46 報酬の算出方法
アキラがCWH対物突撃銃の専用弾を使用していることにレイナが気付く。そして床に散らばっている予備の弾倉も全て同じ専用弾であることに気付いた。
専用弾の価格と威力を知っているレイナが驚きながらアキラに尋ねる。
「どうしてCWH対物突撃銃の専用弾なんか持ち込んでいるのよ!? ヤラタサソリを相手に使う弾じゃないわよね!? アキラだけ戦車でも狩りに来たの!?」
「俺の実力不足を補うためにできるだけ良い弾を用意しただけだ! 戦車なんかと戦う訳がないだろう!」
「こんなに大量の専用弾をどうやって用意したのよ! この量の専用弾だと相当な額になるはずよ! そんなに稼いでいるの!?」
「弾薬費は依頼元持ちだ! CWH対物突撃銃の専用弾を山ほど使うって了承も取った! 嫌なら依頼を受けないってごねたんだ! そういう条件を出せば向こうから断ってくるって思ってな! そんな条件が通ったから俺はここにいるんだよ! 今思えば、依頼元の都市の連中、こういう状況が十分あり得るって知ってやがったな!」
全ては後の祭りだ。アキラはこの経験を今後に生かそうと強く誓った。
レイナがシオリを見る。シオリがこの状況をどこまで想定していたか気になったからだ。因みにレイナはそこまで想定はしていなかった。
シオリがレイナの疑問に答える。
「……可能性としてはあり得ますが、その可能性はかなり低いと想定しておりました。防衛地点に配備されている全員で応戦すれば危険度はかなり低下したかと」
シオリに痛いところを突かれたレイナが目を泳がせる。レイナがここにいるのはレイナの我が儘が理由だからだ。カツヤ達と一緒に残っていれば現在の事態は生まれていないのだ。
シオリが急に機敏な動きで通路の中央に飛び出して銃撃を開始した。レイナが思わずその方向を見ると、ヤラタサソリが無数の銃弾を浴びて死んでいた。
アキラの横を抜けたヤラタサソリは一匹もいない。レイナが驚きながら疑問を口に出す。
「こいつらどこから来たの!? 穴はここだけじゃないの!?」
「お嬢様! 来ます!」
数は少ないものの、新手のヤラタサソリ達が通路の左右からアキラ達に迫ってきている。レイナとシオリが左右それぞれのヤラタサソリ達の迎撃を開始する。
アキラが叫ぶ。
「近くに別の穴があるなら数が少なすぎる! 多分15番防衛地点以外の場所に向かったヤラタサソリ達が戻ってきてるんだ! こっちは手一杯だからそっちで何とかしてくれ!」
「分かったわ!」
レイナの返事に、アキラが焦りを含んだ声で続ける。
「頼んだぞ! 本当に頼んだぞ! 頼んだからな!」
アキラが必死になって叫んだ。アキラには穴の先から来るヤラタサソリの群れを相手にしながら、背後から襲ってくるヤラタサソリも相手にするのは荷が重い。今のアキラにはレイナ達の援護が必要だ。
レイナは一瞬だけ驚きの表情を浮かべたが、すぐに力強く笑って答える。
「……任せなさい!」
いち早くヤラタサソリの群れの襲撃に気づき、その後も一人で大量のヤラタサソリを押し止めるアキラの姿は、レイナがアキラの実力を認めるのに十分なものだった。アキラのレイナに対する評価も含めて、レイナが軽い劣等感すら覚えるほどだった。
そのアキラが、レイナを頼りにしている。レイナの実力がアキラに認められている。その実感がレイナの士気を大幅に上昇させ、レイナの頭から自身の実力不足を嘆く悩みを、焦りと苛立ちでレイナの足を引っ張っていた要素を消した。
レイナは次第に数を増していくヤラタサソリ達を迅速に撃破し続けていく。類い稀な才能の片鱗を輝かせながら、自身の精神が研ぎ澄まされていることを自覚しながら、会心の笑みを浮かべて戦い続けていた。無数のヤラタサソリを嬉々として蹂躙し続けていた。
レイナの様子を確かめながら戦っていたシオリが、そのレイナの動きを見て驚いている。レイナは俊敏に、的確に、優雅さすら感じさせて戦っていた。
(……ここまでとは。お嬢様の才能を見誤っておりましたか。しかしなぜ急に……?)
シオリはレイナの成長を嬉しく思いながらも、急に腕を上げたレイナの姿に疑問を覚えた。しかし好ましい変化ではあるので深く考えはしなかった。第一今はそれどころではないのだ。
レイナとシオリはアキラの背後でこの場にいるのに相応しい実力を披露し続けていた。
アキラは必死にヤラタサソリの群れの迎撃を続けていた。
アキラはCWH対物突撃銃の弾倉を何度も交換し、高価な専用弾を惜しげもなく消費し続けている。依頼元が弾薬費を負担していなければ、アキラの財政状況は遙か昔に破綻している。クガマヤマ都市の財力でアキラの実力を底上げしていると言っても良いだろう。
アキラは辛うじてヤラタサソリの侵攻を防いでいた。アルファのサポートと都市の財力。アキラのものではない力でアキラは今日も生き延びていた。それでもアキラはぎりぎりだった。
『アルファ! 幾ら何でも多すぎないか!?』
『押さえ続けてはいるのだから焦らずに戦いなさい。泣き言を言っても敵が減ったりはしないわよ』
『この調子だと、予備の弾薬なんかすぐに使い切るぞ!?』
『その時は死ぬ気で走りましょう。アキラの両脚を犠牲にすれば、多分逃げ切れるわ』
アルファがアキラの強化服を操作することで、体の負荷を無視してアキラを全力で走らせ続ければ、アキラがヤラタサソリの群れから逃げ切るのは恐らく可能だ。もっともその場合にアキラに掛かる負荷は相当なものになる。アキラもそれは十分理解しているのでできるだけその手段は使いたくなかった。
『そ、それはギリギリまで粘ってからにしてくれ!』
『勿論よ。予備の弾薬を使い切るまでに敵の増援が止むか、本部が手配しているはずの追加要員が到着することを期待しましょう』
『そうだ! 追加要員だ! 来るんだよな!? もうその辺まで来ていたりしていないのか!?』
『私の索敵範囲にそれらしい反応はないわね』
『くそっ!』
両脚が千切れ飛ぶような無茶な挙動を経験するのはアキラも御免だ。アキラは精神を磨り減らしながら必死の抵抗を続けた。
アキラ達の奮闘が実り、遂にヤラタサソリの増援が止まった。アキラ達は最後の力を振り絞って残りのヤラタサソリを倒しきった。
アルファが笑ってアキラの労を労う。
『お疲れ様。終わったわ。良かったわね』
「お、終わった……」
アキラはその場にへたり込んだ。アキラは溜まった疲労を吐き出すように深く息を吐いた。
『結局戦闘中に追加要員は来なかったわね。何かあったのかしら?』
アキラが端末を操作して本部と連絡を取る。
「こちら27番! 本部! 応答を求む!」
「こちら本部。荒れてるな。何があった?」
「追加要員はどうなってるんだ!? 全然来ないぞ!」
「既にそちらに向かうように連絡済みだ。まだ到着していないのか?」
「誰も来てない! その所為で大量のヤラタサソリを3人だけで相手をする羽目になった! 急ぐように催促してくれ!」
「了解した。その前に交戦したなら交戦記録を取得するから少し待て」
アキラに支給された端末の画面が変化する。端末の画面には何らかの情報を送信中であることを示す説明が表示されている。それが終わっても本部からの返事はなかなか返ってこない。アキラが再び本部に何か言おうとした時、本部職員の慌てた声が聞こえてきた。
「なんだこりゃ!? も、もうちょっと待ってろ!」
その後すぐにレイナとシオリの端末に本部から通信が入る。
レイナが本部に応答する。
「こちら17番よ。増援はどうなってるのよ」
「こちら本部。そちらの状況を説明してくれ」
「ついさっきまでヤラタサソリの群れと交戦していたところよ。ちょうど撃退し終わったところ」
シオリが口を挟む。
「こちら18番です。17番の説明に補足いたします。大量のヤラタサソリの群れに襲撃されました。襲撃元の穴の先に複数、あるいは大規模な巣が存在していると考えられます。調査チーム及び討伐チームを至急派遣してください」
「……あのログは27番の端末の故障じゃないのか!? 交戦記録を取得するから少し待ってくれ。追加要員の連絡は済んでいる。まずは彼らとの合流を待ってくれ」
「お待ちください。故障とは?」
「27番の交戦記録だ。ヤラタサソリの討伐数が多すぎるんだ。他の2人の交戦記録と合わせて検証する必要がある」
「恐らくそれは故障ではないかと。通路を埋め尽くしているヤラタサソリの姿は私達も目視しております」
「……マジかよ。安全が確保できているなら、ちょっと穴の奥まで行って映像を送ってくれ。ついでに照明の設置等も済ませておいてくれると助かる」
「……気は進みませんが、承知しました」
「頼んだ。以上だ」
本部はそれだけ伝えて通信を切った。
アキラは床に散らばっている予備の弾薬をリュックサックに戻していた。
CWH対物突撃銃の専用弾は高額だ。その専用弾が装填されている弾倉は更に高額だ。その弾倉の山は更に更に高額だ。それが今は中身を撃ち尽くした空の弾倉の山に変わっている。
アキラは先ほどの戦闘で費やした弾薬費を想像して、自分で支払ったわけでもないのに少し憂鬱になりながら、まだ中身が詰まっている弾倉をリュックサックに戻していた。
アキラが少し不安そうにアルファに尋ねる。
『……これさ、後でやっぱり弾薬費を払えって言われないよな? 大丈夫だよな?』
アルファが苦笑しながら答える。
『大丈夫よ。多分』
『た、多分って何だよ!?』
『私はクガマヤマ都市の長期戦略部の職員ではないからね。だから多分としか言えないわね。大丈夫よ。多分、きっと、恐らく、或いは、ひょっとしたら……』
『そこは大丈夫だって言い切ってくれ……』
アルファはアキラを揶揄っているだけだ。アキラもそれを分かっているが、万一の場合を想像して嫌そうに表情を歪めた。
シオリが本部からの指示通りに穴の向こう側の調査を開始する。シオリはまずは穴の入り口の近くに照明を設置する。照明が点灯すると真っ暗な穴の先の光景が露わになった。
レイナが照らされた光景を見て端的な感想を呟く。
「うわっ……」
アキラによって大量のヤラタサソリが過剰な威力の弾丸で粉砕された。それらの死体はそれらを踏みつぶして侵攻する無数のヤラタサソリに踏みつぶされて、更に追加で倒されたヤラタサソリの体液などと混ざり合い、一帯に肉片の沼を作り出していた。
その沼に浮かぶヤラタサソリの手足などが、沼の生成物が何であったのかを示している。この光景からアキラのヤラタサソリの撃破数を数えるのは不可能だ。アキラの交戦時間と発砲数、沼の深さと範囲面積から概算数を算出するのが限界だろう。
シオリもレイナも交戦中にアキラの戦況を確認する余裕はなく、ここまで酷いとは考えていなかった。シオリは本部の指示を受けたことを少し後悔していた。
シオリが一緒に進もうとするレイナを止める。
「お嬢様は通路でお待ちください。お嬢様が立ち入るような場所では……」
レイナが引きつった表情で答える。
「だ、大丈夫よ。大したことはないわ」
「無理をなさらぬ方が宜しいかと。本部から指示を受けたのは私です。お嬢様は通路でお待ちください」
「大丈夫よ。私も手伝うわ。この依頼を引き受けている以上、こういう光景をこれからも見るかもしれないわ。今のうちに慣れておかないと」
レイナが引きつった笑顔で一歩踏み出す。ヤラタサソリの体液を吸って柔らかくなった地面に、土と肉片が混ざり合った沼に、レイナの足がずぶっと沈み込む。レイナが顔を更に歪める。それでもレイナは怯まずに進んでいった。
レイナとシオリが照明を設置しながら進んでいく。壁にもヤラタサソリの肉片は飛び散っている。歩くたびに足下から感触が伝わってくる。シオリとレイナは不快感に耐えながら照明の設置作業を続けた。
片付けを終えたアキラが通路の様子を確認する。レイナとシオリに防衛を任せていた場所だ。
通路はヤラタサソリの死体で溢れていた。レイナとシオリの奮闘が窺える。ヤラタサソリの死体はそこら中に散らばっているが、アキラから一定の距離の範囲には一つも転がっていない。まるでその範囲だけ綺麗に掃除したようにも見える。
レイナ達はアキラのように過剰な威力を持つ装備で戦っていたわけではない。そのためレイナ達が倒したヤラタサソリの死体は原形を残しているものが大半だ。通路の幅はかなり広い。アキラのように比較的狭い穴の奥へ銃撃を続ければ良いものではない。
通路の光景はレイナ達の確かな実力を示す証拠だ。アキラがそれを見て少し驚いている。正確に実力を読み取ることはできないが、凄い、と言うことだけはアキラにも分かる。
アルファが通路の光景を補足する。
『壁や床の弾痕が倒したヤラタサソリの数に比べてかなり少ないわね。単純な掃射ではなく、しっかり狙って撃った証拠ね。それでいてこれだけの数のヤラタサソリをしっかり倒している。あの2人はなかなかの実力者のようね』
『同じ真似は俺には無理か?』
『私がしっかりサポートすれば十分可能よ? 両手に強装弾を装填したAAH突撃銃を装備して、縦横無尽に駆け巡れば大丈夫よ』
『つまり無理ってことだな。それはアルファが俺の両腕を無理矢理動かして何とかするってことだ。それを実施したら俺の腕が酷いことになるんじゃないか?』
『理解が早くて助かるわ。自分の力量を正しく把握できるのは良いことよ。概ね大体その通りよ。アキラの両腕が犠牲になるけれど、命を失うよりはましだと考えなさい。大丈夫。多分千切れたりはしないわ。ちょっとぐらい千切れても、多分回復薬で何とかなるわ』
アキラが溜め息を吐く。
『……やっぱり、俺が今回の依頼を引き受けるのは早かった、早まったってことだな』
アキラはレイナかシオリのどちらか一方の代わりをする意味でアルファに尋ねた。アルファはアキラ一人で何とかする前提で説明した。そのためアキラの認識は現状とかなりの差異が生じていた。
勿論、アルファはそれを分かった上で答えていた。
暫くすると待ち望んでいた追加要員が漸く到着する。14番防衛地点の残りの人員と15番防衛地点から派遣されたハンター達だ。
アキラはカツヤ達の顔ぶれを確認すると、シオリに確認を取る。
「少々変形的だが、依頼は完了したと判断してもかまわないか?」
アキラがシオリから受けた依頼の期間は、レイナ達が防衛地点に帰還するまでだ。厳密には達成していないが、状況的には同じと言って良い。
「構いません。お疲れ様でした」
シオリは軽く会釈をして依頼完了をアキラに告げた。アキラはシオリに軽く会釈すると、カツヤ達が合流したレイナ達から離れていく。
状況を理解していないカツヤ達が去っていくアキラを見て怪訝な顔をする。レイナが少し残念そうな表情を浮かべる。シオリはレイナの表情に気が付いたが、それを追求するといろいろやぶ蛇になる気がしたので尋ねるのは止めておいた。
シオリが漸く安堵の息を吐く。
(一時はどうなることかと思いましたが、これで大丈夫でしょう。後はカツヤ様に不用意に別行動を取らないよう厳命していただきましょう。……そもそもカツヤ様がチームリーダーとしてお嬢様の行動をしっかり止めてさえいれば……、いえ、これはただの愚痴ですね。まずは私がお嬢様を強固に止めるべきでした。そう言うことです。他者の所為にするなど、猛省が足りていませんね)
シオリは再度強く自身に猛省を促していた。
アキラ達が警備を続けていると更なる追加要員が到着した。探索チームと討伐チームも一緒に到着する。この場は正式な新たな防衛地点となり、この場の指揮は両チームの指揮者と本部の職員が受け持つことになった。
探索チームと討伐チームが穴の向こう側を調査制圧するためにいろいろと準備をしている。防衛地点は少し騒がしくなっていた。
アキラは近くに散らばっているヤラタサソリの掃除を指示されていた。ヤラタサソリの死体を通路に放置しているといろいろと邪魔だ。更に新たなヤラタサソリが死体を装ってこっそり紛れる危険もある。
そうは言ってもヤラタサソリの死体を地上まで運び出すわけにもいかない。倒したヤラタサソリは地下街の邪魔にならない安全な場所に纏めておくことになっていた。
アキラがヤラタサソリを一匹ずつ運んでいる。ヤラタサソリの死体はそれなりに重量がありそうな見た目をしているが、アキラにはその見た目ほど重くは感じられなかった。
『思ったより軽い気がするけど、単純に強化服の出力を上げているからか?』
ヤラタサソリを運びやすいようにアルファが強化服の出力を上げているのだろう。アキラはそう思っていたのだが、アルファが首を横に振って否定する。
『いいえ。実際に軽いのよ。暫く放置しておけば多分もっと軽くなるわ』
『何で放置すると軽くなるんだ?』
『その辺りは諸説あって一概にそうだと言える根拠はないのよ。そういうものだと思ってちょうだい。説の例を挙げると、旧世界時代に散布されたナノマシンが分解速度を急速に速めているからとも言われているわ。色無しの霧の濃度が関係しているとも言われているわね。多くのハンターが荒野のモンスターを殺し続けているけれど、荒野にはモンスターの死体とかあんまり転がっていないでしょう? あれだけ殺しているんだから、中途半端に腐りかけている生物系モンスターとかがあちこちに転がっていても不思議はないのに』
『そう言われればそうだな。白骨死体とかは見るけど、腐敗している死体とかは見ないな。そうか。凄い速さで分解していたのか。……ん? でもこの前に見た暴食ワニの死体はどうなんだ? そんなにすぐに分解するならあれが形を残していたのも変なんじゃ……』
『外皮が残っているだけで、中身は空だったのかもしれないわ。或いは外皮が何らかの保存機能を有していて分解を遅らせたのかもしれない。場所やモンスターの種類によっても分解速度に差異が出るわ。それにさっきも言った通り、その辺りの解釈には諸説あるのよ。まあ、この地下街に限って言えば、ここが旧世界の地下街ってこともあって、当時に清掃用のナノマシンが大量に撒かれていたのかもしれないわ。モンスターだらけの旧世界の遺跡が意外に清潔なのも同じ理由かもしれないわね。もし普通に匂ったりしてたら、こんなモンスターだらけの地下街は、多分酷く匂ってるわよ?』
『確かにそうだな。……まあ、清潔なのは良いことだ。一々気にしても仕方ないか』
東部には不思議なことが山ほどある。東部に住む人間の大半はそれらのことを旧世界の何かが原因だと考えている。そして事実その大半は旧世界の何かが原因なのだ。アキラも含め、東部の多くの人々が良くも悪くもそれに慣れてしまっていた。
悪用すれば世界を滅ぼしかねない英知が、不可逆の混沌を容易く作り出す旧世界の技術が、東部には旧世界の遺物として山ほど現存している。今を生きる人々がそれらの災厄に抗えなくなった時、アキラ達が生きている文明は容易く滅び、その歴史は旧世界の一部となるのだ。
アキラはアルファとの雑談の中に東部のありふれた不思議を感じながら運搬作業を続けていた。アキラが作り出したヤラタサソリの血肉の沼も、然程時間を掛けずに乾き分解され塵となり消えることになるだろう。
作業を終えたアキラが防衛地点の床に予備の弾薬を並べて残量を確認している。
残り少ない残弾を見るアキラの表情は少し険しい。この残量ではもう一度あの量のヤラタサソリの群れと戦うことはできない。今度は逃走一択。アルファに強化服を操作してもらって、アキラの両脚がもげる覚悟で逃げることになるだろう。
しかしアキラの顔を険しくさせている理由の大半はそのことではない。
アキラの端末に本部から連絡が入る。アキラが恐る恐る応対する。
「……こちら27番だ」
「こちら本部。交戦記録の査定がある程度終了した。そのことで幾つか質問がある」
「弾薬費は払わない。弾薬費は払わないからな」
アキラはまずそう言い切った。アキラの口調には少し追い詰められているような必死さが込められていた。
アキラはヤラタサソリとの戦闘でCWH対物突撃銃の専用弾を贅沢に使用した。浪費したと言い換えてもいい。アキラにもその自覚があった。
弾薬を浪費した分だけ弾薬費を負担しろ。本部からそう言われても不思議はないのだ。しかしアキラにその支払能力はないのだ。
本部の職員がアキラの心配を見抜いて苦笑気味に返事をする。
「その点は問題ない。弾薬費は依頼元が持つ。そのことに変更はない。弾薬費が戦果に見合わないと判断された場合は、契約を打ち切られた上に報酬額が下がるだけだ」
アキラが安堵の息を吐く。アキラが落ち着いて尋ねる。
「そうか。それなら聞きたいことは?」
「討伐地点の近くに中継器もなく端末から離れていることもあって、正確な討伐数が把握できない。よって支払われる報酬は推測した討伐数を基にしたものになる。算出方法等などに希望はあるか?」
「ヤラタサソリの死体がぐちゃぐちゃで数を確認できないからゼロだ。そんなふざけた方法じゃないなら好きに数えて3で割ってくれ」
「……それで良いのか?」
「何か不味いのか?」
アキラは自分が変なことを言ったつもりはない。念を押すかのような返答に、アキラは逆に聞き返すことで確認を取ろうとした。
本部の職員は戸惑いによる僅かな沈黙を置いた後で答える。
「……いや、問題ない。討伐数を計算して各自の報酬が決まった途端、自分の取り分はもっと多いはずだとごねるやつが多いからな。確認を取っただけだ。こちらで数え、3で割る。念押しするが、この通話で確認を取った。後でごねるなよ。以上だ」
本部の職員はそれだけ言って通信を切った。