあ、入るか。」
「お兄ちゃんは脱がないの?」
俺が風呂場の扉に手を掛けた所で佳奈はそんな事を口にした。
「………は?」
「だって浸かるんだし、お兄ちゃんも脱がないと、だよ?」
確かにお風呂に浸かるのなら体を動かせない佳奈を一人で入らせるのは危険で俺も一緒に入った方が良いのだろうが………。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「……そう、だな。ちょっと待ってくれ。」
そう言ってから風呂場の扉を開き、昼と同様、壁にもたれるように佳奈を座らせると一旦脱衣所へと戻った。
そして服とズボン、それにパンツを洗濯機の隣、網棚へと適当に畳んで置く。
「……さて、」
問題はここからだ。
といっても妹の全裸を俺は見てしまってるし俺だけ隠すというのは少し男らしくない気はしないでもない。
だから本当はここは男らしく堂々と全裸で入っていくべきなのだろうが。
「せめてこれくらいは許してもらおう。」
見せないのも礼儀。
網棚に重ねられたタオルを1つ手に取るとそれを広げて腰へ巻き付ける。
「おまたせ。」
「……え?」
佳奈が待つ風呂場へ入ると如何にも絶望したという表情の佳奈。
その視線は俺の腰に巻いているタオルに向かっていた。
「ん?どうかしたか?」
◆
さすがママ!
ナイスサポートだよっ!
今日、二度もお兄ちゃんと一緒にお風呂へ入れる上に、お風呂にお湯を張ってくれたお陰で介護みたいなのじゃなくて、正真正銘、裸の付き合いが出来る。
お兄ちゃんのことだから脱ぐのは躊躇うと思ってたけどなんかあっさり脱衣所に戻って行っちゃったし、なんか今日は本当に急接近って感じかも。
なんてテンション高めにそんな事を考えていると、閉じられていた脱衣所との扉が開かれた。
「おまたせ。」
「……え?」
お兄ちゃんの程よく筋肉の付いた綺麗でかっこいい体。
あまり私の前で服を脱ぐ事はなく上半身だけでも興奮して声を荒げたい所だったけれど、そんな事よりも今、私の視線はお兄ちゃんの腰に巻かれたタオルに一点集中していた。
「ん?どうかしたか?」
「お兄ちゃん、そのタオル、何?」
「ん?まぁ一応、な。」
「…………………。」
もう!お兄ちゃんだって分かってるでしょっ?!
「どうかしたか?」
私渾身のジト目をお兄ちゃんはあっさり惚けて返す。
「…別に。」
「そっか。じゃあまず髪から洗うぞ。」
「…うん。」
それから昼と同様、お兄ちゃんは私の髪を丁寧に洗ってくれた。
最近でもママとはたまに一緒にお風呂に入って洗い合いっこをする事はあるけど、やっぱり自分で洗う時よりも人に洗ってもらうというのは数段気持ちがよく、それに加えてお兄ちゃんの大きな手で包み込まれるように洗われるのは更に気持ちがいい。
そして髪を洗い終わると次は体。
「お兄ちゃん、手で優しく洗うのは腕とおっぱいまで!それ以外はタオルでお願い。」
昼に地獄を見た。
敏感な脇腹は勿論、足の指の間なんかはくすぐったくて仕方がなく、二度と同じ失敗をする訳にはいかない。
「ん、りょうかい。」
お兄ちゃんは手にボディーソープを出して両手に馴染ませると真っ先に私の胸へと押し当てた。
「…………。」
私の小さな胸なんて遠慮する必要ないと適当にそこから洗ったのか、それとも私の胸を触りたくてそこから洗ったのか...。
後者ならいいなぁと心静かに思いながら私は体を洗われていくのだった...。
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