円環の崩落
これは夢だと確信していても描かれている事に何も思わない訳では無い
その中で起きる出来事、心境は起きてからも続いていく懐かしい思い出やいい思い出を見せる脳はまだ幸福なのだろう。
既に過ぎた地獄を見た
救おうと手を伸ばした指先で砕ける音が聞こえる
国のために少数を殺し続けたありのままの自分を枯れた声で笑ってしまった
その結果自分の招いた結果で救われた者などいないまま多くの犠牲だけが残った
一番酷い地獄を見た
これからその小さな体が今になる歩む道を見た
ただ自分が願った未来も手のひらにあった仲間の命さえ救えなかったと後悔と懺悔をを繰り返す日の連鎖
何も出来なかったと過去に囚われる未来が待っていると言うのに小さい僕は何も知らぬまま歩いている
「その先へ行くのか」
まるで人魚になったかのように息を吐けば泡になり言葉も声から出たはずなのに音が消えていた
話す言葉語りかけても1度も振り向かない自分とすれ違う度届かない声が泡となる
「なあ待っているのは地獄なのに歩みを止めてくれないか」
思わず出た手も目の前にいる幼い自分に触れず空を切る。過ぎたことなんだ
これは変えられないものだと小さく震えた手を握り悪夢を見続ける繰り返しのその先で。
彼は産まれてから人として生きるという権利が与えられた身では無かった
そもそも人ではない彼にとって、人間の真似事なんて許されるはずもなかったいのだとどこか理解していた
それが紛い物であって本物になれないと言うことを。
残された彼にとってただあったのは全てが結果の世界だということを
僕は人ではない。
言葉にして生きた人形と呼ばれるホムンクルス
基本的なβタイプのホムンクルスは単価にして数万円という低価格で作られる事から研究所では量産型として100に及ぶホムンクルスが作られている
それに比べて僕は人間に近いθタイプのホムンクルスで大まかな違いは人間に近いかどうか
心という物を代用して国のために使えるかどうか
擬似的に他者の魔力回路を移植又は譲渡する事でその人と同じ心境を得ることが可能になったのがθである
ほとんどの作られた子供たちには心がない
そのため何かを感じることも考えることもできない
物事を記憶する媒体の脳は1からすべて管理下に置かれ嗅覚味覚、五感すべてを数値として記録されている
コンピュータに入力される程度で、人間に必要なものとして何かを教えられたことは片手で足りた
彼にとって時間という感覚も無く今がいつで何時なのか今何をしているのかさえわからない。
いつまでも成果を見出すための道具であり、結果が良ければ次に行う実験の為にストックとして生かされる
失敗すれば実験中に大体が死んだ
それが当たり前のように、昨日見た顔もいつもまにか居なくなっている
そうやって何百と言う子供の命が注ぎ込まれ果に得た成功例はたったの2体
たったそれだけだった
足元に積み上がった死体が残した功績に研究者は喜んでいた
けれど彼にとって、注ぎ込んだ数で得たものがそれだけかとぽっかり崩れ落ちてしまいそうな感覚を得ていた、命の果てがこの程度かと自分に酷く失望した。
そこに至るまで何十人の子供が叫び死体となって焼かれたのだろうか
仲良くなったあの子も一緒に遊んだあの子も
簡単に僕の手から命がずり落ちた
命あっても何の得もないただの道具だった。
それ以上の言葉もなく失敗作という研究の基礎として継いでも人として受け継がれることもなく忘れ去られる
それでも嘔吐が出るような毎日に僕は過去1度に幻想を抱いていた頃がある
研究所に産まれて数年が立った頃、3カ月に1回外から本を読みに来てくれる年老いた爺さんがいた
その爺さんはいつも読むのは世界について
だから誰もが知っていた
空は青く、自然は緑、外には様々な人や物が溢れていること空気は暑くも寒くもなること
経験からの知識ではないにしても外に夢描いてはそこに空想でありきたりな妄想の中に自分を描いていた
そして最後には涙を浮かべ「ありがとう」と言葉無しに抱きしめられ、いつも本をくれた
まるで自分は救われたのだと救ってくれたのは僕らだとそう思わせるように
それが間違い始まりだった
その爺さんが救われた顔をすると、何故か救ったのだと満足感に浸った
その顔が好きだった
幸せそうな僕にはできない顔が羨ましかった憧れた。
自分もそうなりたかった。
誰もかも救いたいと思わず願った
それで自分が死んでも構わないと夢を見た
きっとそれは間違いではなく最後は仲間が出き自分が救われるのだと思うようになっていた
でもそれが短い物だと思い知ったのは何時だったか
覚えていない
ただ覚えているのはとても暑かったこと、息が出来なかったこと、誰も救われなかったという事
気づけばそこに地獄があった
夕方、月が見え始める頃月下の明かりが赤く燃えた
研究所の建物は崩れ燃え盛り息ができないほど暑く意識が朦朧としていた
ただ思ったのは怖かった逃げたかったそんな気持ちから来た行動は傷ついた足をひたすらに進めるというもの
あの子もあの人もいくら体を揺らそうとも体が固くなっていた
その意味を理解できていたからか、周を見渡しても皆誰一人として生きてはいないと判断できた
「ダメだ……。」
どうしてこうなったのだろうと痛む体を支えながらひたすら歩くと人に引っかかり転んだ
もう随分と歩いき疲れ肩で息をする
地面に顔があるから口息苦しい、出来ないと最後の力を振り絞るように仰向けになる
「……え」
見てしまったあれを。
空にあいた円環が子を描いて浮いていた
その中身は見えないほどの闇色
そこにある異形、人違いの脅威
この世界にあってはならないもの
今更こんなものを見せられて何を思えばいいのだろうと伸ばした手から奪われたものは大きかった
ただ1度願った願いも仲間ともいなくなった世界で何も残らなかったと生暖かい涙が目から落ちた
「助けてよ、こんなこんな事になるなんて‥‥最初から研究所がなければこんなことにならなかった‥僕が産まれることも死んでいったあの子達も生きれたはずなのに」
やってくるアレが
研ぎ澄まされた感覚がそう告げると
耳が壊れると思うほど鯨に似た鳴き声が響きわたる
空が揺れ風が吹き荒れると空にある穴から目が開いた
輪郭のない、黒い人の目だ
何かを探すように瞬きを繰り返しながらイオを真っ直ぐ見つめていた
「なあ叶えてくれないか研究所がなかった事でもいいこの国がなかったことでもいい、ここにいた子供立ちが死ななかったことでもいい何でもいい。ただこんな世界を変えてくれないか」
まるで限界まで開かれた目玉は貫かれたように破裂すると血のような赤い泥が降り注く
それは壮絶な光景だった
闇色に染まる泥の濁流が全てを飲み込むように流れていく
渦巻く底なし沼に呑まれていく
何もかもが燃え盛る。何もかも失われる
人類の栄光が築き上げた歴史がまるで子供の玩具のように崩れ去る
赤いオーラを放つ黒い円環が瘴気を放ちこちらを覗く目のように浮かんでいた
世界を壊すもの。
その崩壊の狭間で地獄を見た
人知を超えた遥か遠くその理にある末端の崩落
これで途絶えるであろう人の末路も積み上げてきた功績も、この日を超えてはいけないだろう
なんせ、もう世界終わるのだから
そうどこかで鐘の音が鳴り響いた




