悪役令嬢の旦那さん
キミはその容姿と家柄で随分損をしてきたと思う。
強気な態度、男のような物言い、敵対した相手に対する容赦のなさ。
どれもがキミを形作るものだ。
けれど、それだけじゃないことを知っている。
だから俺は――。
今日は王太子であるカーズの誕生日パーティー
国中の貴族や王族が集まり、会話に花を咲かせ、音楽が会場を包み込む
その中で俺は挨拶を交わし、パーティー会場の片隅に佇んでいた。
昔からどうもこういう空気が苦手だ。
一応貴族ではあるものの、表では着飾り、裏では陰口や相手の上に立たんとする社会が肌に合わない。
にこやかな顔の裏を想像すると、挨拶するだけでも面倒だ。
そんな俺が貴族らしくないと言われればその通り。
それがいいという平民と、だらしないと陰口をたたく貴族達。
やることはやる、だから放っておいてくれ。
ため息をひとつついて、酒を一口のむ。
「・・・・・・やれやれ・・・・・・っと」
俺とは別の意味で、貴族達から厄介者扱いされているセレスティアを見た。
セレスティアは俺の従姉にあたる。
視線の先にいる彼女は堂々としたものだ。
隠している気があるのかという陰口や視線を受けてなお、彼女は負けていない。
そんななかで、現れたカーズも堂々と――。
ん?
「すまないセレスティア、僕はキミとの婚約を破棄する」
パーティー会場で、カーズの声が木霊する。
その言葉に辺りがしんと静まり返った。
カーズは王太子であり、今後この国を背負う人物。
その相手に選ばれたのが従姉のセレスティア。
王族に縁があり、この国で強い立場を持つ貴族の娘。
その美貌と政治的手腕を買われ婚約者に選ばれたのだが。
カーズはこれを破棄したいと言い出した。
「僕がどれだけ愚かな事を言っているか、キミの尊厳を傷つけるのか、多くのモノに迷惑をかけるのか、それを分かって尚――僕は決めたんだ」
この時。
キミの婚約者の言葉と、その時見たキミの本心を覗く横顔が見えた。
何をバカなという空気とセレスティアをよしとしない者達の「ざまぁみろ」と言わんばかりの視線。
それをみて、決めた。
「わ――」
「ならさ」
キミが全てを受け入れる前に、宣言しよう。
「俺がキミの夫になるよ」
人の波をこえて彼女の傍まで歩み寄って、堂々と。
「ダース?」
従姉のキミが、好きだから。
俺はキミをよく知っている。
強気な態度は弱さを見せられなかったから。
男のような物言いは、自分を鼓舞するため。
敵対する相手の仕打ちは、自分の大切なものを守るため。
俺はそれを知っている。
本来なら、俺がそれを口にすることはなかったろう。
カーズは良い旦那さんになると思っていたから。
けれど、そうはならない。
カーズはセレスティアを選ばなかった。
なら、もう抑える必要はないよね。
「ダース・・・・・・こういう時にそんな冗談は笑えない」
「大丈夫だよ、冗談なんかじゃないし」
キミに近寄り、まっすぐ見つめる。
「カーズ?」
「本気だよ、俺は。ずっと昔からキミが好きだったんだ」
「・・・・・・」
「もちろん、だからこそ分かってる。俺はキミのお眼鏡にかなっていない、とね。けどそれは今までの事だろう? セレスティア・・・・・・俺はキミを愛してる、その気持ちをこれから証明していきたい。カーズ、構わないだろう?」
「・・・・・・僕にどうこういう資格はない。構わないというのはセレスティアを軽く見ている言い方になってしまう」
「キミの誠実な所、良いと思うよ」
だからこそ、託せる相手だと思っていたのだし。
「だけど、キミの言葉でセレスティアを傷つけたのは事実、だから歯を食いしばれ」
そういって、カーズの頬に思いっきり拳を叩きつけた。
反応できなかったのか、もしくは避ける気がなかったのか、俺の拳をそのまま受けて倒れ混む。
それを見下ろしたあと、彼女の手をとる。
その時今までない顔をしているのが、可笑しくて愛おしかった。
握りしめたまま会場をあとにした――――。
会場では様々な言葉が飛び交うが、知ったことではない。
俺は好きな人を妻にすると決めたんだ。
そして彼女は人に媚びないし、譲らない。
ならば、彼女の夫になる俺も。
これから堂々としていかないとね。
「――って感じだな」
「ふんふん」
「おや、当時の話し?」
「ああ、馴れ初めを聞きたいと娘にせがまれてな」
「いやぁ照るなぁ」
「何を言う、私の悪名や権力を一切無視し、手籠めにした男のくせに」
「いちいち言い方が悪役っぽいよねセレスティア」
「お母様はお父様が大好きなのはわかっていたけど、はじまりはそんな感じだったのねぇ」
あれから時は流れ。
王家は色々な問題はありつつも、王となったカーズと新しく選ばれた王妃が手を取り合い、国を繁栄させて。
セレスティアは前とかわらずそれを支えている。
悪名・・・・・・敵対するものに一切容赦なしなのはその通り。
けれど彼女の家族はとても温かい場所なのであった――。
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