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【連載版】白い結婚が終わるはずでしたが、無関心だった公爵様が今さら溺愛してきます  作者: 風谷 華


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【最終話】これからの私たち

 朝の光は、思っていたよりも優しかった。


 厚手のカーテンの隙間から差し込む淡い金色が、寝台の上にそっと落ちている。

 まるで、昨夜の続きを邪魔しないように、遠慮しているみたいに。


 私は、ゆっくりと目を開けた。


 ……あれ。


 すぐ隣に、ぬくもりがある。


 温かくて、安心する重さ。


 視線をそっと動かすと――


 そこには、レオンハルトがいた。


 私のすぐ横で、静かに眠っている。


 長い睫毛。

 穏やかな寝顔。

 いつもの冷たい表情とはまるで違う、無防備な顔。


(……本当に、夢じゃないんだ)


 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


 昨夜のこと。

 抱きしめられたこと。

 何度も「愛している」と言われたこと。


 全部、ちゃんと現実だ。


 私は、そっと指先を伸ばして、彼の袖をつまんだ。


 ……逃げない。

 消えない。


 ちゃんと、ここにいる。


 


「……起きているのか」


 低くて、少し眠たげな声。


「え……!」


 ば、ばれてた。


 私は慌てて手を引っ込める。


「お、おはようございます……」


「……おはよう」


 レオンハルトはゆっくりと目を開き、私を見る。


 そして――数秒、固まった。


「……」


「……?」


「……可愛い」


 ぽつり。


 唐突すぎる。


「な、なな……!」


「事実だ」


 即答。


 しかも真顔。


 ずるい。


 


 彼は、私をそっと抱き寄せた。


「……離れたくない」


「さっきまで寝てましたよね?」


「今は起きている」


「理屈がずるいです」


「君だから許す」


 


 私は、思わず笑った。


 


 しばらく、何もしない時間が流れた。


 ただ、同じ朝を迎えているだけで幸せだった。


 


「……なあ、エリシア」


「はい」


「今日から、忙しくなる」


「……私、大丈夫でしょうか」


「大丈夫だ。俺が隣にいる」


 


 その言葉だけで、全部安心できた。


 


「……今まで、すまなかった」


 小さな声。


「許します」


「……本当か?」


「条件付きで」


「……毎日、気持ちを言葉にしてください」


「……努力する」


 


 真剣な顔で言うから、また笑ってしまう。


 


 私たちは、よく庭を歩くようになった。


 彼は必ず、私の歩幅に合わせてくれる。


 前より狭く。

 ゆっくり。


 


「……抱くか?」


「いりません!」


 


 ……でも、つまずいた瞬間。


「……危ない」


 ひょい。


「えええ!?」


「俺が不安だ」


 


 私は観念して、彼の首に腕を回す。


「……恥ずかしいです」


「俺は嬉しい」


「君を守っている実感がある」


 


 真剣な声。


 ずるい。


 


 彼は、私の額にそっと口づけた。


 


「……エリシア」


 不意に、彼が言った。


「……正直に言う」


 


 胸が、どくんと鳴る。


 


「君がいなくなった朝」


「……息ができなかった」


 


「部屋に、君がいなかった」


「全部そのままなのに」


「君だけが、いなかった」


 


 低い声が、わずかに震えている。


 


「……あの時、初めて思った」


「もう、二度と会えないかもしれないと」


 


「……怖かった」


「……あんなに、怖かったことはない」


 


 私は、息を呑んだ。


 


「君を失うくらいなら」


「地位も、誇りも、全部いらないと思った」


 


 彼は、私の頬にそっと触れる。


 


「……だから」


「もう、二度と手を離さない」


「嫌われてもいい」


「それでも、そばにいる」


 


 私は、気づいたら泣いていた。


 


「……そんなの……ずるいです……」


 


「私、ずっと……」


「必要ない存在だって……思ってたのに……」


 


 涙が止まらない。


 


「……ごめん」


 彼は、私を強く抱きしめた。


「全部、俺のせいだ」


 


「……でも」


 私は、震える声で言う。


「……戻ってきてよかった……」


「あなたのところに……」


「……帰ってきてよかった……」


 


 彼の腕が、さらに強くなる。


 


「……ありがとう」


「生きていてくれて」


「俺のそばに戻ってきてくれて」


 


 私は、彼の胸に顔を埋めた。


 


 もう、一人じゃない。


 この人がいる。


 


「……幸せです」


 


 少し間があって。


「……俺もだ」


 


 その声は、今までで一番優しかった。


 


 ◇


 


 こうして、私たちの日常は始まった。


 冷たい朝は、もう来ない。

 孤独な夜も、もうない。


 


 不器用で。

 遠回りで。

 たくさん泣いて。


 


 それでも、辿り着いた場所。


 


 ――ここが、私の居場所。


 


 レオンハルトの腕の中で、私は目を閉じる。


 


 これから先も。


 きっと、何度も手を取り合って生きていく。


 


 愛されていることを、疑わなくていい人生を。


 


 彼と一緒に。


 ずっと。


 ずっと。


 


 ――おしまい。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


溺愛ものが書きたくて、

「すれ違いからの溺愛」をテーマに書き始めたお話でしたが、

ここまで読んでいただけて、とても嬉しいです。


エリシアとレオンハルトの物語を、

最後まで見届けてくださって、

本当にありがとうございました。


少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。


また別のお話でお会いできたら嬉しいです。

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