私とイノシシとクエストと
ある日シエラはいつものように初心者用のエリアである首都の南に来ていた
目的はもちろんレベル上げ
ゲーム自体は前からやっていた事があるので簡単に操作方法にはなれてきていた
そのめために今は戦闘について勉強しているのである
ゲームは今までやってきていたので基本的な目的や行動はなんとなくでも想像出来るのだが、いまだにマウスでの視点変更や、キーボードでの移動やアイテム使用がどうしても遅れてしまう
この間の戦闘で自棄酒を飲んでいたマークからイロイロと教えられたのでそれを練習しているのだ
そしてそんな感じで練習をしていると段々と余裕が出てくる
なのでもう少し奥の方に行ってみるかと考えちょっと奥に存在していた丘に向かっていった
「おぉ~、ちょうど夕日ですね」
時間的に朝と夜が変わる時間帯、遠くの空を見てみると日が沈んで行くところだった
見ているだけでも良いのだが目的を忘れてはいけない、なので丘の下を見て次の獲物を探してみたところ
なんだか一人の冒険者が魔物に追われていた
「あ、あぁいうのは助けた方が良いんですかね?」
と悩んでいると
チャット欄に「ハイヤーが助けを求めている」と表示された、そしてそのハイヤーだと思われる人物はこちらに向かって猛ダッシュで近付いてくる
「あ、こっちに向かってくる!?」
剣を構えて魔物を迎え撃とうとしてます
ハイヤーが通り過ぎたのを見送り、その魔物を……
ブモォォォォォ!
魔物に吹き飛ばされました
削られるHP、そして止まったのは良いけど今度はシエラに目標を変更したらしく、鼻息を荒くして見てくる一匹のイノシシ。そして表示されているレベルは23、対してシエラ18
「む、無理ー!?」
ドンッ
そして画面に浮かんだのはGAMEOVERの文字だった
※ ※ ※
画面が元に戻ったとき、シエラがいたのは首都の一角で、南の門の前だった
目の前にはセーブポイントの宝石がキラキラと光っていた
「あちゃーしんじゃいましたか~」
そしてポイントに存在しているNPCがいつものように決まりの台詞を言ってくる
それを聞いているとすぐ隣に同じように死んだと思われる少女が出てきた、その名前はハイヤー、先程あのイノシシに追われていた人物である
「はぁ~、クエスト失敗だよ~」
その少女はそう言って項垂れていた
こんなに近くでそんな事をされて黙っている事のできるシエラではない
いつかはマークと同じように困っている人を見かけたら助けてあげたいと日々考えているのだ
「どうかしたんですか?」
「へ?」
少女はシエラの言葉に反応してシエラの顔を見た
そして目を大きく見開いて
「すみませんでしたー!」
とジャンピング土下座をしたのだった
「え?え!?えぇ!?」
それを見ると、助けようとしたはずなのに想いっきり誤られてしまったシエラはどうしたら良いのか分からなくなり、アウアウとあたりを見渡すのだが周りには決められた台詞しか言えないNPCと何も話す事の無いセーブポイントの二つしかなかった
「いや、救援要請を聞きつけて来てくれた方かと思ってしまいおもいっきり撥ねてしまいました!申し訳ありません!」
「は、撥ねる?撥ねるってなんですか?」
「うわ!しかも初心者の方でしたか!?うわ~本当にすみません!」
「いえいえいえいえいえいえ!大丈夫ですから!ただのゲームですから!」
「あ、そうですか?」
すぐに立ち直りそのままシエラ肩を抱いてくる
「いやークエストでさ~、あのイノシシの牙が必要なのよ~だけどあいつのレベル23じゃん?私じゃ絶対に勝てないのよ~。でもこの時間帯だと知り合いがほとんどいないわけ、こりゃどうしたもんかと思ってさ~しょうがないから野良PTを募ってたのよ~、そしたら誰もこないからさ、しょうがないから一人だけでいったんんよ~。そしたらあの様ってわけ」
そこで一旦言葉を止めてシエラにも分かるようにため息を吐く
そしてそこでシエラを見て
「だからさぁ、こんど何か武器でも防具でも作ってあげるからさ、あのイノシシ倒すの手伝って頂戴よ」
「えっと、良いですよ?」
「本当!?いや~助かるわー!」
「でも私一人だと危ないかと思うのですが?」
「じゃあさっそくイノシシのいる場所に向かっていこうか!あっはっはー!」
「あ、あの?」
どうやら話し始めると人の話を聴くことも無くドンドン進んでいってしまうらしくこちらの言葉に全く返事をする事も無くシエラを引きずって行ってしまった
※ ※ ※
「さぁここよ!ここにあのにっくきイノシシが現れるのよ!」
「は、はぁ」
そこは初心者用エリアの奥にある森の中
ここは20レベル前後の敵が出てくるのでまだシエラは入った事が無かった、まぁ今日マークと一緒に入る約束をしていたのだが
「さて、ポップするところはこのちょっと先よ。そこまではモンスターが出ないから警戒しなくても大丈夫!ただしそこに着くまでに自分の強化を忘れずにね?」
「は、はい」
「あ、ちょっとストップ!」
「はい!」
先を覗いてみるとそこには先程見かけたのと同じモンスターがいた
一体だけのようでこれなら周りから襲われる心配が無い
「ラッキー!また一体でいるところを見つけられたわ!」
「さっきも一体だったんですか?」
「えぇ、だから挑んでみたんだけどダメだったわ」
「なるほど」
そこで戦闘の準備を始める二人
HPやMPは全く減っていない、二人はお互いに持っている補助スキルをかけあった
「えっと、HP自然回復速度アップにMP自然回復速度アップ」
「攻撃力アップ(小)と防御アップ(小)です」
「うん、これくらいで良いよね。作戦は私がポーションを使って回復して貴女がアイツを引き付けながら技を使ってHPを削る、私は弓も撃つけど威力は低いからそこまで期待しないでね?」
「はい!私はとりあえず殴ります!」
「それでよし!ではGO!」
そしてイノシシとの戦闘が始まった
※ ※ ※
シエラの攻撃、しかしそこまで削る事ができない
そしてイノシシの攻撃はこちらのHPを軽々と削ってくる
(これはかなりきついですね)
相手はNPCのAIなのでこちらの攻撃を意図的に回避してくるという事は無い、しかしレベル差によってステータス的に回避されやすいのだ
後ろからの援護によって少しずつ相手のHPは減らされていくがこちらのHPはそれ以上の速度で減っていく
後ろからのポーションによって回復はしているがそれでもディレイという硬直時間のお陰で段々と削られていく速度が上がっていく
(これが自分より高いレベルのモンスターとの戦いですか!)
「シエラちゃん!このままだとジリ貧だ!しかもここまでの様子だとこっちが多分負ける!撤退しよう!」
(それしか、無いのかな?)
初めて追い込まれたモンスターとの一対一での危機的状況
シエラは撤退しよう相手からターゲットを切ろうとした
その時に彼の声がちょっとだけ蘇った
あれって高レベルモンスターに対する最善の組み合わせのコンボだぞ?
そう、彼がムーチョンとの戦ったときに使っていたコンボが存在してた
そのコンボの内容はムーチョンから教えられて今でも覚えている
そしてその技をお金を払って覚えていたはずだったショートカット(技やアイテムをキーボードの数字に当てはめておく事でワンボタンでそれを使用できるようにするもの)には入れてなかったが
「まずはマインドアップ」
画面の名前の横に表示される補助の表示
「次に呪縛のルーン」
アイテム欄からそのアイテムを選んでしようする
するといつかのムーチョンのようにイノシシが触手によって捕らえられた
「そして相手の頭に向かって!バッシュ!」
クリティカルヒット!!
神は彼女に味方した、彼女がその剣をモンスターに振り下ろすとモンスターの頭の上に黄色い文字で"クリティカルヒット!!"と表示される
そして敵のHPは一気に減り、そのまま地面に倒れ伏すのだった
※ ※ ※
「いやー助かったよー」
頭に手をやって頭をかきながらハイヤーは朗らかに笑った
「まさか倒しちゃうとはね!これでクエストが進められるよ!ありがとう!」
「いえいえ、なんとかなって良かったです!」
「じゃ!今度武器か防具を持っていくからさ!そん時は受け取ってくれよ?もっと生産が上手くできるようになっておくからさ!」
「楽しみにしてますね」
「へへ、じゃあねー」
そう言ってハイヤーは去っていった
それを見ているとなんだか幸せな気持ちになってくる、自分もマークのように誰かの助けになれた事に喜びを感じながら彼女は草原に行こうと踵を返した
「で?何があったんだ?」
「あう!?マークさん!」
振り返ったところに丁度良くいたのは笑顔を浮かべたマークだった
今まで考えていた事が事なのでなんとなく彼を見るのが恥ずかしい
「な、なんでもないです!」
「そうかい、じゃあ森に行ってみるか!ついでにイノシシでも狩ろうぜ!アイツの牙は結構需要があるからな」
「えぇ」
「ん?どうかしたのか?」
「……いえ、なんでも」
またアレと戦うのかと思うとシエラは少しだけ嫌な気分になった
森にて
「あ、おいシエラそっちじゃないぞ?こっちだ」
「え?」
「そっちにはこの森のボスがいるから気をつけろよ?こっちにも牙を落とすちっこいイノシシがいるからな」
「えぇ!?」
後日聞いたことによると、某GMが「プレイヤーが怖がるように入り口近くにボス配置しようぜ!」と言ったためにこのようになったらしい
この日初めてGMでレフェリーを務めたあの人をシエラはうらんだ