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竜王との謁見

 俺が目を覚ますと日が大分傾いていた。

 どうやら結構な時間気を失っていたらしい。

 『起きたか』

 そばで寝そべっていたガウルが声をかけてくる。

 「俺、気を失ってたんですね」

 ひどく重い身体をなんとか起こして、ガウルの方を向く。

 『大分無理をさせてしまったな。やはり仮契約での身体同調は身体への負担が大きかったか』

 事態が事態だったとはいえ、結構無茶な事をやらされていたようだ。おもわず苦笑いを浮かべてしまう。

 「あいつはもういなくなったんですか」

 意識を失う前に魔物がいた所に目をやるが、もう何も残ってはいない。

 『あぁ、奴は跡形もなく消え去ったよ。シュンのおかげでひとまず竜族を脅かす存在は片付けられた』

 そう言うとガウルは身体を起こし、何度かつばさをはためかせて飛び立つ準備を始める。

 『竜族の恩人である君を改めて私たちの住処へ招きたいと思う。もちろん人間達のすむ場所へ送っていくつもりだが、その前にいくつか準備も必要だろうしな』

 その申し出を快く承諾し、ガウルの背中に再び飛び乗る。

 「連れて行ってくれるならば、ぜひ竜の王国を見せてほしい」

 竜の存在は魔法とおなじくらい元の世界ではファンタジーだ。

 その王国があるというならばぜひ一度自分の目で見ておきたかった。

 『それではいくぞ』

 先ほどとは違ってゆっくりと空へ舞い上がる。丁度日が沈む時間のため、空から見下ろす景色はどこも朱色に輝いておりとても幻想的だ。

 あまりの絶景に言葉をなくしているとガウルが声をかけてくる。

 『よい景色であろう。私も空からこの風景を見るのが好きでな。シュンにもぜひ見てほしかったのだ』

 竜お墨付きの風景を眺めつつ、頬をなでる風に目を細める。

 魔物との戦闘のときとは違い、ゆったりと飛行しているため吹き付ける風が気持ちいい。

 『住処についたら君の事は客人としてもてなす。だが一つだけ守ってほしいのだが、私と君とで退けた魔物の事は伏せておいてほしい』

 「構いませんけど、なぜですか?」

 『今回この神聖な土地に魔物が入り込んだ事は他の竜族には伏せられている。この事をしっているのは一部の竜だけなのだ』

 そういえば疑問だった事がある。

 あれだけ危険な物が入り込んでいたのなら、もっと大勢で始末した方が安全だったのではないかと思っていたのだが、どうやらそうもいかない事情があったらしい。

 『本来この地に魔物が入り込む事など不可能。そのため私たちの中に魔物を連れ込んだ物がいるのではないかという疑いを王が持っていてな。その者に勘づかれないためにもこの件は内密にされている』

 「そういうことですか。わかりました、絶対にしゃべりません」

 『助かる。さて、そろそろ見えてきたぞ』

 広大な森を抜け、さらにふたつほど大河をこえたところでいくつもの山が連なった地が見えてきた。

 目で見えるだけでも無数の竜が付近を飛び回っている。

 それにしも思っていた以上にここは広いらしい。もしガウルに出会わず一人で歩いて町を探していたらと思うとぞっとする。

 数ある山のなかでも一際大きい山の頂上付近に、ゆっくりとガウルは舞い降りる。ガウルが地に足をつけると同時に、俺も隣に飛び降りた。

 『私だ、帰ったぞ』

 そう言って少しすると、頂上付近の洞窟から一匹の銀竜が現れる。しばらくガウルとその竜が言葉を交わしていたようだが、うなり声にしか聞こえず何を話しているのかは理解できない。

 話が終わったのか銀竜が困惑している俺の方を向く。

 『これは失礼しました、ガウル様のお客人でいらっしゃいますね。私はガウル様にお仕いしているシュードと申します。この度は魔物の手から。我が主を守っていただき本当にありがとうございました』

 そういって深々と頭を垂れる。

 「いえ、そんな!むしろ俺が守ってもらってたというか、それに助けたと言ってもほとんど成り行きで!」

 焦る俺を見ながらシュードがおかしそうに笑う。

 『これはこれは、だいぶ殊勝なお方の用で』

 笑っている竜という奇妙な光景に、ついなんともいえない表情にっなてしまう。

 『シュード、あまりシュンをからかうな。私たちはこれから王に今回の事を報告してくる。シュンは少しここで待っていてほしい』

 そういうと、シュードとガウルは洞窟の奥の方へ入っていく。


 待っている間暇なのでとりとめもないことを考えてしまう。

 つい昨日まではあしたから始まる夏休みに心躍らせてたというのに、今では異世界で竜と共に魔物を倒して恩人として住処に招かれている。

 全くもって人生とは何が起こるかわかったもんじゃない。

 下手したら昨日の時点で死んでいたかもしれないわけだし。

 運がいいのか悪いのかと思わず頭を抱えたくなる。

 「まぁこうなってしまったものは仕方ないもんな。まずはこれからどうやって生きていくか考えないと」

 いつまでもガウルの世話になっているわけにはいかないだろう。

 自分は人間でガウルは竜である以上、生活を共にするわけにはいかないはずだ。 

 「とりあえず人里までつれてってもらってそこで何か職を探すか?でもただの学生だった俺にできる仕事なんてあるのかなぁ」

 先行きの暗さに苦笑いしか出てこない。

 できれば帰る方法も探したいし、やらなければならないことは山積みだ。


 あぁだこうだと頭を悩ませていると話が終わったのか洞窟からガウルが出てくる。

 『シュン、少し話がある。私についてきてくれないか』

 ガウルに呼ばれて一緒に洞窟の中に入っていく。その広さは相当なもので、天井は目で見る事も出来ないほどの高さがあった。

 少し歩くと、さらに広い広間の様な場所に出る。

 そこは広間全体が淡く輝いており、厳かな印象を与えてくる。どうやら壁に埋め込まれている鉱石が光をはなっているらしい。

 「またすごい綺麗な所だな。この世界に来てからこんな景色ばかり見てる気がする」

 ついつい感嘆の声をもらしてしまう。

 

 『客人よ』

 辺りを見回していると、広間の奥の方から声が聞こえた。そちらの方に歩み寄っていくと、シュードとその隣にもう一匹、ガウルよりも一回り大きい竜が佇んでいた。

 『そなたが異世界からの招かれ人か』

 ガウルとおなじ蒼い鱗を身にまとい、全てを見抜くかの様な眼差しはガウル以上の迫力を感じさせる。

 『そうです。ここにいるシュンが私を手助けしてくれた、異世界から来た少年です』

 「は、はい。花崎俊です。」

 おそらくあれが竜の王なのであろう。その迫力にすこし身がすくんでしまう。

 『そうか……。まずは礼を言おう少年よ。我が国を、そして我が息子を守ってくれて感謝する』

 

 いま、息子といっただろうか。

 ということはガウルは王子ということになるのではないか。

 そう思ってガウルに目線をむけると言ってなかったか?という眼差しを返される。

 「いえ、そんな。俺も助けていただきましたし、できることをしただけです」

 『そうは言っても中々行動に移せる事ではない。そなたの勇気はとてもすばらしい物だ』

 どうも持ち上げられる事に慣れていないせいか、べた褒めされると居心地が悪くなってしまう。

 だが褒められるのは素直に嬉しいので頭をさげて礼を言っておいた。

 『さて、ガウルよ。彼が来た事によって事態は大分変わってきた。先ほども言ったが恐らく予言の刻が近いのであろう。そのために何をすればいいかはわかっておるな?』

 その言葉にガウルは頷いて一歩前に出る。

 『わかっています。その予言を回避するために、私は彼をここに連れてきたのですから』

 そう言うと、ガウルは俺の方に向き直る。

 『シュンよ、私と正式な契約を結んでくれないか?』

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