嫌われもの
目が覚めると右目が覆われていた。左目には真っ白な天井が写る。
「痛っ」
起き上がろうとして全身に鋭い痛みが走り、声が出た。
右目と右腿、左腕が特に痛むが、それでも痛みを堪えて身体を起こす。
左腕を見ると丁寧に包帯が巻かれている。
辺りを見回すと少し離れたソファーに同い年くらいの少女が薄黄色のパジャマと布団を纏って寝ている。
床に零れた瑠璃色の髪がとても綺麗だ。
窓に目を向けると、カーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいる。
何があったかはすぐ思い出せた。
あの日は何の前触れもなく結界を張っている主天使から低級悪魔の接近を知らせる連絡が届いた。
急いで向かうと、主天使と悪魔達の距離は十メートルもなかった。
いつもならもっと遠くに居る時点で感知できているのに……。
おかしいのはそれだけでなく、やけに数が多い。
普通なら多くても5体程なのに今回は十数体も居るのだ。
いくら低級悪魔といっても一人で勝てる数ではなかった。
「急いで強度を上げてください!」
主天使へ怒鳴るように告げる。
「お前、シルヴィアか?混ざり者に言われなくてもやっている。お前は早くあいつらを撃退しろ!」
そう言いながら主天使は結界の強度上げていく。
私は天界へ援軍の要請をしながら待機形態であるブレスレットから武器へと変化させる。
同じ階級の大天使が持つ盾よりも一回り大きく、翼をあしらった装飾が付いた純白の盾。
天使が使うとは思えない、刺身包丁を大きくしたような刃の付いた赤黒い槍が現れた。
両親から受け継いだ武器だ。
熊や虎といった肉食動物に似た真っ黒な悪魔達はこちらに気付いていないのか、蝙蝠のような翼で空気を叩き主天使へと一直線に向かっていく。
「行かせません!」
槍と盾を構え翼をはためかせて悪魔の一群へと突っ込んでいく。
一番近くにいた熊に似た悪魔を突き刺し、その勢いで集団の中程まで入り込んだ。
「グカアアァ!!」
突然の事に驚きつつも熊型の悪魔は右手の鋭い爪を降り下ろした。
それを盾で殴るように受けて弾きながら槍を引き抜く。
「これで……!」
片腕を上げるように体勢を崩した隙に刃を向けて薙ぎ払う。
腰のあたりで真っ二つになった悪魔は唸るような声をあげつつ灰になって消えた。
巻き込まれて片腕を落としたり腹が半分ほど切れた二体を見つけて、胸と胴を素早く突き刺すと先程と同じく灰になった。
「……っ」
息を吐きながら辺りを見回すと、囲まれていた。
嫌な汗が頬を流れる。
そこからは一方的だった。
盾で防いでも後ろから、薙ぎ払っても上下からと攻撃の手は止むことはなかった。
幸いにも悪魔達は主天使の方へ行くことはなかった。
出血のせいか、三体ほど倒したあたりで意識が朦朧としはじめる。
だからといって攻撃が緩むことはなく、より激しくなっていく。
「まずいですね……」
肩で息をしながらそう口にした直後に、辺りが光に包まれた。
その瞬間に、全身を刃物で刺されるような痛みが駆け巡った。
「あ、ぐ……っ」
痛みと光に目を細めながら、薄れゆく意識のなかで六枚の翼を広げた天使と灰になって消える悪魔達を見た。
思い出せるのはそこまでで、おそらく寝ている少女かその家族に助けられたのだと思う。
問題は戻ったとしても天界に居場所があるかどうかだった。
普通の天使ならともかく、私は出生が異常だし地上に落ちた事をいい事に追い出されてもおかしくはない。
そんな事を考えていると、身動ぎする音と眠そうな声をあげて少女が目を覚ました。