美味しい話1-1
「仁太郎このバイトに応募しなよ」
家から出ない兄の白い手から渡されたのは〝急募!即日高収入!一日だけでもOK!簡単なスーパーのお仕事!「スーパーふくま」で一緒に働こう!“という、怪しいアルバイトのチラシだった。
チラシを満面の笑みで手渡した兄の周り、四畳半の二人暮らしのアパートの中は溢れんばかりの配達物。全て兄が注文した商品だった。今月の家賃もまだ支払っていないのにクレジットカードは上限に達している。
「ごめんね ちょっとお金使いすぎちゃった。我慢はしてたんだけどこのチラシがポストに入ってて 即日高収入なら買い物しちゃっても大丈夫かなって思ったんだ」
きっと他所のご家庭なら兄の言動はまかり通らないだろう。
「わかったよ兄さん。このバイトに応募してみる」
「仁太郎!頑張って!今晩は仁太郎が好きなピザ注文しよっか!」
無邪気にはしゃぐ兄が先月分割支払いで買った最新スマホで電話をかけ始めた。その様子を見守る仁太郎は幸せに満ち溢れていた。
アルバイトの応援は電話で、すんなりと合格した。
『アルバイトの応募かにゃ?是非!明日からでも早速働いて欲しいにゃ!!時間は…』
語尾が少々気になる店長だという人から早々に時間まで指定され、今は電車に揺られて勤務地に向かっている。
車窓から見える景色は地方都市から田園へと変わっていった。
自宅から約30分。最寄駅は無人駅だった。生理現象で寄った駅のトイレがボットン便所だったのは二度見してしまった。トイレの穴は暗く下は見えないが穴からなんだが風を感じて引っ込んでしまった。
指定された場所は無人駅からさらに徒歩30分。それは田園の中にポツンとあった。
田園広がる片田舎にまるで相応しくない、禍々しい、天高くそびえ立つナニかは蠢いていて雲がその周辺にのみ黒く巻かれていてその頂はみえない。そのナニかの根本に申し訳程度に寂れたスーパーマーケットが埋もれるように建っていた。




