初めての友達
ネットゲームを始める切欠ってなんだろう?
現実から逃げたいから?
友達に誘われたから?
イロイロあると思う
ここにいる今丁度始めようとしている少女はちょっとだけゲームが好きで、ネットサーフィンをしている時にたまたま見つけたパソコンゲームの広告が目に止まった
元々興味があったし、広告の中に書いてある「完全無料」という言葉に惹かれたというのもある
この言葉の中には「課金をしなければ」という意味が含まれているのだがその事をこの少女は知っているはずもなかった
彼女は偶然商業系の学校に通っていたためにタイピングにはそれなりの自信がある
パソコン全盛のこの時代に感謝をしながら彼女はプロフィール欄を埋めていった、この先にまっているであろうファンタジーに胸を躍らせながら
「よし。これで良いんだよね?」
そう言った少女の前にはパソコンの画面の中でこちらを見ながら微笑んでいるキャラクターがいた
※ ※ ※
光り輝く門をくぐるとそこにあったのはどこまでも広がる草原だった
初心者用フィールド
ここのフィールドは初心者が操作方法を覚えられるようにと設置されているフィールドだ
スキップできないためにプレイヤーから少々文句も出ているが運営はそれを無視していたりする
「え、えっと?」
そんなフィールドに珍しく本当の初心者がやってきた
セカンドキャラとかがほとんどの中、一人だけうろちょろと危なっかしく動き回っている
「あ、あれ?」
思い通りの方向に進まないのか時々戸惑いの声が聞こえてくる
このゲームでは音声でのチャット入力が可能になっており、マイクをオフにしないとその声が辺りに聞こえてしまうのだ
むろん彼女はそんな事は全く知らない
他のプレイヤー達はさっさとクリアしてしまおうと考えているのか彼女に目もくれずに着々とクエストをクリアしていく
そのことが逆に彼女を焦らせていく
しかし、ネットゲームと言うのは人対人、そうやって自分のことを先にやっている人もいれば
「おい、どうかしたのか?」
ちょっとお節介なプレイヤーもいる
※ ※ ※
「やっと終わったー!大体俺は何回入力ミスをすれば良いんだよ!」
ここにもう一人初心者サーバーに初心者と同等の時間をかけて辿り着いたプレイヤーがいる
名前はマーク、男でかけだしの初心者と同じ格好をしている
なぜ彼が初心者と同じ時間がかかったかというと、彼が最初のパスワードやID、メールアドレス入力でミスを繰り返し、さらにサイトの読み込みに失敗したりとということを幾度も繰り返したためである
「あっちゃ~。あいつ絶対怒ってるよな~、こっちからアイテムの受け渡しを頼んでおいて待ち合わせの時間から30分遅刻って……まぁいいや、とりあえずTellでもしてみて……ん?」
これからの計画を口に出しながら考えているとその視線の先にうろちょろと危なっかしく動いているキャラクターを発見した
名前はシエラ、性別は女
「なんだネカマか?」
ネットゲームでの女性住人は少ない
それなのに女性キャラが乱造されているのは男性がネトゲー内で女性キャラを作っているからだ
なのでマークはもし女性キャラに出会ったら中身は男と判断するようにしている
それが正しい判断なのかは知らないが、知り合いに男性キャラにおもいっきり媚を売っているネカマがいるのでそう考えても仕方が無いのかもしれない
しかもそれが上手いのか結構貢いでもらっているのが凄い
さてそのような事は置いておいて、問題は今目の前にいるキャラクターである
それが演戯なのかどうなのか分からないがプレイに戸惑っている女性キャラクターがいる
そしてこのゲームのシステムに慣れていないのか会話が丸聞こえ「あれ」とか「えっと」とかがチャットに表示されている
はっきり言えば鬱陶しい
ログが流れていくためこういった行為はマナー違反だ
「しょうがない」
いつまでも放置していたらそのうちに自称・中級者又は上級者の痛い人たちに文句を言われること間違い無しだ(ここで重要なのは注意や指摘などではんくて文句というところ)、別に自分とは関係の無いプレイヤーなので無視しても良いのだが、なんとなくそれはしたくなかった
しょうがないのでマークは近付いていき
「おい、どうかしたのか?」
と聞いてみるのだった
※ ※ ※
「え?」
話しかけてきたキャラクターを見てみるとそのキャラの上にはマークと表示されていた
男性キャラクターで赤い髪をした少年だった
「いや、さっきからアウアウ言ってたみたいだからどうかしたのかと」
ポリポリと頬をかくマーク
このゲームをやりたいと思った理由の一つに多彩なエモーションがある、様々な感情を表現するために運営が用意したモーションの数はなんと100種類!
そんなに用意する気力があるならもっと別のところに使え、と某ゲーム雑誌に呆れられた事もあるほどだ
「で?どうかしたのか?」
「あ、あの。こういうゲームが初めてで、ちょっと戸惑ってしまいまして」
モーションはまだ使えない
というかそれだけの余裕がまだ彼女には存在していなかった
「ふーん。……ネトゲー初めて?」
「はい」
「そっかとりあえずフレンド登録よろしく」
「へ?」
そう言うとマークが手を差し出してくる
すると画面に「マークからフレンド希望が来ています、許可しますか?」と表示された
シエラは慌てながらもすぐに了承をする
「んでフレンド同士の会話の仕方は……」
マークの説明を聞きながらシエラは少しずつネトゲーのやり方に慣れていった
※ ※ ※
「とりあえずこんな感じかな」
「は、はい。あ、ありがとうございます」
「あはは、なんというかお疲れ」
あまりに覚える事が多かったためにシエラは疲れてた
ネトゲーでのマナーや簡単なルール、禁止行動などもマークから教えてもらっていたのだ
気がつけばもう出会ってから一時間が経過してる
「じゃあ最後に最後のクエストをクリアしようか、俺もクリアしなきゃならないんだし」
「はい!」
彼らは適当に説明を交えながらも少しずつ最初のクエストを終わらせていった
その中でドンドン他のプレイヤーは抜かしていったがその時にマークが「他のプレイヤーの速度なんて気にすんな、気にしてっと俳人になる」と言われたのでそのくらいでは焦らないようになった
ノンビリクリアしていたのだが気がつけば今では最後の一個となっている
「よし、じゃあクエストは受けたな?だったら最後のボス討伐行くか!」
「はい!」
最後のクエストはボスの討伐、なんでも近くの洞窟にゴーレムが現れたとかなんとか
こう言ったクエストの中身なんて気にしてないのだがシエラはじっくりと読んでいた
その為にマークに苦笑されたりもした
「一旦休むか」
「はい~」
ボスの手前、そこまで辿り着くのにシエラとマークはかなりHPを削られてしまっていた
しょうがないのでボス手前で休憩する事になった
「マークさん」
「ん?」
ゆっくりと休んでいるとシエラは沈黙を破って話しかけてきた
「今日はありがとうございました、とっても助かりました」
「……あぁ、気にするな。こういうのはお互い様だからな」
「それでもです。だってマークさんと会わなかったら多分このゲーム止めてましたもん」
正直な感想
ネトゲーというのは最初がきついものである
大体のゲームが最初何をして良いのか分からなかったり、上手く操作できなかったり、友達がいないのでつまらなかったりとそのゲームの良さを分からないで止めてしまう人も多い
「だから、ありがとうです!」
シエラは教えてもらってどうにか使えるようになったモーションを使ってマークに感謝した
おもいっきり笑顔で
「……さ、ボス戦行くぞ」
「はい!ってえぇ!?無視ですか!?」
「うっさい!さっさと行くぞ!」
「ま、待ってくださいよー!」
※ ※ ※
ネトゲーを何で続けるんですか?
そう問われたらこう答えるだろう
「新しい仲間に、友達に、会えるから!」
この日、また一人そんなゲームの魅力に魅了された少女が生まれた
「ふぅ、終わった」
マークは誰もいなくなったフィールドで一人佇んでいた
あの少女に出会ってからもう一時間半である、その間にゲームの説明とかマナーの説明とかずっとしていたのでリアルの指が痛い
「マイク欲しいな~」
シエラが使っていた音声入力が本当に欲しくなった一日だった
「その前にこのアイテムを欲しがってくれないかしら?」
「げっ」
突然後ろから声が聞こえてくる
そこに表示されている名前は今とってもみたくない名前であった
「アイテムの移行にどんだけ時間をかけるのよあんたは!」
「どわっ!すまん!」
「ったく」
声の方向を見て見るとそこにいたのは長身の女性だった
そしてその上に見える<MASTER>の文字
「じゃあ、ちゃっちゃと渡すわよ」
「あ、すまんいらない」
「へ?なんでよ、こんなに待ったのに」
「ちょっとさ、初めからやってみたくなった」
思い浮かべるのは先程出会った少女
「たまにはこういうのも良いかなってね!」