空気を……いや、師範でも無理よ!?
ゴブリンが振りかぶり“ブォンッッ”と可愛くない音を立てて棍棒を振り下ろされたそこには……子供はいない。
不思議そうに見つめるゴブリンに構わずに、俺は子供を小脇に抱えて走り出してた。
「嫌ッ!怖いッ!異世界怖ーーいッッ!!」
目の前で子供が潰されるとか、夢見が悪いにも程があると必死でゴブリンの前から引っ張って抱いて走り出したが、ただの一般男性が人を抱えてのダッシュはスピードなんて出やしない。
「お前……!なんで助けた!?」
「俺が夜寝れなくなっちゃうでしょ!?」
「は!?」
何を言ってるかわからないとばかりに返されたが、そんなことより今の会話でゴブリンがこちらに気づいたらしく、聞いた事ない奇声を上げて追いかけて来ちゃった!!
「いやぁーー!怖いんですけどぉーーー!!」
「じゃぁ置いていけよ!」
「子供見捨てて生きてく大人になりたくないんだよ〜!こちとらまだ二十歳を祝う会もされてないけど高校生のうちに成人して大人になっちゃってるからね!」
「何言ってんだ!? 共倒れする気か?」
「それはもっと嫌!」
そう言って子供に視線を送ると、その目は赤くて綺麗だなんて思えば、なんだか少し嬉しそうな表情にも見えたかと思えば、俺の指を外して地面へと転がった。
「お人好しの馬鹿は早く逃げろよ」
「なっ……!」
フードの子供は笑うと、そのままゴブリンに向けて走り出せば、ゴブリンは嬉しそうに棍棒を振り上げウェルカム体制で飛び上がり歓迎の意を表した。
「ちょっ……待ってよ!!」
子供に身を挺して守られたなんて、そんなの夢見が悪いじゃ済まない。だからといって伸ばした手では何も出来ないと思った時、受け入れるかのように目を詰むった子供の目の前でゴブリンが何かにぶつかったように見えた。
「……え?どしたん?」
何が起きたかわからないと子供を見れば、子供も気付いたらしくこちらを見返してくるのは何が起きたかわからないのだろう。
「いや俺も、何やらサッパリ……」
伸ばした手が何となく恥ずかしいと、そのまま握って誤魔化してみれば、ゴブリンを阻んだ透明な壁も丸まって、ゴブリンは曲がっちゃいけない方向へと丸まると、そのままグシャリと地へと落ちた。
「えっぐい……!結果夢見チョー悪い!」
流れる緑色の血は人ではないのを表して、しかし透明な壁のおかげで、子供にも返り血がかかることもなく……、いやそれ以上にお子様にバイオレンスな絵はダメだろと、慌てて子供の元へ行きその手を引いて歩き出そうとした時、ゴブリンの身体が消えて、小さな宝石が落っこちた。
「oh……異世界」
ならば最初からバイオレンスなデッドは見せずに済ませて欲しかったと青い顔でいれば、子供はそれを拾い、「んっ」とこちらに差し出してきた。
「お前、凄い力使えるんだな」
「え!!俺!!?」
なんのことだと目を見開けば、その顔は訝しげに歪んでいる。
「どーゆースキル持ってるんだ?」
「いやクズスキルとか言われたけど……」
「気配も音もなく近付くし……恐怖すら感じる」
「心外だよ!?」
「ステータス見せてよ」
「まぁいいけど」
そう言われて「ステータスオープン」とあの日以来言えば、相変わらず目の前にゲーム画面みたいのが開かれた。
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サトウ ハジメ
ハジメ
種族 ヒト科
年齢 20
職業 学びビト
スキル 空気を掴む手 たがいに打つ シノビ
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「ん?」
名前の文字化けも他もなんとなくマシになって来てるが名前がバグかな?と他にも何か変わってるとよくよく見れば、[持たぬ手]が[空気を掴む手]に変更されてることに気がついた。
「え!?どーゆーこと!?」
「なんだよこのスキル?」
「知らない……っ、えっ、いやそーゆーこと!? 全然違うよ!!?」
合点がいったと声を荒げれば、子供にうるさいと怒られてしまう。え、この子、命の恩人に厳しくない?
「空気を掴む手……これ多分あれだわ。空手」
「空手?」
「う〜ん……武道。子供の頃からやってたから、段も持ってるから、一応スキルといえばスキルだけど、文字変換ミスってとんでもないスキルに変換されてるみたい」
意味がわからないとその顔は歪まれたけど、今更ながらにこの子可愛い顔してることに気付く。やだ将来イケメン決定!!羨ましい!!
「で、これは?」
「えっと、これはなんだろね……? 最後のはシノビって……もしや昔ネタで受けた「忍者検定」がスキルとして発動されてる⁉︎ 初級なのに!」
「なんだよそれ」
「我が国には古より忍者がいましてね。人知れず任務を遂行する隠密集団」
質問に答えれば、その顔には恐怖の色が現れたのを見て慌てて手を振り否定する。
「あ、いや、それに所属してたわけじゃ……、そのネタの一環で……」
「手の内増やすため……だから足音も、気配せるのか……」
そう呟いてじっとこちらを見つめる目に、いたたまれなくなって目を逸らしちゃったのはしょうがないよね。