新たなる友との契約
「契約、ですか」
いままでになく真面目な声色で話すガウルに思わず声がうわずってしまう。
『そうだ。先ほどの簡易的な契約ではなく、竜と人とが真に心を通わせる正式な契約だ』
急な話の展開にどうしたものかと困っていると、みかねた王が助け舟を出してくれた。
『まぁまてガウルよ。急ぐ気持ちはわかるが彼も困っているだろう。まだ予言についても話してはいないのであろう?』
王にさとされ、いったん引くガウル。その様子を確認してから再び王が口を開く。
『これから話す事は恐らくそなたにも大きく関係してくることだ。心して聞いてほしい』
王の威厳のこもった声でそう言われ、無意識に姿勢を正して王の方を見る。
『この世界には我らの管理からもはずれた境界の魔女という一族がいてな。そやつらの目的はただ一つ、いずれ訪れると言われている世界の崩壊を止める事だ。そしてその内容を予言として私たち竜族に伝えている』
俺は一言も聞き漏らさないように王の言葉に集中する。
『世界の崩壊が具体的に何を示すのかは魔女達しか知らない。だが、実際に崩壊の危機は訪れ大きく世界が荒れた事がある。その時はそなたと同じように異世界から来た人間と我ら竜族が力を合わせて災厄を退けたのだ』
これが朝ガウルが言っていた話なのだろう。だが一つ引っかかる所がある。
「でも世界の危機がなんなのかはわからないんですよね?それなのにどうやってそれを回避したんですか?」
回避できたと言うのならば、何か原因があってそれを解決する事が出来たとうことでなければおかしい。
『その時は魔物の存在が大きく関与していて、奴らを殲滅する事で事態の解決を図った。世界のあちこちで魔物の数が急増し、それによって世界は大きく荒廃したからな。だが魔女が言うには本当の崩壊とはその先にあるらしい。そしてそれが一体何なのかは我らにもわからないのだ』
王が申し訳なさそうに言う。つまり、魔女の言う崩壊が訪れる前に問題を解決してしまったために、本当の危機が何なのかを知る事はなかったと言う事か。
『そして今、再び魔物がその数を増やしてきています。いままで侵入を許す事がなかった王国に魔物が入り込んできた事もその問題の一端であると私たちは考えているのです』
いままで黙っていたシュードが口を開く。
『重ねてそなたという異世界人の存在だ。ここまで条件が揃った以上、我らは再び予言の刻が迫っている可能性を考えねばならない』
どうも雲行きが怪しくなってきたような気がしてならない。だが、俺はこの話の中に一つの希望も見いだしていた。
「一つだけ確認させてください。かつて世界を救った異世界人はその後無事に元の世界に帰る事が出来たんですか?」
『あぁ。魔女の力を持ってすれば世界をわたる事が可能らしい。全ての問題が片付いたあと魔女は彼の者の前に現れて元の世界への扉を開いたと聞いている』
つまりは、だ。もし今起きてる事が過去に起きた事と同じならば増加している魔物を倒していけば、元の世界に帰る事ができるかもしれないということだろう。
「なるほど……。予言についてはわかりました。それで契約と言うのは?」
『それについては私が話そう』
ガウルが再び前にでてきて話し始める。
『かつてこの世界を救った異世界人は王の兄と契約を交わし、世界の各地を旅しながら魔物を討伐していった。契約したことで得られる力は先ほど実感したであろう?その力を奮って世界を守ったのだ』
俺は契約印が刻まれた手を見つめる。確かにあの時の力はとても強力だった。
『竜の能力は絶大な力を誇る。だが真の力を引き出すためには人間と心を通わせる必要があるのだ』
そのための正式な儀式、ということなのだろう。段々話の流れが掴めてきた。
『もちろん強制する事は出来ない。シュンが望むのであれば今すぐにでも人里まで運ぼう。だがきっと竜の力は君がこれから生きていくのに大きく手助けになるはずだ』
確かにガウルの言う通り何の力ももたない自分が見ず知らずの世界で生きていくのは難しいだろう。それに元の世界に帰りたい俺としても、竜達との利害は一致している。
「わかりました、俺でいいならぜひ契約してください」
考えてみれば異世界人と証明できる物すらもっていない自分をここまで信用してくれているのだ。俺にとってもこれは願ってもないチャンスだろう。
『では、契約の儀に入ろう。二人とも、お互いに向き合うのだ。ガウルよ、用意はいいな』
王の言葉に従い俺はガウルの方を見る。
『シュンは私の力を受け入れてくれるだけでいい。何、そんなんい難しい事ではないから緊張するな』
そう言うとガウルは人間の言葉ではない何かを呟いた。すると広間を照らしていた鉱石が一斉に眩しい光を放ち始め、思わず目を細めてしまう。
光がおさまると、地面には大きな魔方陣が描かれていた。正確に魔方陣が描かれている事を確認し、ガウルが契約の文言を唱える。
『汝、我が魂を受け入れ共に魔なる物を払うと誓うか?』
そう問うてくるガウルに、覚悟を決めて答える。
「誓おう!」
その言葉に満足したようにガウルは目を細める。
『感謝する。勇気ある貴殿に、我が力を授けよう!』
そういうと魔方陣からいくつもの光の線が伸び、右腕に絡み付いていく。そして全ての線が甲に刻まれた契約印に吸い込まれると、魔方陣が地面にとけ込むように消えていった。
『これにて契約完了だな』
ずっと見守っていた王が契約の終わりを告げる。確かに俺の中にガウルとの繋がりの様な物を感じ取れるようになっていた。
『私を受け入れてくれてありがとうシュン。これからよろしく頼むぞ』
俺はいままでより一層近しい存在のように感じられるようになったガウルに笑いかける。
「こちらこそよろしく頼むよ、ガウル」
長年の友のように感じられる蒼き竜に触れ、俺はガウルとの絆を確かめるように名を呼んだ。
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