過去とこれから
シアさんが泣き止んで暫くしてからお互いに離れた。
「恥ずかしいところをお見せしました……」
真っ赤になっていた。
「大丈夫だよ。誰にでも気持ちを吐き出す事は必要だから」
「じゃあ、ユキさんが気持ちを吐き出す時は私に話して下さいね?」
「うん、ありがとう。その時はよろしくね」
答えてから時計に目を向けると、9時になろうとしていた。
「朝ご飯を作ろうと思うけど、お腹空いてる?」
血を吸ってはいるけど吸血と食事が一緒とはわからないので聞いてみる。
「何か貰えたら助かります」
「吸血と食事は別なんだ」
「お父様は血液だけでもよかったんですけど、私は別みたいで……」
やはりハーフだからだろうか。
「気にしないで。何か軽く作ってくるね」
「はい、ありがとうございます」
返事を背にしてキッチンへと向かった。
トーストとスクランブルエッグ、サラダを作って戻るとシアさんの翼がきれいに無くなっていた。
「シアさん、翼は?」
「邪魔になるだろうと思って消しています」
「翼って消せるものなの……?」
「はい。魔力で作っているので、消したり出したりは簡単にできますよ」
天使と共存していると言っても知らない事が多いんだな……。
そんなことを思いながら食事を済ませた。
「この後はどうしますか?」
「うーん……いつもなら学校にいる時間だしなぁ」
「学校って、確か数学や歴史なんかを勉強する場所でしたよね?」
「うん、興味あるの?」
シアさんの目がきらきらと輝いているような気がする。
「はい。ずっとユキさんの家に居るわけにもいかないですし、行ってみたいです!」
「それじゃあ、明日先生に相談してみるね」
「ありがとうございます、お願いします」
そう言えば、天界には学校みたいに勉強する所ってあるのかな……?
食器を片付けてから聞いてみたら、天使は生まれた時点である程度の知識を持っているらしい。なにそれずるい!
まあ、知識といっても言葉や数式、魔力の扱い方といった天使としての必要最低限のもので、人間がどういった勉強をしているのかはとても気になるとの事で。
学校に行くなら制服とか用意しないと、と考えてシアさんには服がない事を思い出す。
「今日はシアさんの服を買いに行こうと思うんだけど、どうかな?」
「服ですか」
「うん。前着てたのはボロボロだし、今は私のを着てもらってるけどサイズが合わないでしょ?」
主に胸が!!
歳も変わらないのに、どうして……。
天使も吸血鬼も美形が多いって聞くし、やっぱり遺伝なのかなぁ。
「そう、ですね。いつまでも借りる訳にはいかないですし。でも、お金が……」
「それは大丈夫。家族がいないから、国から補助金として生活費を貰っているの」
「あ……そう、だったんですか」
「気にしないで。それに、月の支払いをしても結構余っちゃって。使うところが無くて困ってたから」
「すみません、ありがとうございます」
深々と頭を下げられた。
「どういたしまして。それじゃ、採寸するね」
クローゼットからメジャーを取り出し身長とスリーサイズをを測る。
測り終えて時計を見ると今から向かえば着く頃にはお店が開く時間だった。
「行ってくるね」
「行ってらっしゃい、よろしくお願いします」
外に出てからふと、行ってらっしゃい、なんて言われたのは何年ぶりだったかと記憶を辿る。
私は10歳までの記憶が曖昧だった。唯一はっきりと覚えているのは10年前のあの日、玄関に血塗れで倒れていた両親の姿だった。
二人とも優しかったし、愛されていたとも思う。
ただ、二人の仕事がとても危険だった事と小さい頃からその仕事について色々と教えられていた事はなんとなくしか覚えていなかった。
思い出そうとすると激しい頭痛に襲われてそれどころではなくなってしまう。ずっとそうだった。どうしてそうなるのかはわからないままだった。
そんなことを考えていると目当てのお店についた。
シアさんの要望通り、シンプルな服と下着を購入して店を出る。お昼には間に合うだろう。
家に着くとシアさん眠っていた。採寸とはいえ、無理をさせてしまっただろうか?
お昼ご飯を簡単に済ませてからシアさんの様子を見ながら読書をして過ごした。
そろそろ晩ご飯になろうかという時にシアさんは目を覚ました。
買ってきた服を見せると、とても喜んでくれて私も嬉しくなる。
夕食を終えてからはファッション雑誌を広げて次は一緒に買いに行こうと約束をしてその日はベッドに入った。
家にいても一人じゃないという事が嬉しくて楽しかった。
お久し振りです。約一年半ぶりの更新となりました。前回の続きよりもずっと先の話に筆が乗ってしまった結果です、ごめんなさい。
今回、最後の方が雑になってしまった……。
事件も何もない日常シーンって難しくないですか?
え?何もない日常をどうやって面白く書くかが腕の見せ所だろうって?
全くもってその通りです、精進します。
では、また。