甘さ控えめ
今日は金曜日。金曜日の五〜六限は家庭科の時間だ。そして、今週の家庭科は、みんなが先生を押し切って行うことになった調理実習だ。
今日作ることになったのはりんごのパウンドケーキ。砂糖を極力抑えて、りんごの甘味を生かすのがポイントなんだそうだ。
「うちの班は千鶴がいるし大丈夫ね!」
「私にばっかり頼らないでよー。美結も手伝ってよね」
本当は四人班なのだけれど、二人が体調不良で休んでしまった。残ったのは私と美結の二人だけだ。
胸を張って自慢出来ない事を言う美結を小突いて、調理開始。
材料は、りんご、小麦粉、卵、砂糖、バター。バターは無塩バターを惜しみなく使う。家でやる時は贅沢には使えないから、調理実習では使い切る勢いで使う。
材料の計量が終わったら、本格的に開始だ。
「美結、りんご切って。角切りね」
「はーい」
美結の向かい側のスペースを使って、小麦粉をよくふるう。ふるい終わったらお湯を沸かして、耐熱ボウルにバターを入れて湯煎にかける。
フォークでバターを崩してゆっくり溶かしていく。とろりと溶けていくバターを見ながら、香りを楽しんだ。バターの溶けていく匂いは大好きだ。
忘れないうちに、オーブンを170度で予熱しておく。30分もあれば十分だ。
バターを溶かし終わったら、今度は卵だ。卵を二つ割って、砂糖を投入。これも軽く湯煎にかけて、砂糖がきちんと溶けて混ざるようにする。
全体的に混ざりあったら、ふるった小麦粉を二回に分けて卵液の中に入れる。ゴムベラでさっくり混ぜて、もう一回小麦粉を投入。
「りんご切れたよー」
「ありがとう。こっちのボウルに少しずつ入れてくれる?」
美結がまな板ごとこちらに持ってきたので、少しスペースをあけてまた混ぜる。
りんごが満遍なく、生地の隅々まで行き渡るようにゆっくり混ぜた。
りんごを包丁に乗せていた美結がこちらを見て、ぽつりと呟く。
「千鶴ってほんとに料理上手だよねー」
「そう、かなあ」
「そうだよ!」
何故かむくれる美結をよそに、最後の仕上げに取り掛かる。
生地を型に流し込み、数回シンクに打ち付ける。気泡を消して、焼き上がりをよくするためだ。
予熱が完了したオーブンに入れて、170度で15分。オーブンの扉を閉めたところで、チャイムが鳴った。
「やっぱり千鶴がいるとはやいなー!二人しかいないのにもう焼きに入っちゃったよ!」
「他の班だってそんな感じだよ、買い被りすぎ」
「でもうちの班は二人だけだよ?すごいと思わない?」
ボウルを洗いながらきゃいきゃいとはしゃぐ美結。自分は何もしてないから、と進んで洗い物をしてくれている。
「でもさー女子校だと、うまく作れてもあげる人いないよねー」
こびりついた生地をスポンジで擦りながら美結が言った。あげる人、とは、異性の事か。
「…あ」
急に顔が火照ってきて、私はオーブンの中を見るふりをして隠す。なんで今佐藤さんのことを思い出しちゃったんだろう!
彼のことが好きだと自覚してから、もう随分経つ。どうやら私は、佐藤さんのことを思い出す度に、顔が熱くなってしまう程度には彼のことが好きらしい。
「あーっそっかあー、千鶴はあげる人いるもんねえーっ」
「わっ、バカ美結声おっきい…!」
わざとらしくふざけた声で美結がいうものだから、慌てて立ち上がって膝をシンクにぶつけてしまった。痛い。
香ばしい香りが立ち込めている。焼き上がりはもうすぐだ。竹串を用意して…明日、家で作る用に材料を買いに行こう。
佐藤さんは甘い物好きかなあ。
多分このレシピでパウンドケーキ作れます。