母の気持ち
皿洗いを終えて佳奈の元へと戻ると、佳奈はもう既にいつもの様子に戻っていた。
「ねぇ、これからどうする?」
「ん、何が?」
「だってまだ2時過ぎだよ?」
「......たしかに。うーん、ゲーム...は出来ないし、寝るには早いし......何か話でもするか?」
「うん!お話しよ!」
「何か話したい事でもあるのか?」
「んーん、別にないけど、とにかくしよ!」
「あ、あぁ。......じゃあ、前にこんな事があったんだけどさ...、」
それから俺達はお互いに笑い合いながら最近の面白かった出来事や、あまりオチの見つからない話をひたすら交わした。
今までは俺が距離を置いてたせいで長い間話すという事は全く無かったが、話していると会話が途切れる事は殆どなく、時間が経つのも忘れて俺達は話をした。
そして俺達の会話が止まったのはそれから3時間が過ぎた頃だった。
「ただいまー。」
「「えっ?!」」
玄関の扉が開き、聞こえたのは香恵さんの声だった。
佳奈に仕込まれて、あらかじめ遅くなると聞いてただけに1度は帰ってきてくれと電話を掛けた俺もびっくりだ。
「お、おかえり。どうしたんだ?今日は遅くなるんじゃ?」
「それなんだけど、予定キャンセルされちゃってね。」
「......ちょっといいか?」
「えぇ。」
佳奈のいる所ではとても話せないので、香恵さんに声を掛けて場所を移した。
「佳奈に帰ってこないように言われてたんじゃなかったのか?」
「うーん、そうなんだけど、助けてって電話もらっちゃったから。もしかして邪魔だったかしら?なんならこれからまた出掛けるわよ?」
「あ、いや、もう大丈夫だ。」
「そう。うん、もうすっきりした顔ね。嬉しいわ。」
香恵さんはにっこりと笑った。
「……本当に良いのか?」
「佳奈の事?」
「あぁ。」
「電話でも言ったでしょ。私は別に構わない、んーん、むしろくっ付いてくれた方が安心ね。」
「安心?」
「だって佳奈の事を任せるのに佳奈の事を一番よく知っていて一番愛してくれてる人ならそれ以上の適任はいないでしょう?」
「…………。」
たしかに佳奈の事は好きだが、愛してると他の人に言葉にされると反応に困る。
「で?あの子はもう嘘だって白状したの?」
「……いや。」
「という事は予定通り明日の朝まで嘘を突き通すつもりね。」
「…まじかよ。」
「まぁ、ここからはまかせなさい。サポートするから。」
◆
「ママ、どうして帰ってきたの?!」
タイミングよくトイレに行ったお兄ちゃんがいない間に予定と違うママに声を潜めつつ問いただす。
「ごめんね、やっぱり不安になっちゃって。もし邪魔ならまた出掛けるけど、首尾はどうなの?」
「......最高。」
ついついニマァと頬が緩む。
「そう、それは良かったわ。」
「あ、その......ありがと。ママのおかげ。」
ママは前々からこの作戦を私と一緒にずっと考えてくれていた。
ここまでバレずに、さらにお兄ちゃんを墜せた。こんなに上手くいったのはママの助けがあってこそと言っても過言じゃない。
すると、ママは唐突に私の頭を優しく撫でた。
「んーん。これは佳奈が頑張った成果よ。おめでと。」
「ママ.........。」
「で、私はこれから佳奈の嘘がバレないサポートをすればいいのかしら?」
「うん!」
「任せて。」
◆
「二人とも今日の夜ご飯は何がいいの?」
「夜ご飯......あ、もうこんな時間か。」
時間を忘れて佳奈と話していたが時計を見ればもう5時をまわっていた。
まぁ、昼ご飯が遅くて2時頃だったからさほどお腹は空いていないが。
「んーっと、私は......あ、小籠包食べたい!」
何故そのチョイス?!
佳奈の少し悩んだ末に出したかなり斜め上な注文に俺と香恵さんは揃って目を点にした。
「......あー、うん。俺も別にそれでいいよ。」
「そう、じゃあ、小籠包ね。」
「手伝うか?」
「んーん、大丈夫よ。お兄ちゃんは佳奈と遊んでて。」
「そっか。分かった。」
「お兄ちゃん、さっきの話の続き!」
「あ、あぁ。そうだな。どこまで話したっけ?」
「お兄ちゃんの友達が女の子4人に同時に告白されたってとこまで。」
「あぁ、そうだったな。で、それから.........あ、やばい、忘れてた。」
香恵さんが帰ってくるまで話していた話の続きをしようとした時、すっかり忘れていたあの事を思い出して、話を止めた。
「何を?もしかして5人目?」
「じゃなくって、佳奈、お前の、その.........お漏らしの処理だよ。」
「はぅっ.........。」
佳奈の体を洗うので一杯一杯になっていて一度佳奈の部屋に行ったにも関わらずシーツや布団の事をすっかり忘れていた。
「あらなに?佳奈、漏らしちゃったの?」
「だ、だって動けないんだもん!」
「...............そ、そうね、動けないんなら仕方ないわよね...。」
香恵さんにお漏らしの事を聞かれた事で佳奈は顔を真っ赤にして叫んだ。
一方で佳奈が動けないというのが嘘だと分かっていて、尚且つ俺も分かっている事を知っている香恵さんは引きつった笑顔を浮かべるとそう言ってキッチンへと向かった。
「じゃあ、俺もちょっと処理してくるな。いま何かしてもらいたい事とかあるか?」
「.........ない。」
「そ、そうか。じゃあぱぱっと済ませてくるな。」
◆
あぅ、せっかく忘れかけてたのに思い出したらまた恥ずかしくなってきちゃった。
「佳奈?何もお漏らしまでしなくても良かったんじゃないの?」
ママはお兄ちゃんが二階へ向かった後に近づいてきて小さくそう聞いてくる。
「だ、だって、お兄ちゃんが最悪のタイミングで帰ってきたから.........。」
私だってしたくてしたんじゃないもん。
「そ、そう。」
って、私も思い出したっ!
「ママ!一つお願いがあるの!」
「どうしたの?」
「トイレ行きたい。連れてって!」
もういつからだろう。ママが帰ってくるよりも前からずっと我慢していた私の膀胱は今にも張り裂けそうだった。
お兄ちゃんが今は上に居るとはいえ、下に来た時にばったり会って動いているのを見られては全てが台無しになる。
お兄ちゃんとの話が楽しくって気が紛れていたけど、思い出した今ではみるみる内に尿意が増してきた。
「漏れるぅ、早く!」
「え、えぇ。」
段々と限界が近づいてくる私の真っ青な顔にどれだけ危ないのかを察してくれたママは私を抱き上げた。
「もう、どうしてお兄ちゃんがいる時に連れて行って貰わなかったのよ。」
「絶対無理っ!」
ママは呆れたようにそう言うけど、出来るはずがない。
そりゃお兄ちゃんに頼めばすぐにトイレに連れて行って貰える。
けど、それはつまり、トイレで私がやるべき事を全てお兄ちゃんにやって貰うということだ。
パンツを下ろして便座に座る、ここまでは良い。
問題はその後、用を足してからだ。
おしっこで汚れたあそこを拭いてもらうのはもちろん、臭いや、水で流す時にトイレの中でも見られようものなら私は恥ずかしくて死んでしまう。
あ......でも、既にお漏らしで臭いは............考えるな私っ!
「はい、着いたわよ。」
ママはガチャっと扉を開くと私を抱き抱えたまま便器の蓋を開けて私を座らせた。
「じゃあ、終わったら言ってね。」
「ありがと。」
そう口にした時、もはや限界寸前で私の目には涙が浮かんでいた。
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お漏らしの処理、実はお兄ちゃんじゃなくて私が忘れていたりして.....。