成績トップの生徒が、一番後ろの席の女の子に恋をしたとき。
成績トップの優等生が、教室の後ろの席の女子に恋をしたとき
第1章 ― 一目惚れではなく……最初に抱いた「気掛かり」
朝の7時20分。
いつものように、校門の外には生徒たちの群れができていた。宿題を仕上げている者、売店で買ったサモサを片手に走る者、そして出席確認が始まる前に教室へ急ぐ者たち。
そんな喧騒の中、一人の少年が急ぐ様子もなく校内に入ってきた。
アーラヴ・マルホトラ。
11年B組の成績トップ。
あらゆる試験で1位。
先生たちのお気に入り。
そして、生徒たちから見れば……少し退屈な優等生。
「おはよう、アーラヴ!」
廊下で数学の先生が笑顔で声をかけた。
「おはようございます、先生」
それだけ言うと、彼は自分の教室へと歩いていった。
教室はいつものように騒がしかった。
だが、アーラヴが席に着いたその瞬間……
「見ろよ、ガリ勉の登場だ」
後ろの席から誰かが囁いた。
クラス中がどっと笑いに包まれた。
アーラヴは反応すらしなかった。
彼にとっては日常茶飯事のことだったからだ。
彼は鞄からノートを取り出し、迫るテストに向けて公式の復習を始めた。
その時、教室のドアがゆっくりと開いた。
少し息を切らした様子の女子生徒が入ってきた。
「ふぅ……間に合った……」
彼女は胸に手を当てた。
それは……
カーヴィヤ・シャルマ。
クラスで一番成績の悪い、あの女子生徒だった。
だが、もし誰かに「クラスで一番幸せそうで、明るい生徒は誰か」と尋ねたら……
答えは一つしかなかっただろう。
「カーヴィヤだ」
「おはよう!」
彼女は笑顔でクラス全体に挨拶をした。
「おはようって、何が?」
「昨日のテスト、赤点だったんだろ?」
「今回は10点取れるかな?」 後ろの席からそんな声が飛ぶ。
クラス中が笑い声に包まれた。
カーヴィヤも笑っていた。
「うん……たぶんね」
彼女は笑って受け流した。
だが、ほんの一瞬だけ、彼女の目尻が下がった。
その一瞬の表情に気づいた人物が一人だけいた。
アーラヴだ。彼はノートから顔を上げ、ほんの2秒だけ彼女に視線を向けた……
……そして、また勉強に戻った。
「何か言ったところで……余計にからかわれるだけだ」
彼は心の中でそう思った。
昼休み。
誰もがグループになって昼食をとっていた。
カヴィヤは窓際で一人、食事をしていた。
アーラヴは図書室へ向かっていた。
その時、二人の男子生徒の会話が耳に入ってきた。
「なあ……あいつ、どうやって進級してるんだろ」
「同情だよ」
二人は笑い合った。
アーラヴは何も言わなかった。
だが、足取りが一瞬だけ乱れた。
……
二日後。
小テストの結果が発表された。
先生が名前を読み上げ始めた。
「1位……アーラヴ・マルホトラ。98点」
クラスから拍手が起こった。
「素晴らしい」
先生は微笑んだ。
その後、何人かの名前が呼ばれた。
そしてついに……
「カヴィヤ・シャルマ……」
先生は彼女に答案用紙を渡し、ただこう言った。
「36点」
合格点だ。
ギリギリで。
クラスにまた、小さな笑い声が広がった。
カヴィヤは答案用紙を受け取った。
彼女は微笑んだ。
そして静かに席に戻った。
放課後……
アーラヴは本を返しに図書室へ行った。
図書室にはほとんど人がいなかった。
隅の方に誰かが座っていた。
カヴィヤだ。
彼女の目の前には、答案用紙が広げられていた。
彼女は同じ問題を、鉛筆で何度も解こうとしていた。
解くたびに間違える。そして消しゴムで消す。
また書く。
そして消す。
アーラヴはしばらく離れた場所からそれを見ていた。
やがて、何も言わずに彼女の向かいの席に座った。
カヴィヤは驚いた様子だった。
「あ、あなた?」
アーラヴは答案用紙を手に取った。
「君はいつも、間違ったところから書き始めているよ」
「え?」
「問題を理解する前に、解き始めてしまっているんだ」
カヴィヤは黙り込んだ。
2分間、アーラヴはただその問題を彼女に説明した。
ほんの2分間だけ。そして今度は、答えが合っていた。
カヴィヤは目を丸くした。
「あ……」
「正解だ……」
彼女の声には心からの喜びが滲んでいて、アーラヴは思わず彼女をじっと見つめてしまった。
「明日も来いよ」
アーラヴは本を閉じながら言った。
「どうして?」
「だって、そのペースで勉強すれば……」
「……次のテストでも36点ってことか」
カヴィヤは不満げに唇を尖らせた。
「それって励ましてるの? それとも馬鹿にしてるの?」
「さあな」
アーラヴは素っ気なく答えた。
初めて……
カヴィヤは笑った。
「わかった」
「明日も来るね」
……
翌週。
放課後は毎日、図書館へ。
一つのテーブル。
二冊のノート。
真面目な優等生。
そして、五分おきにとんでもないことを口にする少女。
「もし三角形に辺が四つあったら……」
「カヴィヤ」
「ん?」
「三角形の辺は三つだ」
「……あ」
二分間の沈黙。
「ところで、もし四つあったら、何て呼ばれるの?」
アーラヴは目を閉じた。
初めて気づいた。
教えること自体は、それほど難しくない。
*カヴィヤ*に教えるのが難しいんだ。
……
日曜日。
アーラヴは参考書を買うために書店へ行った。本を手に取って振り返った瞬間、誰かとぶつかった。
「前をよく見て……」
二人はその場で立ち止まった。
「カヴィヤ?」
「あなた?」
二人の間に沈黙が流れた。
アーラヴは周囲を見回した。
「なんでどこへ行ってもこの子に会うんだ?」
彼は心の中で思った。
「一日中外をうろついてるのか? だから成績が悪いのかも……」
そう考えていると、ふと自分の買い物かごに視線が落ちた。
そこには本が三冊、コーヒー、そして文房具が二つ入っていた。
「……待てよ」
「……俺も出歩いてるじゃないか」
その事実に気づいたとき、彼の顔は彼の顔に微かな笑みが浮かんだ。
カヴィヤはすぐにそれに気づいた。
「トッパーさん…」
「え、本当に笑ったの?」
アーラヴはすぐに無表情に戻った。
「いや。」
「今、笑ったよ。」
「いや。」
「嘘つき。」
「いや。」
カヴィヤは吹き出した。
書店で初めて…
アーラヴは感じた…
図書館の外での日々も、案外悪くないのかもしれない。
第2章 – 偶然の出会いも、やがて「いつものこと」になる
ある日曜の夕方。
書店から出たアーラヴは時計を見た。時刻は4時45分。本を買ったらすぐに帰るつもりだったが、一緒に歩いていたカーヴィヤは、数歩進んでは何かに目を留め、立ち止まってばかりいた。
「ねえ、これ見て!」
彼女は文房具店の前で足を止めた。
「この蛍光ペン、すごく可愛くない?」
アーラヴはパッケージを手に取り、中身を確かめた。
「普通の蛍光ペンの3倍もするよ」
「でも、可愛さも3倍でしょ」
アーラヴは無表情のまま彼女を見た。
「勉強しに来たの? それとも文房具を集めに来たの?」
カーヴィヤはおどけて唇を尖らせた。
「美的センスが全くないんだから」
「俺は成績を重視するタイプだからね」
「だからつまらないのよ」
アーラヴは何も答えなかった。
その2秒後、彼はさっきのピンクの蛍光ペンを手に取り、レジカウンターに置いた。
カーヴィヤは驚いて尋ねた。「えっ……これ、買うの?」
「いや」
「じゃあ?」
「君の前の蛍光ペン、インク切れだっただろ」
カーヴィヤは黙り込んだ。
「覚えてたの?」
「毎日文句を言ってたからな」
カーヴィヤは静かにそのパッケージを受け取った。
「ありがとう……」
アーラヴはただ肩をすくめた。
「感傷的になるのはなしだ。行こう」
二人はモールの中へと歩みを進めた。
買い物の途中、カーヴィヤはある服屋の前で立ち止まった。
「こっち来て」
「なんで?」
「その服を見る限り、あなたのワードローブは3色だけで構成されてるみたいね」
「白」
「青」
「グレー」
「その通り!」
「何か問題でも?」
「大問題よ」
5分後、アーラヴは試着室の中にいた。そして外では、カーヴィヤが3枚目のシャツを手に立っていた。
「これ、試してみて」
「さっき試しただろ」
「ううん。色が違うの」
「これも青だろ」
「スカイブルーよ」
「何が違うんだ?」 「ロボットなの?」
「まだね」
アーラヴが3度目の試着を終えて出てきたとき、カーヴィヤは言葉を失った。
学校の制服以外の姿を彼がしているのを見るのは、これが初めてだったからだ。
シンプルな水色のシャツ……
黒のジーンズ……
そして、袖を少し捲り上げている。
「……」
「どうしたの?」
「別に」
「本当に?」
「うん」
2秒後、彼女は視線をそらした。
「前はこんなにかっこよく見えなかったのに、どうして?」
彼女はすぐに自分の頬を軽く叩いた。
「バカなこと考えないで、カーヴィヤ」
アーラヴが会計のためにカウンターへ向かおうとしたとき、カーヴィヤが彼を呼び止めた。
「ちょっと待って」
「何?」
「そのシャツ、やめたほうがいいよ」
「どうして?」
「……なんとなく」
「理由は?」
「……なんとなく、よ」
彼女自身、本当の理由がよくわかっていなかった。
もしアーラヴがそのシャツを着たら、学校の他の女の子たちも彼に目を留めることになるかもしれない――それが気に入らなかったのだ。
彼女はすぐに話題を変えた。
「ねえ……お腹空いた」
フードコートの隅のテーブルに、二人は座った。
カーヴィヤはフライドポテトを食べていた。
アーラヴはサンドイッチを。
「どうしてそんなに食べるのが遅いの?」
「食事は競争じゃないからね」
「うちでは競争だよ」
「え?」
「一番早く食べ終わった人が、最後の『グラブ・ジャムン』をもらえるの」
アーラヴは初めて、あれこれ考えすぎることなく、ふっと笑った。
「変わったルールだね」
「そっちの家ではそういうのないの?」
「ないよ」
「かわいそうに」
アーラヴは頷いた。そのとき、5、6歳くらいの小さな子供がやってきて、二人のテーブルのそばに立った。
その子は二人をじっと観察していた。
そして、小さな声で尋ねた。
「お兄ちゃん……」
「ん?」
「二人とも探偵なの?」
カーヴィヤはフライドポテトを喉に詰まらせそうになった。
「え、何?」
子供はいたって真剣な様子で言った。
「ママが言ってたよ。探偵は帽子をかぶってメガネをかけて歩き回るんだって」その日、二人は日差しを避けるためにキャップをかぶり、黒縁の眼鏡をかけていた。
アーラヴは無言のままカーヴィヤを見つめた。
「なんとかして」
「『なんとかして』って、どういうこと?」
「君はクリエイティブなタイプだろ」
「なんで私が?」
「俺は嘘をつくのが下手だから」
カーヴィヤは深く息を吸い込み、子供の目線の高さまでしゃがみ込んだ。
「しーっ……」
「これは秘密のミッションなの」
子供は目を大きく見開いた。
「本当?」
「ええ」
「どんなミッション?」
カーヴィヤは少し考えた。
そして、静かに言った。
「私たちはね……アイスクリーム泥棒を捕まえに来たの」
子供はさらに興奮した様子だった。
「どの泥棒?」
アーラヴは真顔で言った。
「ミッション中止」
カーヴィヤは彼を睨みつけた。
「なんでいつも話を台無しにするの?」
「事実が大事だからな」
子供は真剣な面持ちで言った。
「僕も探偵になる!」
アーラヴは即座に答えた。
「採用は締め切ったよ」
「ええーっ?」
「予算がないんだ」
一瞬、沈黙が流れた。
やがてカーヴィヤは、涙が出るほど笑い出した。
子供は不満げに言った。
「二人とも、すごく変わった探偵だね」
そう言って、彼は母親の元へ駆けていった。カーヴィヤはまだ笑っていた。
「ねえ……予算の話なんて、どこから思いついたの?」
「さあな」
アーラヴは水の入ったグラスを手に取った。
「その場の思いつきだよ」
「あなたがこんなに面白い人だってこと、誰も知らないわよ」
「それはいいことだ」
「どうして?」
「期待値が低いままでいられるからな」
カーヴィヤは彼を見つめ続けた。
彼女は初めて気づいたのだ……。
学校ではいつも真面目そうに見える少年の内側に、全く別のアーラヴが隠れていることに。
夕暮れが迫っていた。
モールから出ると、二人は反対方向へ向かおうとしていた。
「明日は図書館?」とカーヴィヤが尋ねた。
「ああ」 「同じ時間で?」
「ああ」
「わかった」
彼女がまさに背を向けようとした、その時――…その時、後ろから声が聞こえた。
「…アーラヴ?」
二人は立ち止まった。
アーラヴはゆっくりと振り返った。
クラスの男子生徒がエスカレーターの近くの少し離れたところに立っていた。
彼はちらりと…
成績優秀の…
そして、その隣に帽子と眼鏡をかけた女子生徒がいた。
しかし、距離が遠かったため、女子生徒の顔ははっきりと見えなかった。
「たぶん…違うよ。」
男子生徒は肩をすくめた。
「勘違いだったんだろう。」
彼は立ち去った。
カヴィヤは小さく息を吐いた。
「危なかったわね…」
アーラヴは初めて真剣な口調で言った。
「どうやら…これからはもう少し気をつけないといけないみたいだ。」
カヴィヤはかすかに微笑んで頷いた。
その瞬間、二人は知る由もなかった…
これがほんの始まりに過ぎないとは。
第3章 – 噂の始まり
月曜日の朝。
アーラヴはいつも通り登校した。ベンチに鞄を置いたか置かないかのうちに、ローハンが背後から彼に手を置き、笑みを浮かべた。
「昨日、モールに行ったんだって?」
アーラヴはノートを開きながら、素っ気なく答えた。
「ああ」
「へえ……」
ローハンは目を細めて彼を見た。
「女の子と一緒にいるのを見かけた気がしたんだけどな」
アーラヴの手が一瞬、止まった。
ほんの一瞬だけ。
そして、彼はページをめくった。
「見間違いだろ」
「ふーん……」
ローハンは笑った。
「とにかく、お前が女の子と遊ぶなんて想像もつかないよ」
ベンチに座っていた男子たちがどっと笑った。
アーラヴはただ、かすかに微笑んだ。
(危なかった……)
彼は心の中でそう思った。
その時、教室のドアが開いた。
カヴィヤがいつものように笑いながら入ってきた。
「おはよう!」
「おはよう、『最後列の女王』!」
誰かが彼女をからかった。
だが今回は、カヴィヤはただ微笑んで、静かに席に着いた。
アーラヴはその小さな変化にすぐに気づいた。
以前なら、からかわれるたびに言い返していたはずだ。
今日は違った。
彼女は何も言わなかった。
しかし彼は、そうした言葉が以前よりもカヴィヤを深く傷つけるようになってきているのかもしれない、と気づいた。
---
放課後、二人は図書室で向かい合って座っていた。
今日のカヴィヤは珍しく静かだった。
「何かあったの?」とアーラヴが尋ねた。
「別に」
「嘘つき」
カヴィヤは微笑んだ。
「どうしてわかるの?」
「5分間、おふざけなしでいると……」
「……何かが起きているってことね」カヴィヤは吹き出した。
「それって褒め言葉? それとも悪口?」
「さあね」
「またそのセリフか……」
二人は笑い合った。
しばらくして、アーラヴは彼女のノートを自分のほうへ引き寄せた。
「代数の答え、良くなってるね」
「本当?」
「うん」
「どれくらいの点数が取れそう?」
「このまま勉強を続ければ……」
「……50点以上はいけるよ」カヴィヤの目が輝いた。
「本当に?」
「ああ」
彼女はまるでトロフィーでも手渡されたかのように、嬉しそうにノートを抱きしめた。
その小さな反応を見て、アーラヴの顔に、これといった理由もなく笑みが広がった。
---
それから数週間のうちに、図書館へ行くことは二人の日課となっていた。
だが、一つ問題があった。
至る所で偶然の遭遇が続いたのだ。
ある時はスーパーで。
ある時はバス停で。
ある時はパン屋で。
ある日、それが頂点に達した。
アーラヴは、ある店にペンドライブを取りに出かけていた。
外に出るとすぐに、カヴィヤがそこに立っていた。
二人は数秒間、互いを見つめ合った。
やがてアーラヴはポケットに手を突っ込み、空を見上げた。
「……本当のことを言ってくれ」
「何?」
「俺の後をつけてるのか?」
「はあ?」
カヴィヤの声があまりに大きく響いたため、通りかかったおばさんが振り返ってこちらを見た。
「なんで私があなたをつけなきゃいけないの?」
「さあな」
「どこでだって、あなたに会っちゃうんだから」
カヴィヤは腰に手を当てた。
「へえ、そう?」
「それはこっちのセリフよ」
「優等生くん……」
「……一日中、外をうろついてるの?」
アーラヴは二秒間、黙り込んだ。
そして、前日と同じ考えが頭をよぎった。
「また同じ間違いをするところだった……」
二人は顔を見合わせて笑った。その日、初めて二人は決めたのだ。
「次は偶然を待つんじゃなくて……」
「……自分たちで予定を立てよう」
アーラヴははっきりと言った。
「土曜日」
「本屋」
「夕方五時」
カヴィヤは頷いた。
「決まりね」
その時、ふと何かが彼女の頭をよぎった。
「ちょっと待って……」
「ただこうやって会うだけ?」
「どうして?」
「クラスメートに見られたらどうするの?」
アーラヴは少し考えた。
そして言った。
「変装だ」カヴィヤの目が輝いた。
「探偵風?」
「……いや、違う」
---
土曜日。
アーラヴは約束の時間の5分前に、書店の外に到着していた。
彼はキャップをかぶり、
丸眼鏡をかけ、
髪型もいつもとは全く違うスタイルにしていた。
自分の姿を見るだけで、なんだか気恥ずかしい気分だった。
「ローハンに見られたら、『サーカスに入ったのか?』って聞かれそうだな……」
その時、一人の女の子が彼の前に立ち止まった。
「あの……」
アーラヴが顔を上げると、
彼女のことが全く分からなかった。
髪を下ろし、
丸眼鏡をかけ、
シンプルなパーカーを着ていたからだ。
二秒後、その女の子は笑いをこらえながら尋ねた。
「誰だか分かる?」
「……カヴィヤ?」
「やった!」
「ミッション成功だね」
アーラヴは頷いた。
「本当に、誰だか分からなかったよ」
「でしょ?」
「言った通り、女の子は変装の達人だな」
二人は書店の中へと入っていった。
本を見て回っていると、カヴィヤがふと立ち止まった。
学校の女子生徒二人が、すぐ目の前に立っていたのだ。
「アーラヴ……」
「ん?」
「あそこを見て」
アーラヴが顔を上げた。
二人とも同じクラスの女子だった。とっさにカヴィヤはアーラヴの手を掴み、大きな本棚の裏へと引っ張った。
お互いの息遣いが聞こえるほどの近さだった。
カヴィヤが小声で尋ねた。
「もう行ったかな?」
「分からない」
「見てみて」
「なんで僕が?」
「背が高いから」
アーラヴはゆっくりと本棚の角から様子をうかがった。
その瞬間、カヴィヤが少しバランスを崩し、
アーラヴにぶつかってしまった。
彼女が持っていた本が床に落ちた。
ドサッ!
小さな音が店内に響いた。
その女子生徒二人が振り返り、そちらを見た。
考える間もなく、アーラヴはカヴィヤの手を掴んだ。
「走るぞ」
「えっ?」
「走るんだ」
次の瞬間……
二人は書店の別の売り場に向かって走り出していた。…だった。
カヴィヤは笑いながら言った。
「私たち、本当に探偵になったのね!」
そして初めて…
アーラヴも走りながら笑っていた。
第4章 – 噂、嫉妬、そして少しの雨
書店を出た後、二人はしばらく立ち止まることなく歩き続けた。クラスの女子たちが後をつけてきていないと確信するまで、アーラヴもカーヴィヤも一言も発しなかった。
ようやく、小さな公園の近くで二人は足を止めた。
カーヴィヤは膝に手を置き、息を整えた。
「私たち……たった二人のクラスメートから逃げるために、書店の中をマラソンみたいに走り回っちゃったね」
アーラヴも深く息を吐いた。
「効率的だったよ」
「効率的?」
「ああ」
「捕まらなかったしね」
カーヴィヤは彼を見て、思わず吹き出した。
「優等生くん……どうして何でもかんでも数学の問題みたいに捉えるの?」
「答えが出るからだよ」
「本当に変わってるね」
「君こそ、よく分からないよ」
「私が?」
「ああ。勉強中に突然チョコレートを取り出したかと思えば、公式を暗記しながら歌い出したりするし」
笑いをこらえながら、カーヴィヤは言った。
「人生には、ちょっとした息抜きも必要でしょ」
アーラヴは初めて、あれこれ考えすぎずにこう答えた。
「そうかもね……だから、君と一緒にいても飽きないんだ」
その言葉を聞いて、カーヴィヤは黙り込んだ。
アーラヴがそんなことを言うのを聞くのは、初めてだったからだ。
彼女はすぐに視線をそらした。
「ねえ……アイスクリームでも食べようよ」
アーラヴには、彼女がなぜ急に話題を変えたのか、よく分からなかった。
---
翌週の月曜日。
クラスで四半期テストの成績が発表されていた。
「まずは……アーラヴ・マルホトラ。97点」
いつものように、拍手が沸き起こった。
先生は次の名前を読み上げながら、ふと微笑んだ。「カーヴィヤ・シャルマ……」
カーヴィヤはゆっくりと立ち上がった。
「……68点」
教室中が水を打ったように静まり返った。
「えっ?」
誰かが後ろの方で声を上げた。
「ありえない」
「カンニングでもしたの?」
先生はすぐに彼らをたしなめた。
「静かに!」
「カーヴィヤはこの点数を、自分の努力で勝ち取ったんだ」
カーヴィヤは答案用紙を手に席に着いた。
彼女の指先は、わずかに震えていた。彼女はアーラヴの顔を直視しなかった。
だが、アーラヴは静かにペンを手に取り、彼女の机に小さな付箋を置いた。
そこにはたった三つの単語が書かれていた。
「よくやった、おバカさん」
カヴィヤはそのメモを読み……
それから彼の方を見た。
「私を『おバカさん』って呼んだの?」
「ああ」
「それが『ありがとう』の言い方?」
「違う」
「じゃあ?」
「人を褒めるのには慣れてないんだ」
カヴィヤはふっと笑った。
彼女は丁寧にそのメモをノートに挟んだ。
---
しかし、その日の昼休み、新たな問題が持ち上がった。
学校一の秀才であるリヤが、アーラヴの元へまっすぐ歩み寄ったのだ。
「アーラヴ、物理オリンピックの練習をしなきゃいけないの。今日、図書館に行かない?」
「いいよ」
アーラヴが言ったのはそれだけだった。
カヴィヤはその様子を離れた場所から見ていた。
何も言わず、彼女はお弁当箱を閉じてその場を立ち去った。
急に機嫌が悪くなってしまったのだ。
夕方、彼女はすでに図書館の席についていた。
アーラヴが入ってきた。
「今日はどうしてそんなに静かなんだ?」
「別に」
「また嘘をついてる」
「違うよ」
「嘘をつくとき、ノートの端を折る癖があるだろ」
カヴィヤはすぐに手を止めた。
「あなた……そんなことにも気づくの?」アーラヴははっきりと答えた。
「いろんなことに気づくよ」
二秒の沈黙の後、カヴィヤは静かに言った。
「あのリヤって子……」
「ん?」
「あなたと一緒にオリンピックの準備をするんでしょ?」
「ああ」
「そっか」
それだけだった。
アーラヴは理解した。
「嫉妬してるの?」
「えっ?」
「違う!」
「全然!」
「してるよ」
「してない!」
「耳が赤くなってる」
カヴィヤはすぐに両手で耳を覆った。
「ひどい人」
初めて、アーラヴは声を上げて笑った。
「わかった」
「明日からは、オリンピックの練習は朝やるよ」 「じゃあ、夕方は?」
「夕方は図書館で」
「誰と?」
アーラヴは彼女の目をまっすぐに見つめた。
「君とだよ」
カヴィヤは顔を背けた。彼に自分の笑顔を見られないように。
「……わかった」
その日、カヴィヤは勉強について一度も不満を言わなかった。
---
一週間後。
学校が終わるのと同時に、激しい雨が降り出した。
生徒たちは校門へと走っていく。
アーラヴが鞄から傘を取り出したとき、彼は目にした。
カヴィヤが校舎の入り口の軒下に立っているのを。
彼女は傘を持っていなかった。
「どうやって帰るんだい?」
「レインコートに変身するわ」
「面白いね」
「でしょ」
アーラヴは何も言わず、彼女に向かって傘を差し出した。
「行こう」
「二人で?」
「ああ」
「でも……」
「誰かに見られるかも」
アーラヴは校門の方を見た。
生徒たちはほとんど帰ってしまっていた。
「もう誰も見ていないよ」
二人は同じ傘の下を歩き始めた。傘の縁から雨のしずくが落ちていく。
道には、二人の足音だけが響いていた。
しばらくの間、二人は黙ったままだった。
やがて、カヴィヤが静かに言った。
「アーラヴ……」
「ん?」
「あの日の図書館で、あなたが私の隣に座らなかったら……」
「……勉強を諦めていたかもしれない」
アーラヴはしばらく何も言わなかった。
そして、かすかに微笑んで言った。
「隣に座ってよかったよ」
カヴィヤは彼を見つめた。
その瞬間、彼女は初めて気づいた。
彼は単なる「先生」ではないのだと。
彼は、彼女の人生において最も大切な人になりつつあった。
そして、もしかすると……
アーラヴもまた、そのことに気づき始めていたのかもしれない。
第5章 ― 成績じゃない……勝因は、あなたの笑顔だった
四半期ごとの試験を終え、学校全体の空気が変わっていた。
最大の変化は、成績表の中にあったわけではない。
それは、周囲の人々が彼女に向ける眼差しの中にあった。
以前はカヴィヤをからかっていた生徒たちでさえ、今では彼女にノートを見せてほしいと頼むようになっていた。
「カヴィヤ、この数学の裏技的な解き方、教えてくれない?」
「物理の3問目、どうやって解いたの?」
「英語の解答、送ってよ」
そのたびに、カヴィヤは笑顔で彼らを手助けした。
だが心の奥底では、ある一つの思いが彼女を占めていた。
「すべてはアーラヴのおかげ……」
ある日の昼休み、ローハンが冗談めかして尋ねた。
「ねえカヴィヤ、本当のことを言ってよ……どこか秘密の塾にでも通い始めたの?」
クラス中が笑いに包まれた。
カヴィヤも微笑んだ。
「秘密よ」
アーラヴは自分の席に座っていた。
彼は顔を上げることなく、ノートのページをめくった。
だが、その口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。
---
その日の夕方、図書館での勉強を終えた後、カヴィヤがふと言った。
「今日は勉強なしね」
「どうして?」
「お祝いよ」
「何のお祝い?」
「68点を取ったから」
「その結果が出たのは一週間前だろ」
「ええ」
「でも、お祝いをするのは今日なの」
アーラヴは深く息を吸い込んだ。
「君は理屈に反することをするね」
「理屈を持っているのは、あなたよ」
「そして言い訳を持っているのは、僕だ」
二人は図書館を出て、小さなカフェに向かった。
カヴィヤはチョコレート・ペストリーを注文した。
アーラヴはコーヒーだけを頼んだ。
「どうしてそんなに苦いコーヒーが飲めるの?」
「どうしてそんなに甘いペストリーが食べられるの?」
「バランスよ」
「どういう意味?」
「あなたはコーヒーなの」
「僕が?」
「ええ」
「少し苦くて……」
「……でも、慣れてしまえば最高に素敵」 アーラヴは初めて、答えを探し始めた。
彼には、答えがなかった。
---
カフェから外に出ると、穏やかな夕風が吹いていた。道の向かい側に、小さなギフトショップがあった。
カーヴィヤがふと立ち止まった。
「ちょっと待ってて」
彼女は店に入り、2分ほどして小さな包みを持って出てきた。
「これ」
アーラヴが包みを開けた。
中に入っていたのは、シンプルな青いインクのペンだった。
「ペン?」
「うん」
「この2ヶ月間、公式を教えてくれただけじゃなかったでしょ」
「私に自信もくれた」
「高いプレゼントを買うお金はないから……」
「……だから、これだけ」
アーラヴは数秒間、そのペンを眺めた。
そして、以前カーヴィヤのために買ったのと同じピンクの蛍光ペンを、カバンから取り出した。
「これ、一度も使わなかったの?」
カーヴィヤは微笑んだ。
「使ったよ」
「じゃあ?」
「インクが切れちゃったの」
彼女はカバンから、同じピンクの蛍光ペンをもう一本取り出した。
「また買ったの」
「どうして……?」
「……成績じゃなくて、私自身に初めて気づいてくれた人がいたってことを、思い出させてくれるから」
アーラヴは静かに視線を落とした。
またしても、彼には返す言葉がなかった。
---
翌日、学校で恒例の成績優秀者表彰式が行われた。
講堂は人で埋め尽くされていた。
教師たちがステージ上で賞を授与していく。
「例年通り、成績1位は……」
「アーラヴ・マルホトラ」
拍手が沸き起こる。
アーラヴは賞を受け取り、ステージを降りた。
しばらくして、校長がマイクを握った。
「本日は、『特別向上賞』も授与したいと思います」
「この賞は、今年最も大きな進歩を見せた生徒に贈られます」
「カーヴィヤ・シャルマ」――2秒間の静寂の後、会場全体が拍手に包まれた。
カーヴィヤはゆっくりとステージへ歩み寄った。
賞を受け取る際、彼女の視線は客席に座るアーラヴに向けられた。
アーラヴはただ軽く頷き、微笑んだ。
カーヴィヤの目に涙が浮かんだ。
だが、今回の涙は恥ずかしさからくるものではなかった……。
それは、喜びの涙だった。
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式が終わった後、二人は校舎の裏にある小さな庭で落ち合った。今日は、変装なんて必要なかった。
偶然を装う必要もなかった。
ただ、二人の友人がいた。
会いたいと願っていた、二人が。
「泣いてたね」
アーラヴが言った。
「ううん、そんなことないよ」
「嘘つき」
「どうしてわかるの?」
「感情が高ぶると、左の眉が少し上がるんだ」
カーヴィヤは驚いて彼を見た。
「そんなことまで……気づいてたの?」
「うん」
「いつから?」
アーラヴは少しの間、黙っていた。
そして、静かに言った。
「たぶん……」
「……あの日からかな」
「どの日?」
「テストで36点しか取れなかったのに、笑ってたあの日」
「あの時の笑顔は、作り笑いだった」
「でも、君は周りの人を悲しませたくなかったんだよね」
「その時、気づいたんだ……」
「……君は、テストの点数なんかじゃ計れない、もっと素敵な人だってことに」
カーヴィヤの目に、また涙が浮かんだ。
「じゃあ、あなたは?」
「ん?」
「前はただの、成績トップの生徒だったよね」
「今は?」
アーラヴはかすかに微笑んだ。
「今はたぶん……」
「……ある一人の生徒の、先生でもあるかな」
カーヴィヤは笑いながら頷いた。
「先生?」
「うん」
「お給料はいくら?」
アーラヴは考えるふりをした。
「チョコレート一つ」
「それだけ?」
「勉強会一回につき」
「決まりね」カーヴィヤはすぐに手を差し出した。
アーラヴはその手を握り返した。
それは愛の告白ではなかった。
プロポーズでもなかった。
けれど、二人はわかっていた……
自分たちの関係は、もう単なる先生と生徒という枠を超えていることを。
庭の外で、学校のチャイムが鳴った。
生徒たちが帰路につき始めた。
アーラヴとカーヴィヤも、一緒に歩き出した。
今度は、二人とも帽子をかぶっていなかった。
眼鏡を変えることもしなかった。
校門に着くと、カーヴィヤが尋ねた。
「明日は図書館?」
アーラヴは微笑んで答えた。
「いや」
「どうして?」
「明日は、君が僕に教えてくれるんだ」
「私が?」
「うん」
「何を?」
「あんなふうに笑う方法を」カヴィヤは数秒間、彼を見つめた……
そしてあまりに笑ったので校門近くの警備員さんも笑顔になりました。
そしてその笑いとともに、私の物語の最初の旅は終わりました...
でももしかしたら...
彼らの本当の愛の物語は始まったばかりです。
サマプト
あとがき
まずは、この物語を最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
この物語は、勉強や成績だけを描いた作品ではありません。
これは、二人の高校生が少しずつお互いの人生を変えていく、そんな物語です。
アーラヴは、良い成績こそが何よりも大切だと信じていました。
一方でカヴィヤは、どれだけ努力しても、自分は「成績の悪い生徒」としてしか見てもらえないと思い込んでいました。
けれど、ときには誰かの小さな優しさが、誰かの人生そのものを変えることがあります。
この物語を読んで、一度でも笑顔になったり、くすっと笑ったり、アーラヴとカヴィヤの関係を温かく感じてもらえたなら、それだけで作者として本当に嬉しく思います。
物語はここで終わりますが、二人の物語は、きっとここから始まっていくのでしょう。
もし楽しんでいただけたなら、ぜひブックマークや評価、そして感想をいただけると嬉しいです。
皆さんからの一つひとつの応援が、次の物語を書く大きな力になります。
また次の作品でお会いしましょう。
―― Harsh Randhawa




