赤いワンピース
気づけばチャイムが鳴り響き、午前の授業が終わった。
僕は窓の外を眺め、肘をついた姿勢のままでいる。
飽き飽きする授業も半分終わり、昼休憩の時。
座学でろくに学びもしていないのに、胃袋は食料を要求しやがる。
仕方がないので、老人のような足捌きで購買に向かった。
廊下を歩く僕は、相変わらずあの少女を探していた。
こんな校舎にいたら誰にでも見つけられそうなものだが、遂に僕の目にも映らなくなってしまった。
背中を丸めて歩いていると、スマホの通知が鳴る。
見ると、それは母親からの連絡だった。
《学校終わったら近くの駅で待ち合わせね。ちゃんと柚葉の面倒見るのよ。》
そうだ、珍しく外食に行くってことを忘れていた。
別に家でいいじゃないかと、この場で溢しそうになる。
外食したって特に喋ることもないんだし、大人しく家で食べたいな。
また僕の足取りが遅くなる。
思わず下を見る。
そこには、赤いワンピースがあった。
まじまじと床を見たが、それは間違いなくワンピースだ。
突然発生したようなせいか、落ちているせいか、誰も気に留めず持ち主もいない。
僕はすぐさま服を拾い上げて、持ち主を探そうと廊下を歩み始める。
めぼしい人は見当たらないが、今は服を着ていないはずなのですぐわかるはずだ。
服を他人から守るように抱きしめる。
薄い生地は僕の腕に耐えきれず、少し皺を目立たせた。
昼間の夥しい群衆に、こんな餌を与えたくない。
赤を塗り潰すように、覆い被さって徘徊を続けた。
唸る腹の虫をシカトしながら、僕は購買の外の小庭に出た。
生徒かもわからないので、もう手当たり次第に探すしかなかった。
会って話がしたい。
どうして空を飛べるようになったのか、と。
小庭の柵を辿っていたら、いつの間にか校門に来ていた。
見渡しがいいが、やはり彼女の姿はない。
興奮で咳払いをして、咽せそうになる。
困り果てて、僕は腕を組んだ。
すると、呼吸で聞こえづらかったが、音が耳に入る。
…授業開始のチャイムの音だ。
身体中に冷や汗が伝う。
けれど、バテてエネルギーもない体がそう簡単に動くこともない。
熱中症のような状態で、一心不乱に教室へ向かう。
結局僕は持ち主どころか、赤いワンピースさえ手に入れることはなかった。
乱れた足取りは、泥を被ったように重たく感じる。
腕の温もりも、いつからか冷え始めていた。




