幸せ充電
佐藤さんと連絡を取るようになってから、なんだか朝の電車で会える回数が少なくなった。
今日も佐藤さんは見当たらない。思わず溜息をついた。今までは朝に会えて当たり前だったから、少し寂しく感じる。
電車のドアにもたれかかって、携帯を取り出した。電話はできないけど、メールくらいなら…。メール作成画面を開き、本文を打ち込もうとして手が止まる。
何を伝えればいいのかわからなくて、結局何もできないままキャンセルしてしまった。
佐藤さんに会えない日はなんとなく憂鬱だ。
そう思って、はっと気づく。
毎日会いたいと思うなんて、私はなんて欲張りなんだろう。いつからこんな強欲な子になってしまったのだろうか。佐藤さんはこんな私のこと嫌うだろうか。
開いたままの携帯の待受画面を見る。もう一度メール作成画面を開いて、『話せるだけで十分』と打ち込み保存した。自戒を込めて。
学校につくと、美結が欠席していることに気がついた。
元気な子だけれど、体調を崩すと長引くタイプだから少し心配だ。体調を気遣うメールを送ろうとして携帯を取り出すと、着信ランプが光っているのが見えた。
心拍数が急上昇して、またお腹のあたりが変な感じになる。目を閉じて、一息ついてから携帯を開いた。佐藤さんからのメール。心臓どころか体全体が脈打ってるみたいだ。どくんどくんと、指先に回る血流のせいで指が思うように動かない。もどかしくて眉間に皺がよる。
からりと教室の戸が開いた。いつの間にかホームルームの時間が来ていたのだ。急いで携帯を机の中に押し込んで、膝に手を乗せ背筋を伸ばす。先生に睨まれたのは言わずもがな。
しまった、美結にメールを送れなかった。
お昼休みになり、お弁当をちまちま食べている時にふと携帯を見た。朝開けずにそのままにしてしまった佐藤さんからのメール。慌ててミニトマトを飲み込んで、箸を置いた。朝と同じように、一息ついてメールを開く。
件名:おはよう
本文:
最近朝会えなくてなんか調子が狂うね。
実は仕事が忙しくて、最近はもっぱら始発で出てるんだ。ごめんね。
今日は早く帰れそうだから、一緒に帰りたいな。五時半の電車でどう?
返信待ってます。
佐藤さん、始発で出てたの。
それなら、車両変えても会える訳が無い。急いで返事をして、携帯を閉じた。今日は授業が終わったらすぐに帰ろう。
授業の終了を告げるチャイムが鳴って、みんなが一斉に立ち上がる。かくいう私も椅子を跳ね飛ばす勢いで立ち上がった。
さっきから時計を何度も見たりしてそわそわしてしまっているから、先生も苦笑している。もう恥ずかしいとか言ってられないのだ。はやく佐藤さんに会いたい。
階段を駆け下りてローファーの踵もちゃんと入れずに小走りで学校を出た。今は五時前だけれど、もしかしたら電車を待ってる間にもお話できるかもしれないから。
信号を待っている間にローファーをきちんと履いた。もう駅は目と鼻の先だ。スカートの裾を軽くはたいて、気持ち身奇麗にして駅に入った。
まだ電車が来るまで少し時間がある。改札に定期券を入れて、駅のトイレに入った。
佐藤さんがいい匂いって言ってくれた鈴蘭の香水。アトマイザーに入れて持ち歩いているのだ。手首に吹き付けて、首筋にも擦る。洗面台の大きな鏡で髪の毛に変な癖がついてないか確認してからトイレを出た。
一番線ホームで佐藤さんを探す。濃いグレーのスーツをきちんと着こなした人なんてそういない、と思う。また、体全体が脈打っている。はやく、会いたい。
「佐藤さん」
「ああ、千鶴ちゃん」
十日ぶりの彼の笑顔が見れた。今日はそれだけで大満足。




