月の再会
春の夜。
桜の蕾がふくらみ始めた頃、月は静かに町を照らしていた。
丘の上の古びた郵便局に、月見が現れる。
銀色の制服に白い帽子。
肩には、まだ届けられていない手紙が詰まった皮の鞄。
その夜、彼が手にしていたのは、二通の手紙。
封筒はどちらも柔らかなクリーム色で、
文字は丁寧に、けれど少し震えていた。
一通目の差出人は「千景」、宛先は「真帆」。
二通目の差出人は「真帆」、宛先は「千景」。
月見はその偶然に、静かに目を細めた。
どちらの手紙も、謝罪の言葉が綴られていた。
~ 真帆へ
元気ですか?
ずっと、年賀状だけのやり取りになってしまって、ごめんなさい。
喧嘩をしたわけでもないのに、なんとなく距離ができてしまったね。
私、ずっと気になっていたことがあるの。
あの時、あなたが相談してくれたのに、
私はちゃんと向き合えなかった。
忙しいふりをして、深く聞こうとしなかった。
それが、あなたを遠ざけた原因じゃないかって、ずっと思ってた。
でも、怖くて聞けなかった。
今さらだけど、謝りたくて手紙を書きました。
でも、これを送る勇気が出せなくて。。。
結局引き出しにしまったまま。
もし、あなたが今も私のことを少しでも思い出してくれているなら、
それだけで嬉しいです。
千景より ~
~ 千景へ
あなたの年賀状、毎年楽しみにしてたよ。
でも、返事を書くたびに、少し胸が痛んでた。
私ね、
あなたが結婚したとき、何も言えなかったことを後悔してる。
本当は、もっと話したかった。
でも、私も家庭を持って、遠くに引っ越して、
なんとなく「今さら」って思ってしまった。
あなたが忙しそうにしていた時期、
私も何か言いたかったけど、遠慮してしまった。
それが、距離を作ったのかもしれない。
喧嘩したわけじゃないのに、なんとなく疎遠になってしまったね。
謝りたくて、手紙を書いた。
でも、送れなかった。
手紙は捨てたはずなのに、心ずっと残ってる。
千景、元気でいてくれたら、それだけでいい。
真帆より ~
月見は二通の手紙(言葉)を鞄にしまい、
静かに夜の町を歩き出す。
彼は、風に語りかけるように呟いた。
「この言葉は、直接ではなく、心に届けるべきだね」
その夜、千景と真帆はそれぞれ眠りについた。
月の光が窓辺に差し込み、部屋を淡く照らしていた。
夢の中。
千景は、懐かしい公園のベンチに座っていた。
そこに、真帆が現れる。
彼女は微笑みながら、手に一通の手紙を持っていた。
「読んだよ。ありがとう」
千景も、手紙を差し出す。
「私も、読んだよ。ごめんね」
二人は、何も言わずに手を取り合った。
風が優しく吹き、桜の花びらが舞い始める。
翌朝。
千景は目覚めると、不思議な感覚に包まれていた。
心が、少し軽くなっていた。
同じ頃、真帆も目を覚まし、窓の外の空を見上げていた。
月はもう沈んでいたが、空には柔らかな光が残っていた。
その日、千景は思い切って真帆に電話をかけた。
十数年ぶりの声。
最初は少しぎこちなかったが、すぐに笑い声が混じり始めた。
そして、再会の約束を交わした。
数日後。
駅前のカフェで、二人は再会を果たす。
変わったものも、変わらないものもあった。
けれど、何よりも嬉しかったのは、
『また会えた』という事実だった。
その夜、月見は丘の上の郵便局に戻っていた。
彼の仕事はまた一つ、終わった。
だが、鞄にはまだ、誰かの心に届かなかった言葉が残っている。
今夜もまた、月の光に乗せて、
彼は静かに歩き出す。




