竜と人と魔物の戦い
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『しっかり捕まっていろよ』
ガウルは巨大な翼を何度か羽ばたき、大空へと舞い上がっていく。
「おぉ……空を飛んでる!」
場違いな喜びをいだきつつも、森をぬけ草原の上空から魔物を見下ろす。
地を覆い尽くす黒い霧は徐々にその輪郭をはっきりさせていき、頭からは角を、背中からは翼を生やした悪魔のような形を作っていく。
『さて、今度こそとどめを刺してやろう。いくぞシュン!』
ガウルの背中から振り落とされないようにしっかり捕まりながら、俺はガウルと共に巨大な悪魔に突っ込んでいった。
『わざわざ奴の準備が整うのを待つ必要もないな』
未だ身体を変形させてる途中の魔物めがけて、ガウルはブレスを放つ。
蒼く光り輝くそのブレスが着弾すると、あたった場所から魔物がまるで凍りつくように水晶に覆われていく。
「おぉ、すごい!」
身動きが取れなくなった魔物が水晶から逃れようと身悶える。
『私は竜族の中でも水晶竜という特殊な種族でな。本来なら魔物程度このブレス一撃で倒せるのだが……』
どんなに足掻いても水晶を壊す事が出来ないと悟ったのか、魔物が抵抗をやめ再び身体を崩す。
そして水晶に覆われた所だけを残してまた悪魔の形に戻っていった。
『面倒な事に奴はそう簡単には倒れてくれなくてな』
身体を作り直した魔物の豪腕から何本もの触手が槍ように放たれる。
ガウルはそれを軽やかに空中で旋回しながらかわしていくが、触手が邪魔でなかなか魔物に近づくことができない。
俺は振り落とされないようにしがみつきながらガウルにむかって叫ぶ。
「あんなすぐ再生しちゃう相手どうやって倒すんですか!?」
『方法は二つだ。奴が再生できなくなるまで水晶化するか、もしくは奴の身体を構成してる核を破壊する。だが前回は水晶で覆い尽くす前に逃げられてしまってな。だから今度は核を破壊してしまおうと思うんだが、そこでシュンの力を借りたい』
すぐ背後を黒い槍が通り抜けていく。さっきから冷や汗がとまらない。
「俺は何をすればいいんですっ……!」
『私が奴の動きを完全に封じてる間に奴の核を壊してほしいのだ。まずは契約印に意識を集中させて君の思う強い力を想像してみてくれ』
強い力と言われても難しいが、とりあえず言われた通りやってみる。
すると甲に刻まれた契約印から光が溢れ、昨夜ガウルがナイフを作った時のように武器の形を模していく。
だが形成されたそれは、ナイフよりも何倍も長く、遥かに鋭かった。
「これは刀……?」
自分の手に握られたそれをまじまじと見つめる。
刀身、鍔、そして柄まですべてが蒼く透き通った刀は、武器というよりも芸術品のようだった。
そんな俺の様子をガウルが満足そうに見つめる。
『やはり素質はあるようだな。その武器は奴にとっては猛毒も同然だ。それで核を叩き切ってほしい』
「切るったって、あいつの核なんて一体どこに……!」
と、その時一瞬魔物が攻撃の手を緩める。
相手も疲れてきたのかと思ったが、ちらりと下を見てすぐに自分の考えが間違っていたと気づかされた。
『あれはまずいな』
魔物はその太い腕で地面を掴み身体を支えつつ、口元から黒いもやを垂れ流している。
その状態を確認したガウルは魔物の正面を向くと再びブレスを放つ。
それと同時に魔物も黒いブレスを放ち、空中で衝突した。
ガラスが割れる様な嫌な音を立て、衝撃が地面をえぐっていく。
所々ガウルのブレスがあたった場所が水晶化し、先ほどまで草原だった所が見る影も無いほど荒れていく。
『核の場所は常にあの体内を移動している。人間の目では核をとらえることはできないだろう。だから今から私の目を貸す』
ブレスを防がれた魔物は遠距離攻撃ではきりがないと踏んだのか、今度は翼をはためかせ上空へ飛び上がろうとしている。
『目を瞑れ。少し熱いが我慢してほしい』
言われた通り目を瞑るが、不安定な空中で視界を塞がれるというのは相当怖い。
『いくぞ』
ガウルのかけ声と共にまず手の甲が再び熱を帯びる。そして次に両目が燃えるように熱くなる。
「うっ……ぐっ……」
思わずしがみついている手を離して目を抑えそうになるが必死に堪える。
十秒ほどして熱がひいていき、ゆっくりと目を開けると目に入った光景は想像以上の物だった。
「なに、これ……」
魔物の身体にはいくつもの赤い線が走り、血管のように脈動してる。そしてその赤い筋は全て一カ所から伸びているようだ。
「あれが核か……。それにしてもこれは一体」
呆然と呟く俺にガウルが答える。
『私たち竜族は世界の守護者であると同時に魔力の管理者でもある。それゆえ竜の目は魔力の流れをみることができるのだ』
つまりあの赤い線は魔力の流れという事か。
そう思ってガウルをみるとガウルにも蒼い線が走っている事に気がつく。
『生きる物全てには魔力の流れが存在する。魔力は生命力の一部でもあるからな。そしてそれは私とて例外ではない』
俺の視線に気づいたのだろう、ガウルがわざわざ説明を付け加えてくれた。
「色々戸惑う事はあるけど、でもこれなら!」
核はちゃんと目視できるし、それを壊す術もある。
さきほどまでは無謀だとしか思えなかったがこれなら俺でもやれるかもしれない。
『準備は整ったようだな。では反撃に入るとしようか』
空を飛んで追いかけてきている魔物から逃げ回るのをやめ、急旋回して魔物に向かいあう。
突然の行動に意表を突かれた魔物に一瞬隙ができ、そこを見計らって上空から接近したガウルが蹴りを叩き込んだ。
墜落した魔物は地響きをあげ地面にのめり込む。
ガウルはそこに追撃をかけるようにブレスを放つ。
再び身体の表面を水晶で覆われた魔物は身体を崩して逃げ出そうとするが、ガウルがそれを許さない。
ガウルが大きく翼をひろげると、その周囲に大量の魔方陣が浮かび上がる。広げた翼をはばたかせると数十はあるかと思われる陣から光の矢が雨のように降り注いだ。
着弾と同時に魔物のむき出しの箇所を水晶が覆っていく。魔物は逃げ出す事も出来ず身体をくずしたまま身動きが取れなくなる。
『いまだシュン!』
かけられた声と共にしがみついていた手を離してガウルの背を蹴り空へと身を投げ出す。すでに覚悟は出来ていた。
「うおぉぉぉぉぉ!」
俺が飛んだのを確認すると、ガウルは最後の仕上げにかかる。
『砕け散れ!』
その言葉をきっかけに、魔物の表面を覆っていた水晶に無数にひびが入りばらばらに弾け飛ぶ。
巻き込まれた魔物も大きく体積を削られその核を表面付近にうかびあがらせた。
落下の恐怖を叫ぶ事で和らげ、核に向かって一直線に落ちていく。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
そして、すれ違い様にむき出しの核にむかって思いっきり握った刀を突き刺した。
そのまま地面に激突するかというところで、急降下してきていたガウルの手によって救いあげられる。
『お手柄だぞシュン、よくやってくれた!』
落下の恐怖から解放されて、安堵感から身体の脱力がひどい。ガウルが俺を抱えたまますぐに地面に降り立つと、倒れ込むように地面に寝転んだ。
「や……やった、はは、全く、昨日今日だけですごく度胸がついた気がするよ……」
みると魔物はぷるぷると震えながらその身体を溶かしはじめていた。溶け落ちた身体の一部は霧散して空へと消えていく。
『私たちの勝利だな。シュンが勇気を出してくれたおかげだ。本当にありがとう』
勝ち誇った様子のガウルを眺めつつ、安心しきった俺はその言葉を聞きながら意識を手放した。