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悲劇の空

燃え盛る炎は建物を飲み込み、地面は赤色に変色してる。

それに元が分からない肉片と化した死体の村がイオの思い出や記憶を引き裂いた


あぁまたなのか、何度目だっけな。

もしもダンジョンなんかに行かなければこの結末は防げたのではないか


その場に立ち尽くしたまま思う事はただの苦い苦しい後悔

悲しいのか怒っているのか今自分がどんな顔をしているかわからない

感覚がない。本当に自分なのか。あぁ笑える



「イオ!!この下に女の子がいる!!早く来て!!」


瓦礫を覗き込むアリスの言葉で現実へ帰ってくる。


「生…存者…」


走ってその場所に向かう


「そっち持って‼」


「わかった‼」


アイリスの指示どうりに瓦礫を退けていく


指先は震え、瓦礫の木の破片で手を切り血が流れ息をするのを忘れる



お願いだ生きていてくれ


大きな瓦礫を肩で押しのける。

その下に瓦礫と瓦礫が重なってできた小さな空間を見て目を開いた


長いピンクの髪の毛は土で汚れ、着ている服は破けボロボロになっている

何度か見かけた事があった少女。マイラだった


イオは震える手でマイラを抱き抱える

抱き抱えた振動でマイラは笑い小さく言葉を発した


「お…かえり…なさい」


「ただいま……ごめんね。すぐ治すから話はそれからだよ……ね」


生きていたに安堵するが不安がないと言えば嘘となる

呼吸がおかしいんだ。

息をしているというかひゅーひゅー漏れているような音が鳴っている

一刻の猶予もないと思い抱き抱える立ち上がる

その時だった


「…ゴホッ」


マイラが吐血した。咳き込む音と一緒に、鮮やかな赤色の血が吹き出した。

顔色は白く、だんだんと冷めていく体に混乱しながら走りアイリスの目の前にゆっくりと置く


「アイリスお願いだ頼む」



少し、少しの間。永遠とも言える長いような沈黙が続く

アイリスは首を横に振った


「もう…彼女は」


それを見て怒りと呆然と驚愕に信じられないものを見るような眼で焦点が合わない


「嘘だ…嘘だよね。だってアイリスは僕を治せたのにどうしてマイラは治せないんだ」


アイリスの胸倉を掴む

言いたい事が溢れる、アイリスが悪い訳じゃない

わかっている


「なにが一級プリーストだッ誰も助けられないんじゃ意味がないだろ!!!」


でも、この怒りはこの気持ちはどこへ持っていけばいい

この悔しさはどうしたらいい


「ごめん。ごめんなさい」


イオが怒りを撒き散らした後に聞こえたのは小さな声だった


違う。違う。

謝って欲しいんじゃない、謝らせたい訳じゃない

僕はただ責めて欲しい

もっと早く帰って来れば助かったのだと

今日ダンジョンへ行けなければと


誰かにそう言われたい

そう言われないと自己嫌悪で死んでしまいたくなる

もう今自分がどんな顔しているかわからないのに。




時間にして約1時間が経った頃

イオは静かにその腰を下ろし、ただ呆然と少し曇が混じった目は死んでいた


「イオが悪いなんて言わないし言えないけど君が止まってしまうのは意味がない。イオは強くならなければならない。これから何も失わないように、何も奪われないように」


静かに語られた心のこもったアイリスの気持ちに何も思わないといえば嘘だ。


イオはマイラを抱える静かに立ち上がる

「サイントコフィン死者の棺」


魔法がその辺に転がっている木を集め棺桶を作り上げていく

決して綺麗とは言えない歪な棺桶。責めてもの償いとしてマイラを入れる


「これ」


後ろにいたアイリスの手元には何本かの白い花が握られていた


「今、ここで魔力で花を咲かす事しかできないから」


「…ありがとう」


アイリスから花を受け取りマイラの胸の上に置く

安らかに眠る小さな女の子。彼女はまるで寝ているかの様に見えるほど綺麗な顔をしている



「あのさ、マイラ僕、僕さ旅に出て強くなるよ。誰にも負けないくらい。だからまた…ね」


全身に空っぽだった心から青い雫が頬を伝う。

まるで満たすようにイオの目は忘れかけた色を取り戻していく



「アイリーーーーッ」


言わねばならない事がある

謝りたい事がある

今言わなきゃいけないことがある

そう思い振り返るとドンッと衝撃が腹部に伝わる


「え?」


「ごめんね」


彼女の黒い笑顔と裏腹にポタポタと地面に垂れる赤い血。

状況が誰でもわかる程簡単に理解出来てしまうほどに

こんな悪夢があるのかと

右腹に刺さったナイフから痛みが後から襲う


「があああああああああああ゛」


冷静に判断出来ない頭で必死に刺された場所。ナイフの周りを抑えて止血を試みる


心臓の脈打つ音と同じように血が溢れ、貧血で倒れそうな体を棺桶に持たれかけ保つ


「ど…してアイリ…スッ」


「今は知らなくていい」


彼女は誰だと言いたくなるほど彼女は冷たく変わる

太陽のような人ではなく月のような人。まるで別人だ


「ガバッ…ど…いう…ッ」

口から鉄の味が広がる、これが吐血というやつか。

段々視界がボヤけるにつれ、自分が死ぬのかと思う


「……さよなら。」



「待って…ま…て…おね…がい」



血のついた手をアイリスへと伸ばすも力が入らなく空を切る

ダメだ、嫌だと思っても気持ちはあっても自分が思っているよりも酷いようで体は悲鳴を上げ、イオの体に段々と闇が覆った



目を閉じれば水の中に沈んでいく感覚

冷たくなっていく怖さ

もう何も聞こえない、もう何も思わない


心残りがあったとしても

きっともう無理なんだろう


「お…とうさん…」


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