三十話、帰宅
どうしたものか、俺と遊の間には、なんとも言えない沈黙が続いていた。どちらからも言葉を発することはなく、心に楔を打ち込まれたような沈黙が続く。
北条に言われたことがそんなに心に刺さったのだろうか。わからない、俺にはわからなかった。俺自身にはそれほど刺さっていないと思う。二年前の事件。それを考えながら生きていて何が悪いのだ? 俺はそればかり考えていた。そのせいでなのかはわからないが、注意がおろそかになってた。それを見かねた遊が、
「危ないぞ、空太」
と、忠告してくれた。
「お、サンキュ」
自分で注意がおろそかになってたことを再認識した。このまま車に轢かれたとしても、轢いた人に文句は言えまい。
「どう思う? お前は」
会話が始まった気がしたので、俺は遊に聞いてみた。遊は察しがいいはずだ。これで伝えたいことは伝わるだろう。
「わかんね」
単純に一言で答えられた。
「そうか」
と、俺が一言だけで返した。やっぱ、いきなり言われてもわかんねーよな。と、心の中で遊に同調した。だが冷静になって考えてみると、遊は、俺と違い、北条の意見を真剣に聞いているということを、なんとなくだが理解ができた。そうか、俺みたいに頭ごなしに否定しているだけじゃないのか。なんとなくだけだが、そんなようなことを頭を横切る。
「でもさ、」
遊は続けた。何がでもなのだろうか?
「俺は逃げているとは思わなかったけど、逃げていると思われるような行動をしていたってことだよな」
自分だけじゃ世界は廻らないのだ。そう、おれは実感した気がした。自分からの自分への評価。それだけでは、自分という名の物語を紡ぐことはできなくて、他人というなの異分子が流入してこその、自分という名の物語なのだ。自分だけじゃダメなのか。愛されなかったんだからいいじゃないか。俺は愛されたいんだ。
「逃げたくはねーよ。カッコわりぃ」
格好いいと格好悪いで判断していいのかは、俺はわからなかった。ただ分かったのは、俺は愛されたかっただけ。愛されている遊はなにを贅沢しているのだろうか、と思った。
「お前が羨ましいよ」
素直に俺は言った。
「なんでだ?」
遊は聞き返してくる。当然だろう。意味が分からないだろう。ハハハハハハハ
答えられない遊をあざ笑った。俺の顔を見て、苛ついたのだろう。俺の笑い顔はそんなにいらつくような顔なのか、と少しだけショックを受けた。
「なんなんだよっ」
軽く遊は俺をつついてくる。軽いスキンシップだな。
「それだけお前は恵まれているってことだよ」
自分も十分恵まれているのだろうか? 他人から見ないと恵まれているかはわからないのだろう。そう俺は実感した。
その後、俺らは、軽い世間話をしながら家に帰った。ラノベの話題は意外と尽きないし、アニメの話題だって尽きない。まだオレらは一介の高校生なのだ。オタク趣味を謳歌したっていいじゃないか。オタク趣味を謳歌するのだって、青春を謳歌するのだって、大して変わらないだろう。そう思いながら、俺は家に入った。