二十二話、友人宅
遊の部屋で、俺と遊は沈痛な表情をしながら座っていた。どちらから、言葉を発することもなく、静寂な時間が過ぎていく。
静寂を破ったのは俺だった。非リア充の悲しき性質なのか、他の人と居ると、何かを喋らなければ、といういたたまれない気持ちになるのだった。
「それで、今日なにがあったんだ?」
帰宅後、事前に約束もせずに、遊が俺の家にくるなんて珍しい。要するに、ラブレターのことで何かあったと考えるのが妥当な所だろう。
「あぁ、今日、あの後さ、屋上に行ったんだよ」
途切れ途切れ、といった風に、遊が語り始める。
「そこにはさ、女子がたくさんさ、居てさ、」
遊は辛そうだ。声のトーンが段々と暗くなっていく。
「それでさ、屋上、女子、ってことで、軽くトラウマがさ、出てきたんだよ」
あれか……
「それでさ、その中に佐々木とか、三井も居てさ、俺がきた瞬間に……」
「誰がいいか選べ、だとさ……」
何だろう。このいたたまれない感覚は。辛い親友が居て、助けようと思うのに、頭のどこかでは、親友を罵倒する言葉……聞コエ……
「誰も選びたくないって言うのにさ……」
イウナ……イウナヨ……壊れていくダロウ?
「もう、俺は、二年前で懲り懲りなんだよ!」
遊が叫びだしたのは判った。判っている……でも、ノウが、ニンシキ、シナイ。
「おい、大丈夫か!?」
遊が、俺の様子に気づいたラシイ……多少は直ってきタ……
「あぁ、辛いんだな……」
今の一言、俺の言葉は誰に向けられたんだろうか。遊?俺?振られる末路しか見えない女子?それとも……アイツ?
「まぁ……な」
言葉の真意をはかり損ねているのか、煮えきらない様子で、遊は言った。言った本人ですら理解していないんだよ。聞かれた方が理解できたら天才だね。
「それで、どうなったんだ?」
まぁ、一応終わりまで聞いとかないと、気になって夜も眠れないわけではないが、寝付きが悪くなるのは事実だろう。遊は親友だから、それを気にするのは当然だ。と心の中で反芻する。嗚呼、崩れそうだ。
「結局さ、とりあえず保留にしたんだよ。で、お前に相談したいわけだが、昔こともあるしな」
成る程、きたときの表情が暗かったのは、二年前を思い出していたからか。リア充の親友ポジション、そんな人、所謂超人のような人なら、ここで確実に的確なアドバイスをするだろう。だが俺は、非才だ。
「まぁ、お前が思った通りに行動するしかないと思うよ。二年前のこともあるから、そう簡単に行かないだろうけど……」
月並みな答えしかできない。所詮凡人。こんなところでも、絶対的な格差を見せられた気がした。
「そうだなっ。有り難う」
何のアドバイスにもなってないだろうにと、自嘲しながら、
「じゃぁな」
俺は遊の家を後にした。
遊の家のドアを開け、昔通っていた中学校に目を向ける。アレがあるまでは、人生で一番楽しかったな、と思える場所に……
次回過去編入ります。