三十一話、決別
朝起きたとき、寝覚めがすごく悪かった。なぜだかはわからない。ただわかるのは、今日は不吉なことが起きそうだということ。
「最悪だ……」
俺はつぶやく。誰もいない一人のベッドの上でつぶやく。ベッドから転がり落ちて起きた時刻は7時前。急ぎ支度をして、何とか学校に行く時間ぎりぎりに間に合わせる。
「いってきまーす」
飯も腹八分も行かぬ、腹五分くらいしか食べずに、俺は家を出た。今日は午前中はすごく腹が減るんだろうなと思いながら。寝起きが悪くて悪いことが起きそうだと思ったのを無視しながら。自分の記憶を忘却という無視をしながら……
家を出て感じたもの。一瞬わからなかった。すぐに気づいた。
遊がいない。
珍しいという騒ぎではない。風邪でも引いたのかと考えたが、それなら前日に連絡してくれる筈だ。あいつは無駄なところで律儀だからな。用事も……前述と同じ理由で無し。いや、急な用事か? まぁ、前例がないことだからわからない。とりあえず遊の母さんに聞いておこう。
聞いたら遊はもう学校に行っているらしい。なぜだろうか。わからない。まぁ、気にしてても仕方がない。俺は学校に向かうことにした。その日の登校は注意力が散漫になっていたらしい。結構な数の人から注意された。注意しないとな。そう思いながら、俺は学校へたどり着いた。
ざわざわと、教室から話し声という名の喧噪が聞こえてくる。そんなものを気にする必要はない。俺は遊の席に行き、
「おはよう」
遊に挨拶をした。まぁ、先に行ったことについてはわざわざ聞くこともないだろう。というか、前例がないものの対処法ほど難しいものはない、ということだ。
「おう、おはよう」
遊が挨拶を返してきた。つもる話なんてものはない。なんか、いつもと違う動きだな、と、自分で苦笑しながら席に着いた。そして朝の準備をした。多少忘れ物を見つけた。どうしようか少し悩むが、気にすることもないのだろう。机の中からラノベを出して、読み始めた。今日は日常ものか……
「俺は二年前と、決別する」
休み時間。遊が急に俺に言ってきた。決別? 訳が分からない……こともない。昨日の話を聞いて、二年前のことはなにも考えずに、高校生活を満喫しようと思ったのだ。遊の考えを反対する権利は俺にはない。だが、
「その決別に俺は入っているのか?」
これは聞かずにはいられなかった。それに対して遊は一瞬困ったような目をしながら、目を伏せ、
「ああ……」
と、小さな声で呟いた。