結局呼ばれちゃいました
「ピンチかも」
アオがいなくなって暫くたったが、まだ立てない俺の前に、遠慮なくワラワラと現れたのは明らかに普通の動物とは違う、いわゆるモンスター。
「昨日までいなかったじゃんか……」
赤い目の子は魔物を呼ぶとか言われても、一週間も薬草集めしていた間に出なかったのに、逃げることもできない今日に限って現れるとは運がないなと笑いすら出る。
「まぁ男の子だし、殺される前に『くっコロ』な展開は無さそうだし、やるなら一思いにやってくれよ」
数匹現れたのは全てゴブリン。ただ一番前のリーダーっぽいやつは前の個体とは違い髪の毛がモヒカンみたいになっていると、なんかたまにテレビで流れてた世紀末のアニメのモブみたいだとぼんやりと眺めていれば、まるで効果音はヒャッハーとでも聞こえそうな顔をしてゴブリンがこちらに飛んでくるのを、諦めて目を瞑って最後の時を待つ。
「……ん?」
暫く待ってみたが痛みが来ないとゆっくりと目を開ければ、目の前には白い衣を身に纏った女の子。
「目が覚めましたか!?」
「えぇっと?」
逆光の彼女の顔が見えてくれば可愛い笑顔が目に入る。
「ハジメさん!あの時はありがとうございました!」
「え!?」
呼ばれたことに驚いて目を見開けば、その子はすぐに俺に手を当てて「癒しを」と唱えれば、俺の傷がみるみる塞がっていく。
「ハジメさんが助けてくれたのに、結局呼ばれちゃいました」
「あっ!あの時の……!」
その顔は俺がこの世界に来ることになったあのマンホールの上の美少女だと目を見開く。
「ご無事で良かったです。えっと、世間話は後にして、ひとまず一緒に戦ってくれませんか?私、癒しと防御が主でして、あの壁もあんまり持ちそうもないんです」
「そ、そう言われても……ちょっと待ってね」
ゴブリン達が今は透明の壁に塞がれていても、こちらにこようと武器をガンガンと振り回しているのに気がつき、慌てて立ち上がれば確かに疲労すら抜けていると軽い身体に驚けば、美少女はニッコリと笑ってくれた。
「あの、頑張るけど……なんか、ごめんね。見ない方がいいかも?」
「え?」
頬を掻いて苦笑いをしながら言えば、彼女の不思議そうな顔に答えを出す前に、目の前の彼女の透明な防御壁が割れてヒャッハーくんが飛び込んできた。
「……っ! 出来るか⁉︎」
不安に思いながらも思わず右手に念の為と左手を添え突き出せば、ヒャッハーくんはまたも壁にぶつかった。
「え? ハジメさんも防御系……?」
そう質問に答えてあげる前に俺が手を握れば、相変わらずエッッッグイ光景が繰り広げられた。
モンスターとはいえ、曲がっちゃいけない方に曲がって、なんかこう、出ちゃいけないものがパーンってなるのは我ながらオロロと胃の中身が出そうになりながらも、そうも言っていられないとゴクリとそれを飲み込む。
「ひぇっ」
しかし初見な美少女ちゃんは顔を青くして一歩下がっているが、俺としては少しだけコツが掴めたと、あと割れた防御壁を超えて数体やってきたゴブリン達に向けてまずは右手、そして今度ばその横に左手も並べて左右に広げる。
そして両手を勢いよくそれを合わせて拍手のようにすれば、ゴブリン達は一気に中央へと集まり、“パンッ”と弾けた。
「エッグ………」
我ながら酷いと冷や汗が流れたが、ひとまず美少女ちゃんに視線を送れば、美少女ちゃんはそのままフラッと横に倒れたのをギリギリ受け止められたのは、我ながら百点満点だったと思う。