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後篇


 百二十年――――。


 スピスピ寝ている間に、世界は一変していた。


 まず、銀塩写真の精度がぐっと上がっていた。

 しかも、なんと色が付いて更に動くのだ! なんという発明だろう。


 最初、薄い板の向こうに人が歩いているのを見て魔女たちが人間の世界に馴染んだのかと思ったらそうではなかった。ちょっと残念だ。


 夜の住人達は、その数を減らしていてサウィンの狂宴も随分と寂しくなったらしい。


 人々は、俺たちが呼吸をするように使う魔術を智慧で補って別の形で人間も使えるようにした。人類の目覚ましい進歩というやつだ。


 だが、それと引き換えに俺達の仲間の一部は、その存在すら忘れられ、世界から弾かれて去っていった。

 奴らがどこにいったのかは知らない。知るすべがない。ただ新しい仲間も生まれていて、人の心の力というのは凄まじいエネルギーを持っているのだと思う。



 海の向こうを思う。


 あの子供は、どうしているのだろう。俺の戯れのせいで子供の姿のままなのだろうか。それとも、年老いて、それでも天国の門の前に続く階段を昇ろうとせず待ってくれているのだろうか。


 一瞬で海を渡った『アレ』は、何だったのか。




「だったら、見に行こーぜーーっ」


 底抜けに明るい海賊のひと声で棺桶に詰められることになった。


 海を超える前、文明の利器というやつであの子供の容姿を何となく特定出来た。

 俺の画力は、画伯と呼ばれる域だったらしく手描きでは梃子摺ったが、ラップトップなる堕天使ご自慢の人間版エメラルドタブレットを使用することで全世界の情報を閲覧することが出来た。

 アカシックレコードみたいで凄いぞ。


 そこで、子供が着ていた服がKimonoという名前だと分かった。Kimono可愛いな。ソコから、Kimono is a traditional Japanese garment.目指す国はJapanというのも分かった。

 時代とともに、異種文化と融合し変容したデザインも亜種として存在はしているが、百二十年経ってもKimonoは、そのデザインを変えず普通に着られているらしい。


 oh sh*t!

 These guys live in the future.


 俺が謎の感動を覚えているうちに、弟によって棺桶の中に放り込まれた。これから幽霊船に乗って海を渡るのだ。同じ夜の眷族となったのに、俺と弟では怪異の出方が違った。俺は望めば、蝶にも鳥にも蝙蝠や狼にだって変身することができる。日光に当たって灰になったりはしないが、身を斬るような痛みに苛まれるから太陽は苦手だ。命を吸い上げることでしか腹を満たせないから、効率重視で人間の生き血をすするが命の息吹が感じられるのなら魚や動物であっても構わない。

 だが、やはり効率は悪いし俺は人の生き血が一番美味いと思っている。

 弟は、俺より強く銀の月に愛されたのだろう。食に制約のある吸血鬼ではなく、人狼なんて人間社会に紛れやすい怪異の出方をした。まぁ、普段は狼と人間が混ざった半々の見た目をしているから、そこについては言及を避けよう。うん。

 そんなこんなで俺と違い日光にあたる事で激しく痛みを感じることがない奴は、人の姿になって人間社会で生きることができるし、食事も人間と同じく雑食だ。なんだって食べる。勿論、血の滴る生肉がお好みであることは確かだが、それは俺と同じく命の息吹が一番腹を満たすからだ。


「なぁ、俺また寝んの?」

「海図を引いた海賊の目算では、かなり急いでも八十日は掛かるそうだ」

「それは、聞いたけどさ」

「流れる水に触れたらヴァンピルの魂が抜ける」

「お、おう」

「寝ていたほうが、途中で食事を摂る必要もないから安全だ」

「わかったよ」


 こうして、俺の移動大作戦が決行されたのだ。


 寝過ぎて体イテェ。


「うっかり百二十年寝てて、よく言いますね」

「申し開きのしようもございません」


 ウェスペルが堕天したのって、優しすぎたからじゃなくて口が悪すぎて追放されたんじゃねー?



 ▽△▽△



 海を渡った見知らぬ国は、新しい刺激をたくさん与えてくれた。ラップトップの画面越しにみた世界は、現実ではもっと独創的で心が煽られるものだった。

 普通の人の普通の暮らし。

 それは国が変わろうと普遍的なもののはずなのに、長く暮らしていた国が違う俺たちから見たら『とてつもなく非日常』が、なぜか当たり前としてそこに存在するのだ。


 ああ、それでも。

 祭りごとで大騒ぎするのは、国が変わっても変わらないな。って思ったよ。




『スゴイ人出ですね』


 どこからこんな人が押し寄せてきたのだろうと思うくらい人が歩いている。


『歩きにくいな』


 ハロウィンの夜、日が落ちたらサウィンが始まる。あの子にあった日だ。

 この日に間に合うよう船を航走(はし)らせてくれた海賊には、何度でも礼を言いたい。

 本人は、「たまたまだよ、たまたま」なんて笑っていたが、随分無理をさせたのだろう。見えない部分の肉は削げ落ちて骨が見えていた。彼が繰る幽霊船の傷みを彼の霊核を削ることで補っていたのだろう。

 途中、子供の気配を確認するため寄った島が海賊と相性が良かったらしくみるみる回復して驚いたと人狼が言っていたが、みるみる回復してあの惨状なら俺が寝ている間はどんな姿だったんだ。


 島で一度目覚め、子供の気配を追った。ボンヤリとしたイメージしか涌かない。時間が経ちすぎたことで繋がりが希薄になったことと、やはり海に阻まれて思うだけで相手の傍らに飛ぶことは出来ないようだ。


 働かせてばかりで申し訳なかったが、海賊に何となくの方向を伝えると図面を引き、Tokyoだろうとあたりをつけていた。

 そして棺桶に逆戻りした俺は、今は無事Tokyoの地に降り立っている。


 海賊は、船を暫く休ませると言って海に沈める為にKudakajimaまで戻っていった。自分も船と一緒に海の中で一晩眠るそうだ。本当に彼には感謝が尽きない。


『しかし、言葉が分からないというのは不便なものだな』


 困ったと顔を顰める妖精の王の言葉に、心臓が跳ねた。


『……言、葉……?』


 あの子供の気配を探っているうちに、俺はこの国の言葉を理解出来るようになった。他のみんなも同様だと思っていたから違っていたことに驚く。


『ヴァンピル?』

『あ、いや……』


 何でも無いと肩を竦める。


 あの子供と繋がりを持つ俺だけに、現れた変化ってことなのか?

 百二十年前は、子供が俺と同じ言葉を話していたはずだ。何がどうなっているのかよく分からないが、全てはあの子供を見つけ出せば解決するような気がする。


『雑音が多すぎて、耳が使えなくなりそうだ』


 ヒトガタになっていても人狼は人狼ってことか。無数の音に囲まれると責め立てられているような気持ちになるし、今までが静かな海上だった分、余計にうるさく感じるのかもしれないな。


『悪いな、付き合わせて』


 あの子供の気配がする。


 この人混みの何処かに居るはずなんだ。この際、夜霧になって……と、思ったが夜でも煌々と建物が輝くこの国では、夜に霧が出ることはないようで無理だと秒で悟った。

 黒鶫や蝙蝠、蝶に姿を変えて飛んで探そうかとも思ったが人の生気のほうが強過ぎて悪酔いしそうでやめた。


 ままならない。


『別に俺だけで探せるから、食事なり、観光なり好きにしてくれ』

『何言ってるんですか、ここまで来て』


 珍しく元天使が反論した。


『そうだぞ』

『そうだ』


 それに人狼と妖精王が続く。


『こんな楽しいことの目撃者にならないでどうするんです!』


 そこかよ!!


『百二十年だからな』

『百二十年も待ち続けてくれた相手を、是非見てみたいと思うのは仕方ないことだと思うぞ』


 同意をすんな!


 畜生、コイツら……!


 口を開こうとして、心臓が大きく脈打った。


『……っ!?』


 それは不思議な感覚で、魂が引き出されるような押し込まれるような。命が流れるのに似た。けれど、なにかに吸い寄せられるような。

 それまで漠然として、蜃気楼のように揺らいでいたものがハッキリと輪郭を持ち姿を現し、自分はここにいるのだと感覚で伝えてくる。



 細く繋がったこの先を手繰れば、きっとあの子供に辿り着くのだと本能で理解した。


『ヴァンピル?』

『ああ、……見つけた』




 ────吸血鬼は、夜に紛れる。




 ▽△▽△




 通行人で賑わう街の大通りで、ガードパイプに軽く腰掛けた二人の高校生が迎えの車を待っていた。


 夜の繁華街に制服姿の高校生がいても、この街では珍しいことではなく誰も気にも止めないし、咎めることもない。


 しかも今宵はハロウィン。

 身につけている衣裳が身分を証明するものなのか否かは、外から見ただけでは分からない。


「あっ……」


 二人の学生のうちの一人、鶴嶺(つるみね)美詞(みこと)が小さく声を上げた。前下がりに切り揃えられた顎より少し長めの真っ直ぐな髪がサラリと揺れる。


「どうしたの?」


 傍らにいたもう一人の高校生、緩い天使の巻き毛をもつ栄木(えいき)寿里(じゅり)が相手の顔を覗き込むように首を傾けた。


「行かなきゃ〜」

「え?」


 夜の繁華街など、普段の二人なら無縁の存在だ。

 しかし、今日は栄木家が懇意にしている華道家の作品展に寿里が幼馴染でいとこの美詞を伴い出掛けたため、こんな時間にも関わらず二人とも制服姿で出歩いている。


 現代アートといけばなの融合というテーマで行われていたそれは確かに見応えはあり、ホールの閉館時間である二〇時ギリギリまで会場にいた為、随分遅い帰宅となってしまったのだ。

 とはいえ、送り迎えは資産家で富豪と呼ばれるに相応しい栄木家の車任せであり、のんびりとしたふたりは、なんの心配もいらないと広場に面した大通りで車の到着を待っていた。


「もう乙倉(おとくら)来たの?」


 長年、栄木家に仕える老執事の乙倉は、寿里が幼い頃に執事長の役を降りると、それから彼の身の回りの世話をする世話役(じいや)として陰日向に、つかず離れずで仕えている。


 寿里の希望は大概叶えてしまうスーパー執事なので、彼も全幅の信頼を寄せている存在だ。


 そろそろ帰るから迎えに来て。と、メッセージを送ってからまだ十分も経っていない。近隣の駐車場で待機していたとしても、約束の場(ココ)所に到着するのは少し早いのではないだろうか。


 キョロキョロと車道を見渡す寿里に、美詞は首を横に振った。


「ううん〜違う〜」

「ええ?」


 迎えの車が来たのではないとしたら、どこに行こうというのだ。美詞が何を言いたいのか分からず混乱する。


「ずっとぉ昔の約束〜」

「えっ、えっ? 約束?」

「そう〜〜」


 状況が飲み込めない寿里の心を置き去りに、美詞はガードパイプから降りた。


「来た〜〜」


 言って微笑む美詞の瞳が、真っすぐに何かを捉えているのに気が付き、寿里もその何かを探してそちらへと視線を向ける。


「ド、ドラキュラ?」


 行き交う人々の向こう側に彼は立っていた。


 拳二つ分は、周りの人々より背が高い美丈夫がこちらを向いて立ち止まっている。

 時期的に可笑しくない格好であるが、ひと目で上等と分かる布地と上質なレースがふんだんに使われたクラシカルなデザインの装いは仮装の域を超えている気がしたし、何より身に付けている側が着慣れ過ぎているような妙な違和感があった。


「ずっと、待っていたんだぁ」


 涼やかな目元が緩む。


 美詞は、不可思議という言葉がよく似合う少女だった。


 穏やかで優しくいつも微笑みを絶やさない。時折、辛辣な物言いをする時もあるが、普段が普段なので素直に思ったことを口にしてしまったのだろうな。で、許されてしまう不思議な存在。


 幼少期から誰に対しても同じだけの慈しみを示す彼女が、今見たたった一人に対してそれまでとは違う明確な感情を示していることに寿里は衝撃を受けていた。


「わたし、行くね〜」

「ま、待って、みことちゃん」


 慌ててガードパイプから降りて呼び止めようと手を伸ばす。


 寿里に向き直った美詞は、何かに気が付いたのか横を向きソチラを指差した。


「寿里くん〜、お迎えきたよ〜」

「えっ、あっ」


 指差された方を見れば、見慣れた車が滑り込むように路肩に寄せられ停車するところだった。


「ダメダメ、そうじゃない。みことちゃん、行かないで」

「ま〜た〜ね〜〜」


 そう言って手を振る美詞が人波に見え隠れしながら離れていく。


「待って、みことちゃん!」


 追い掛けようにも、車から降りてきた乙倉の姿を目の端に捉えると躊躇われ、そうこうしているうちに美詞は、例の美丈夫の元へと辿り着いてしまった。


「あっ」


 吸血鬼が片方の肩に掛けていたマントを翻し、その内側に美詞を隠してしまうのと行き交う人波が寿里の視界の邪魔するのは殆ど同時で。


「う、うそ……」


 次に視界が開けたときには、二人の姿は忽然と消えていた。





 ▽△▽△





「空〜飛んだのぉ〜?」

「まぁ、そうだな」


 腕に抱えた童を、もう一度抱き直す。


 あの小さかった子供が、本当に成長していた。


 否。人は成長して当たり前なのだが、自分の予定では今にも天国の門へ旅立って可笑しくない年齢になっていると思っていたから、目の前に現れた若者に驚き戸惑い焦燥している。


 神に盗られる前に血を飲ませて血の契約を結ぶか、子供の血を求め闇の業を分け与えることで完全な吸血鬼にしてしまえば肉体は若返り死からは遠のく。

 そう考え、強引にでもことを進める気でいたのに。

 いざ見つけてみれば、いつかの約束をした年齢の姿で存在していたのだから理解が追いついていなくても許されるだろう。


 俺が、目印を付けたことがいけなかったのか?


 否。吸血鬼の接吻に、そんな能力を与える効果は聞いたことがない。


 百二十年寝ていたのが間違いで、……というのはないだろうから、やはりこれはこの子供の生まれ持った異能という事になるのか?


「なんで、年取ってないんだ」


 俺を見つけ、真っ直ぐに駆け寄ってきた姿に心臓にオルダーの杭を打ち込まれたかのような衝撃が奔った。たった一度、しかも僅かな時間しか過ごしていない相手への執着としては度を越していると思っていたが、本人を前にしたら駄目だった。


 誰の目にも触れない所に連れ去りたい。


 だから衝動のまま、目に入ったビルの中で背が高く人の気配のしない大時計が特徴の尖塔ビルへと攫ってきた。


 今頃は、置き去りにされた人狼達が俺たちを探して慌てふためいていることだろう。


「十七くらいがいいって言った〜」


 今の発言が気に障ったのか、不機嫌な顔で抗議される。


 落とさぬように、しっかり腰を抱いて空間を跳んで来たが、相手の腕も自然と首に回され抱き合うような姿になったことが更に魂をざわつかせた。


「いや、そうじゃなくて。いや、そうなんだけれども。そうじゃないっていうか」


 なぜ、俺のほうがしどろもどろにならないといけないのか。


「あぁ、もう」


 深い深い海の底へ誘うような瞳が自分を見上げている。


「……順番、間違えた」


 その瞳に吸い込まれそうになって、漸く大事なものが足りてない事に気が付いた。


「えぇ?」


 大切に抱えた腕の中から困惑の声が上がる。


「名前、聞いてなかった」


 やっと見つけた。逢えた。待っていてくれた。歓喜のままに攫ってきて、そうしてやっと気付く。


 名を呼びたくとも、その名を知らない事に。


「も〜〜っ」


 本日二度目の不機嫌な顔が見れた。可愛い。

 ……って、そうじゃない。


「俺の名前も言ってなかった」


 この元子供は何者なのだろう。


 夜の眷族でもなく、一瞬で海を渡り、老いを知らず、人の写し身のように見えて、生気はない。

 わからない事だらけだが、これから先、幾らでも時間はある。一つ一つ問いかけて解を貰えばいい。


「人として生きていた頃の名前は憶えてない。人だったかも知れてない。気が付いたら夜の住民になっていて……。それからは、吸血鬼(ヴァンピル)と呼ばれている」


 名前というより、種族の呼び名だな。


 付け加えれば、腕の中の彼女は少し困ったような笑みを浮かべて「そうなんだね」とだけ言った。


「あと、弟が一人。ずっと一緒にいるから……多分、弟だと思う」

「多分なんだ」

「曖昧なんだよ。増えたり、減ったり、うっかり寝過ごしたり」

「遅刻の原因、寝坊〜〜も〜〜」


 トンと一度だけ力ない拳で肩を叩かれる。そこはぽかぽかと胸を叩いて欲しかったような、……ってか。


 吸血鬼は、低血圧なんだよ。


 抱いていた腕を緩めて、両手で相手の頬を包む。親指の腹で頬の高い部分を撫でて、人差し指と中指で耳介をなぞり、髪を梳く。

 サラサラと指ざわりの良い、しなやかで美しい髪だった。


「名前教えて」


 知らないことだらけの彼女への最初の質問だ。


 俺に名前を呼ばせて――――。


 わたしの、名前はね。短く前置きする彼女は、嬉しそうに目を細め唇は弧を描く。


「美しい言葉と書いて……」


 一つ一つ単語を区切るように話す。まるでその名前自体が宝物のような笑みを浮かべて。





 ▽△▽△





『やっと、見つけましたよ!』


 フワリとした光が降りてくる。


 この街は夜でも明るい。この程度の明かりなら、街の光に飲まれて見ることも叶わないだろう。


 ミコトたちの前に留まった光がヒトガタに伸びて薄く色付き、やがて正真正銘の人が現れた。


『ウェスペル……』


 光が途切れて出てきた人を見て、吸血鬼は顔を顰める。線が細く気弱そうに見える見た目に依らず、ウェスペルと呼ばれた彼は口が達者で小言が煩い。

 真っ先に彼に見つかってしまったことを、少しばかり悔いた。


『エルフェン』


 自由意志で地上に降りた元天使は、虚空に向かって友人の名を呼ぶ。すると、今度はウェスペルの後ろ。やや離れた位置に、スポットライトが当たったような光溜まりが出来た。


 下から上へ光の渦が柱のように伸びる。渦が広がり四散すると、こちらは中から二人の男性が現れた。


 背格好が似た二人だが、一人は憂いのある面差しをした美しい男性で、もう一人は吸血鬼によく似た髪色をした逞しい男だった。


 パタパタとミコトの睫毛が忙しなく動く。


「おとうと〜〜?」


 おっとりとした動きで首を傾けるついでに見上げられ、吸血鬼は我に返った。


『あ、ああ。最初に現れたのが元天使(ウェスペル)、次に出てきたのが妖精の王(エルフェンケーニヒ)。ソイツにくっついて出てきたのが、弟の人狼(ヴルコラク)


 順に名を呼んで紹介していく。


『あと一人、俺をここまで連れてきてくれた海賊の亡霊(ベルンハルト)がいるんだが、今は海の中で休んでる』

「そーなんだね~」


 急に現れた夜の住人たちに、特に驚きを見せるわけでもなくミコトは「みんなカッコイイね〜」なんて言って微笑んでいる。


 一番カッコイイのは、俺だろう?


 ムッっとして唇を尖らせると面白がったミコトに唇を抓まれた。


「お子様〜」

『ガゥ』


 指を噛んでやろうとしたのにまんまと逃げられる。ぼんやりした話し方をするのに、動きは妙に早い時があるんだよな。


『ジャレてる……』

『ジャレてますね』

『まさか、あの子供が?』


 三人が三人とも信じられないモノを見たって顔でこちらを見てくるから、ちょっと心配になってミコトに嫌がられないことを願いつつ後ろ抱きに胸に抱き寄せる。

 ミコトが直人(ただひと)とは思っていないが、人間である以上、否、人間かも怪しいのだが。それでも夜の住人達は人間が好きだ。特にエルフェンケーニヒは幼い子供ほど惑わす声を持つ。万が一、エルフェンの声を聞いたミコトが心変わりなんてしたら凍りついた心臓が砕け散りそうな気が……まで考えて、ん? ってなる。


 百二十年生きてて子供か?


「どうしたの〜?」

『ミコトは、子供か?』

「わたし〜〜?」


 首だけ振り返った相手に、小刻みに頷いて答えを促す。


「わたしは、子供じゃないよ〜」


 そうそう、百二十年前もそんな会話したした。


 ……ん??


『待った。そうだ』

「そう〜?」

『あの時から、子供じゃない?!』

「わたしは、座敷わらしだよ〜〜」


 異言語で会話が成り立っている二人を眺める人狼達の頭の上に『?』が飛び交う。


『ど、どうなっているんだ?』

『なんか、言葉がわかる』

『それは、そうだろう。まさか、あんなトンデモナイものを捕まえていただなんて……』


 少女の形をしたソレは、自分に近しい。けれど、より純度が高く精霊が昇華した存在だと、妖精の王は気づいた。


『ざ……ざ? ざ……なに?』

「座敷わらし〜。簡単に言うとぉ、神様〜〜」


 ハッキリ神という単語が出て、異国からの来訪者全員が固まる。


「森羅万象に神を見出す人々が住まう国〜、八百万の神が宿る国にようこそ〜〜」


 座敷童衆は、イタズラが成功した子供のように細い目を更に細めて笑った。








 どんな異形のモノであっても、神の前ではただの小童。


 最初は些細な好奇心から。


 出逢い、触れて、約束をした。


 恋心だけを頼りに海を渡り、異国の地で手を取った。



 これは、


 ながいながい悠久をかけて、神様を永久の伴侶に迎えようとする人外の話。





読み切りタイプで、過去に他サイトに掲載していたものを手直ししました。

直している間、ずーっと頭の中でイケナイ太陽が鳴っていたので、多分、そういう話だと思います笑。


お時間頂き有難うございました。

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