第3話 通称ウザ組
「ふわぁ……やっと帰れたな……」
「アンタがコンパス失くした上に方向音痴のくせして先導するからでしょ」
「今回はどの位かかりましたの?」
「二年と百四十二日五時間四十八分三秒だ」
「細けぇこたぁ気にすんな」
「確かにハッカーは細かいですが、隊長は大雑把過ぎますわ」
先頭を歩くのは、第零部隊隊長、ロイジー・クルセード、通称ロッズ。
紺色のような黒色の長い髪を後ろで纏めている、背が高い美青年。
結構女子から人気がある。。
その後ろに続くのは、第零部隊副隊長、ラン・カンラ、通称ララ。
深紅の髪で、平均的な身長の童顔な美少女。
ロッズはララを一番信頼しており、ララもまたロッズを一番信頼している。。
三番目に続くのは、メルキア・セシ=クリューダス、通称メリア。
長い金髪をカールにした、スタイルの良い美少女。
お嬢様風で、女性にしては背が高い方。
最後を歩くのは、ハットウォーカー、通称ハッカー。
腰の辺りまである漆黒の髪の、これまたクールな美青年。
無駄に細かい。
更に背中にドデカイ本を背負っている。
「お前等目立ち過ぎだろ……」
「おっ、アルじゃん!お久~」
「聞いてよ。本当なら三日で帰れたのにまたロッズのせいでさぁ……」
「いや、例えロッズがコンパスを失くしていなかったとしても、計算上五日と十六時間五分三秒は掛かっていた」
「細かいですわよ、ハッカー」
「お前らもう一回どっか行って来いよ。そして今度は10年位帰ってくんなよ……」
この面倒な時期に面倒な奴等が帰ってきて、面倒の二乗だ。
二倍ではなく二乗。
「いやいや、今回はしばらくどこにも行かねぇよ」
「今忙しいんだよ。どうせお前等手伝わねーだろ」
「あっ、今かなり失礼な事言ったよ」
「……俺達が手伝えば、およそ3.9586733倍は効率が上がるだろう」
「およそ、と言っているのに細か過ぎますわよ」
「お前等マジでウゼェよ。何?お前等はウザさの塊か?」
忙しいって言ってんのに、何故こんな奴等に時間を裂かねばならないのだろう。
というか、さっさと帰ってもらえば良いんじゃないか。
「隊長、彼等は……?」
お前まだいたのか。
イルス・テラス……。
「第零部隊、通称ウザ組」
「よろしくな。ってかさっき言ってた忙しいってどういう意味だ?」
「今度第七部隊を編成する事になったんだよ。にも拘らずお前等が帰ってくるからさぁ……」
「ふぅん……あ、団長いる?報告行ってくるからさぁ」
「団長室に居るだろ。迷子になんなよ」
「気を付ける」
そう言うと四人は行ってしまった。
最後「迷う訳ねーだろ」と言わなかったのは、その可能性があるからだろう。
いつかで帰って来られる筈なのに、ハッカーが付いていたにも拘らず、二年かけてしまう様な奴だ。
何があってもおかしくない。
「い、行ってしまいましたね……」
「そうだな」
そう言えばまだ仕事が残ってたんだった。
「久し振り、第零部隊の皆」
「久し振り、団長さん」
ウィンツとロッズは向かい合ってソファに座っている。
他の三人も何かしら椅子に座っている。
「今回は長かったね」
「二年と百四十二日五時間四十八分三秒掛かった」
「細かいわ」
「で、報告って何?」
「ん?」
「へ?」
二人して間抜けな声を出すウィンツとロッズ。
「報告……?あー、あれっすよ。なんか今度第七部隊がどーたらこーたら……」
「あー、やってるねー、アル君がやってるねー」
「なんかそれ面白そうじゃん。俺にも何かやらせてよ」
「君達が関わるとロクな事が無いでしょうよ」
ウィンツは自分で言った後爆笑する。
ただ、四人は苦笑すらしない。
どこが面白いのかすら解っていないからだ。
「ま、君達がする事は無いよ。ただ、気になる話を聞いたからそっちの方を調べて欲しいんだ」
「やだ」
「一応第七部隊の件と関わってくるかもしれないんだけどなぁ」
「よし、話を聞こう」
軽い。
軽過ぎる。
メリアもハッカーも口を出さない。
口を出しても無駄だと思っているからなのか、面倒だからなのか。
「『聖冠団』が国のお偉いさんから嫌われてるのは知ってるよね?」
「……………」
ロッズは振り返ってハッカーを見る。
ハッカーは仕方ないと言わんばかりに溜め息をつく。
「三年前のあの事件。アレ以来俺達と王国側は関わりを持つ事をやめている。上層部には嫌われていてもおかしくは無い、と言う事だ」
「うん、その通りだね。けどそんな国のお偉いさんから直々に依頼が来たんだよね」
「……この時期に、か」
「気になるよねぇ。しかも内容が『王女の護衛』だよ?」
「かなりの人員を裂く事になりますわね」
「この忙しい時に団員を減らす………捻くれてる僕にはコレが何かの陰謀にしか思えない訳なんだ」
捻くれていなくともそう思うだろう。
バカほど純粋でなければ、誰もがそう思ってしまう。
「でさ、ここで頼みたい事があるんだけど……」
「何だ?」
ウィンツはにこやかな笑顔で、言い放った。
「『聖冠団』を守ってよ」