二十四話、二年前そのに
「私、遊君と付き合うからっ」
朝、登校時、俺は一瞬頭が真っ白になった。目の前の沙羅が、俺の頭では理解できないことを言ってくる。隣にいる遊は、顔を赤らませながら、
「まぁ……な……」
と、肯定している。倒れそうに、叫びそうに、走り出しそうに、数々の欲望を俺は押さえた。その中には、今ここで沙羅を襲うというのもあった。だが、俺は我慢した。何故かはわからない。強いて挙げるならば、一般常識というものが、俺の頭の中を回りだしたからだろうか。回っても益にならないのに、益になると信じて踊り回る。一般常識はそんなものなのだろう。そんな、わけがわからない脳内思考を経た後に、
「おめでとう……」
少々複雑な、賛辞の言葉を贈った。
それからの日々も、今までとは余り変わらなかった。三人に俺が入れないことが増えたが、以外にも俺も入り、三人で遊ぶ方が多かった。俺がその環に入れるだけの、おもしろい奴なのか、ただの惰性なのか、俺には判断がつかない。
遊と沙羅が付き合い初めてからは、俺は魂が抜けたようだった。自分でも理解できるほどの、燃えつきぶりだった。だからなんだ、と言われるかもしれないが、ここで、それは重要なことだと、俺は感じた。何だろう、二人を眺めるのが増えた気がする。ほかのクラスの奴と話す回数も減った気がする。教室の後ろから、教室全体を見渡していた気がする。なんだろう、これが非リア充への入り口なのだろうか、時々馬鹿にしていた、休み時間は眠っているような奴も、事情があるのかな、と頭の片隅で感じた。
俺が悲しみに打ちひしがれているときにでも世界は回るらしく、遊と沙羅が付き合い始めてから、既に一週間が経ったようだった。自暴自棄になりかけていたが、そんな生活にならずにすむのは、遊と沙羅のおかげ。皮肉にも彼らは、俺を規則正しい生活に導きたいようだった。そのせいで、やけ食いとか身体に影響のありそうなことができず、仕方なくラノベをやけ買いした。我ながら意味が分からない。
学校の帰り道、俺はそんなこんな回想をしているのは、隣にその遊と沙羅がいるからだ。日は少し、落ちている。今日は部活がないので、早めに学校から帰っている。
「おう、今日はどーする?」
遊が聞いた。部屋には積まれたラノベがまだ十冊以上残っている。これでも半分程度は読んだらしい。本を読むとその世界に没頭するのか、余り記憶がない気がする。内容は覚えているが。要するに、ラノベ読みたいなーってことだ。
「遊君がいるなら、どこでもいいよー」
俺が横にいるのに、思いっきりのろける。仕方ないか。仕方ないな。
「そうかー、なら久々に、ボードゲームでもするか」
そういえば、TRPGやってないなーと俺は思った。遊と沙羅のために久々にGMでもやってやるかな、と、俺は考えた。そんな俺の考えたことがわかったのか、
「TRPGでもやるか」
と遊は言った。まぁ、冷静に考えると、学校からの帰宅した後の時間でTRPGをやるとか、時間がかかりすぎて無理だろう。と考えた。こうしてみると、自分で考えることは、主観的にしか、観れないな、と感じた。
「もう時間的にむりでしょー」
沙羅が言った。
「それもそうか」
遊が同意する。俺は無言でいた。それを肯定と受け取ったのか、遊と沙羅が話を続けた。
「結局どうするの?」
沙羅が聞いた。
「今日はもう解散でいいっしょ」
俺は言った。俺が先に言えば、この二人も心おきなくデートにでも行けるだろう。そんなことを思うのは、俺の自意識過剰だろうか。自分で自分は主観的に観れないな、と、自嘲する。
「そうかーわかった」
そう、沙羅は言う。だが、そんな判断に不服なのか、
「空太、今日は久しぶりに、俺とおまえサシで遊ぼうぜ」
そう遊が言うのだった。
過去編はかなり多めになりそうです。たぶん。