イチロースタイルのナイスボーイ!
「あとお前馬鹿だな」
「酷い言われよう!」
「ステータスを素直に見せるのは馬鹿だ」
「え!?そうなの?!」
たしかに学生の成績表も友達にもマルっと見せることはあまり無かったかと、ステータスを閉じようとするが、まだジッとステータスを見る子供にもう一度見せたなら今更消しても意味はないと、ついでとばかりに自分も見てみる。
「職業の学びビトは……まぁ単純に『学生』ってことだよな。スキルの空気を掴む手は『空手』と、シノビは……そのまま忍? 『たがいに打つ』ってなんだろ……もしやクロスカウンター? つまりはカウンター!? ちょっと君、俺のこと殴ってくれる? でももし殴り返したらゴフェッ」
躊躇いなく殴られてそのまま地面に転がれば、何してんだとばかりに見下す子供。こんな筈では……!と、頬を抑えたヒロインスタイルで地面に座りこむ。
「……うん。つまりはクロスカウンターとかじゃないらしいな。うん。まぁボクシングとかはしてないしね。これは違うということで、選択肢から除外する」
「お前馬鹿だな」
「正直わかってるけど言い方ぁ! オブラートに包むとかあるでしょぉ!?」
「オブラートってなんだ?」
「……うん。そだね。そこからの説明だね」
なんか我に返ったと、痛む頬を撫でながら立ち上がり、なんとなく打ち解けた子供の前に立てば、140センチに満たないくらいの彼はちょっと怯んだようにこちらを見た気がした。
「名前は?」
「……なんで言わなきゃいけないんだ」
「俺はハジメ! 一番のイチって書いてハジメ!! でもビックリすることに長男じゃなくて二男!! イチロースタイルのナイスボーイだ!」
目の前にしゃがんで、勢いのみスマイル挨拶で乗り切って手を出せば、「イチって書いてハジメってどーゆーことだ?」と訝しげな視線を喰らった。漢字の概念が無かった!!!
「…………アオ」
「アホって言わないで!?」
ストレートなツッコミに言い返せば、またストレートな右の拳を喰らった。痛いっ!
「アオだ!!アオ!!誰がアホだ!!」
「それはごめんなさいっっ!!」
単純な聞き間違えをしていただけだと、手を合わせて謝れば、アオくんは顔を背けたけど「お前がアホだろ」と言われて、もう一度ごめんねと誤った。
×××
「手を繋ぐな!」
「だってアオくん迷子だろ?お家は」
「焼けた」
「oh……sorry。んじゃ家族は?」
「……死んだ」
なんとか持ち直そうと再度聞いた質問も思った以上にあれだったと天を仰ぐ。
「もしかして。みなしご?」
「……大人だ」
「そ、そうだね」
そう言う彼の繋いだ手は小さくて、大人になるには時間がまだかかるだろうと……華奢なその手の行方を思うが、この世界でまだ右も左もわからない俺に何が出来るのかと思っていれば、いつのまにかアオくんの視線は俺に向けられていた。それにしても瞳はアカなのにアオくん。お母さん、ネーミングあってます?
「何見てるんだ」
目が合えばすぐに下を向き、その瞳はフードに隠れて見えなくて。
「……俺、マリーさんに聞いてみる!」
「は?」
「だ、駄目かもしれないからね!俺も居候みたいなもんだし?そしたらどっしよっか?」
「どうしようかと聞かれても……正気か?」
「だっ、だって、仕方ないじゃんかっ!」
俺は三兄弟の真ん中で、兄貴とは二つ差だけど、弟とは7つも年が離れてる。
その弟くんは184センチの俺と、それよりもデカい兄貴と……なんちゅーか弟はちょっと違うサイズ感だった。直訳すると小柄。前にならえが腰に手を当てるタイプの子。
ちなみに俺たちのお下がりの中学の制服がデカくて拗ねてた弟を兄貴と俺で可愛いと思っていたら、すね散らかして夕飯も時間をずらされて顔合わせてくれなかった一週間がありました。
「俺にはそんな可愛い弟がいてね」
「なんだよ突然」
「思い出が脳をよぎってたもんで」
「勝手に話しを進めるなよ」
そう言って睨むようにこちらを見る彼の前に視線を合わせて微笑む。
「うん。だからさ。君のこと、ほっとけない」
ただそれだけを告げれば、アオは顔を赤くして視線を下げると、ただ握った手の力が少しだけ強くなった気がした。