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月の誤解

 届いた同窓会の案内に、悠人ゆうとは欠席の印をつけて返信した。

 理由は、差出人の名前だった。


 ――健太


 彼には、いじめられた記憶がある。



 翌日、携帯が鳴った。

 画面には、健太の名前。


「なんで欠席すんの?」

「俺をいじめたヤツがいるからだよ」

「誰だよそいつ?」

「……お前だよ」

 沈黙のあと、悠人は静かに通話を切った。




 同窓会の翌日。


 健太とは別の友人から電話がかかってきた。


『なんで来なかったんだ?』

 そう聞かれ、悠人は『用事が重なって』と嘘をついた。

 その会話の中で、健太が同窓会に出席していなかったことを知る。


「え?あいつ幹事じゃなかったの?」

『幹事は4人いたからな。代わりはいたよ』

「急用でもできたのかな」

『いや…なんかショックなことがあったらしいよ』

「……それ、俺かもしれない」

『は?』


 その後、数人の同窓生に話を聞いた。

 すると、悠人が“いじめられていた”という記憶は、どうやら勘違いだったらしいことが分かった。


 誰かに笑われたこと。

 誰かに無視されたこと。

 誰かに名前を呼ばれなかったこと。


 それらが、すべて健太のせいだと思い込んでいた。


 でも、実際には――違ったのかもしれない。


 悠人は、夜空を見上げた。


 月は、静かに、優しく輝いていた。




 夏の夜。


 丘の上の古びた郵便局に、月見が現れる。


 銀色の制服に白い帽子。

 肩には、まだ届けられていない言葉が詰まった皮の鞄。


 その夜、彼が手にしていたのは、一通の封筒。


 差出人:悠人

 宛先:健太



 ~ 健太へ ~


 あの夜、電話を切ったあとずっと考えていた。

 俺は、ずっとお前に怒っていた。

 でも、何に怒っていたのか、はっきり思い出せなかった。


 誰かに笑われたこと。

 誰かに無視されたこと。

 誰かに名前を呼ばれなかったこと。


 それが、全部お前だと思ってた。


 でも。。。


 同窓会に来なかったって聞いて、少し驚いた。


 もしかしたら、俺の言葉が、お前の心を刺したのかもしれない。

 そうだとしたら


 ――俺はお前に謝りたい。


 俺は、ずっと誰かを責めていた。

 でも、誰かに話すことも、確かめることもしてこなかった。


 だから、もしあの時の俺の言葉がお前を傷つけたのなら。


 ごめん。

 すまなかった。


 届かなくてもいい。

 許されなくてもいい。


 ただ、少しだけ、お前の心が軽くなればいい。


 ――悠人



「…」

 月見は手紙を鞄にしまい、夜の町へと歩き出す。

 健太の部屋の窓辺に立ち、そっとその手紙を置いた。





 夜明け前。。。


 健太は机の上の封筒に気づき、差出人の名前に目を留める。


 手紙を読み終えたとき、彼の表情からは陰りが消えていた。


「なんだよ……間違いかよ」

 そう言いながら、口元には笑みが浮かんでいた。


 月は、静かに、優しく輝いていた。




 健太は悠人に電話をかけた。


 いつしか話題は、次の同窓会のことになっていた。


「今度はお前も幹事をやれよ」

『お前も今度は土壇場で欠席すんなよ?』

「うるせーよ!」

 二人は笑い合っていた。




 月見は、遠くからその様子を見守っていた。


 彼の仕事はまた一つ、終わった。

 だが、鞄にはまだ、誰かの心に届かなかった言葉が残っている。


 今夜もまた、月の光に乗せて――

 彼は静かに歩き出す。


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