崩壊する理、逆襲の狭間
その日戦火の轟く彼は切り捨てた
子供、兵士、見知らぬ老人、罪のない人や罪人まで彼を見た人は鬼だと囁いた
「それを育て育んだのはそちらだろう」と
彼の周りには山が連なるほどの死者で溢得る頃には
誰もが望んだ枯れた大地には赤く燃えるような雨が降る、誰も望まぬ血の雨がそっと傍らに流れていた
元は森林であった筈の森は荒れ果て枯れた砂が覗き雨を望む大地があった
見渡す限り木々や草花など無く色の変わった砂漠に戦果の煙が立ち込めている
1度呼吸すれば喉が爛れる程の激痛が走り呼吸も出来ない程に死に絶え叡智あるこの世界は毒に変わった
希望も無念もなくただ、英雄と称えられた彼はこの世界を望んでいた、これが彼にとっての唯一無二救いであったからだ答えを求めた者が救いを得る
その代償とも言える結末に歓喜した
自身がいなければ起きなかった
闘争、戦争、望まれたから罰を受けるもの全てを全うした彼にとって自身とは産まれながらの呪いなのだと
ただ1度後悔のみを残して少し古びた本を握る
ページを開けば簡易的な魔法陣やその在処、方法を示す初心者向け、或いは下級魔道士向けのどこにでもある本の一種、乗っているのは等価交換の方法を記した
同じ対価のものであれば誰でも変換可能にする本
その名も因果応報の悲劇本
彼は死ねない体で死ぬ事を命じられていた
幾度の人の欲望である願いを叶え続けていた
誰かに命令されていた訳ではなく、望まれているのが自分だったからと言う単純な理由だ
いつしか終わりの見えることだけを信じて
人を殺す事も愛する事も失う事も容易くこなしていた
「貴方には人の心がない」のだと
言われ完璧であろうとする彼に人は身もきもせず
いつしかそれは怒りを買ったのは遠い昔。
たどり着いた先、最後に命じられたのは己の死だった
書物の本来の使い方として大規模な魔法本ではない
等価交換の原理で動いている絶望と幸福の変換だ
彼が望んだのは死であり消滅を意味する物である
しかし代償が記したのは彼に依存し過ぎた国そのものだった。
侵略され落とされるのではなく彼本人の手である事を条件に望まれた分だけの人を殺す獣となった。
悲鳴や断末魔は既に聞き飽きて子守り歌でさえ歌ってしまう
狂っている。そう言われても狂わせたのはこの世界なのだと彼を産み落としたこの場所だと。叫んでいた
最後、国王である人の首を跳ね終える
彼は最後まで命令を全うしていた
名も知らない人1人に願われた願いのために。
彼は目を閉じ血の涙を流した
思い返すぼどに募る後悔と囁かな幸福を感じていた
幸せだったと言えるものではないが全うした事への最小限の喜びだった。
彼は両手を広げ空を仰ぐぎ空に開いた黒い穴に願いをこう
「どうか叶えてくれ、世界よ私は今ここで全てを終えるのだ」
幾多数多の数を超えて空に開いた穴から吐き出された
泥のように黒く赤く燃える大地を飲み込みながら
その日初めて世界が終わりの鐘を鳴らす
その序章に立たされた赤子は呪いを受けた。