八話!突撃された友人
よく見ると、朱音という名前らしき人は、遊のお母さんと話していた
「だ……、遊……は、わ……と……こ……!」
駄目だ。よく聞き取れない。横にいる遊は、朝ぶつかった人が、なぜ家にいるのかがわからないようで、怪訝な顔をしていた。事実、俺もわからないが。
注目していたので、少し自転車の速度が遅くなっていた。
「おい、遊。なんだかわからないが、とりあえず急ごうぜ」
気になったので、少し急かすことにした。というか、話し合いをしないと、状況がわからん。
「そうだな」
と遊が言うと、俺らは数十秒、全力で自転車を漕いだ。
遊の家の前に着くと、まだ朱音というだろう人は帰っていなかった。遊の母さんも困った顔をしている。
「おい、どうしたんだ? 怪我でもしたか?」
遊が質問する。
「あ! 遊君!」
こいつ、一瞬で笑顔になったぞ。そんなに会いたかったのか。
「え? てか、おまえ俺の名前なんで知っているの?」
「確かにな~」
噂で聞くこともあるだろうが、写真付きで出回ることは少ないと思うし、家の場所まで着いていたら、ストーカーだろう。
「というか、朝ぶつかっただけで、何で遊の家を知っているんだ?」
疑問が出たなら、質問をするしかないでしょう。
「え? 調べてきたんだよ」
当然のように言ってきた。常識が崩れ落ちる音がする。というか、遊の母さん、まぁ、長いからおばさんにしておこう。おばさんも困ってるし……
「調べたからって、何で家にくるんだよ。というか目的は何だ。朝ぶつかっただけで、何で俺の家にくるんだ?」
「え? 将来私と遊君が結婚するから、その報告をお義母さんにしに来たんだよ?」
常識が10段階位、過程を通り越して崩れ落ちた。
「「は?」」
俺と遊の声が重なる。というか俺、ここにいるのが場違な気がしてきた……
「だって、私が遊君とぶつかったときにね。電撃というかね。なんかビビッってくるものがあったんだよ。もうこれは、運命でしかないと思ってね。下僕を使って、遊君のことを徹底的に調べたんだ」
音符が付くような調子で、目の前の女は言う。女と言うより、ストーカーじゃねぇか?というか下僕って何だよ。怖いよ。そんなことを考えていたら、遊が口を開き、
「まぁ、下僕云々はスルーして、運命とかもスルーして。まず、俺はおまえのことを知らない。そんな中でいきなり、運命がなんだとか結婚がなんだとか騒がれても、訳が分からない」
運命について、スルーできてなくね?まぁいいやそんなことは多分どうでもいい。
「え? 私と遊君が結婚するのは、運命と言う名の花道によって決められてるんだよ。べつに名前なんて関係ないじゃん。花道に沿っていけば幸せだよ」
こいつの脳内は大丈夫なのか本気で心配になってきた。開いた口がふさがらずに、一気に広げられてるようだ……
「とりあえず俺はおまえと結婚する気などさらさらないし、今、家にこられても迷惑以外の何物でもない。一回ぶつかっただけで運命とか言われても、俺は精神科医を紹介することができない」
遊言い切った。男だけど惚れちゃいそうだね!とかいうと、佐々木とか、お仲間に色々言われそうだからやめておこう。
「そっか……確かにまだ出会ったばかりだもんね! 仕方ないね! でも、私たちは運命から、逃げられないんだよ!」
納得したに思えたが、後半はお花畑になった。そうしたら、車の音がした。振り返ると、高級車としか、表せないような車があった。
中から出てくる黒服。一瞬俺と遊が身構えると、
「朱音お嬢様、今帰らないと、お夕食の時間に間に合いません」
「しょうがないなーわかったよ、安藤」
そう言った後、遊の方を振り返り、
「名前くらいは覚えてもらわないとね! 私の名前は北条朱音だよ!」
そういい、嵐のような出来事は、車とともに去っていった……
8月25日 多少訂正