お給金。それは労働の対価!
「え!?あれかな?ぶつかりおじさんってやつ?」
狭いほどではない道でぶつかられる理由が分からず、いやその前に俺はか弱そうな女子でもないし、なんなら相手は小学生くらいの子供だったようだったと視線で追えば、当たってきたフードを被ったその子は突然走り出した。
「あっ!!」
その逃げる様子を見て、俺はやっとその目的に気付いて慌ててポケットを探れば、俺のはじめてのお給料がなくなっていることに気が付いた。
「あぁっ!!!」
我ながら情けない声を上げたと、しかしそんなこと言ってる場合じゃないと慌てて視線を子供に戻せば、その姿は何処かに消えていたが、当てずっぽうでも構わないと、箒を放棄して走り出した。あっ、ちなみにホウキをかけたの気付いてくれました?!
*
「バカな奴」
「誰が馬鹿だよ」
「……ッ!!!」
暫く探した後に、森の中で見つけたその子は勝ち誇ったように周りを見渡して呟いたその言葉についつい言い返せば、驚くように改めて周りを見渡してから俺を見つけたのか、その目は見開かれたようだった。
「返して。俺の初めてのお給料。今なら怒らないから」
「いっ、いやだっ!!」
「そりゃそうだろうけどさ〜。だからといってハイどーぞって訳には俺もいかないのよ」
「てゆーかお前、どこから湧いた!?」
「言い方酷いッ!」
まるで虫みたいな言い方されて傷ついたとオーバーにリアクションするが反応は薄い。
しかしそれはそれとしても、お金を取り戻したいとはいえ、子供相手に力ずくってのも良心が痛むし、とはいえせっかくマリーさんのご好意を『取られましたすみません』って訳にもいかないってゆーか俺も自由なお金も身分証も欲しい!返して労働の対価!!
「……ええっと、何に使うつもりなの?理由によっては少し……一部とか、ちょっぴりとかくらいなら……」
偽善だと思うが、聞けばその子は少し下を向くと、辛そうに呟いた。
「何日も……弟たちが飯、食えてないんだ」
「テンプレ!!」
「だからこれで腹一杯食わせてやりたい!」
「でも俺の金!!」
「嘘だよバカ!!」
「酷い!!」
一瞬同情のあまりに浮かんだ涙は一瞬で引っ込み、そして俺に背を向けてまた逃げ出そうとする子供の前に何かが現れた。
「危ない!!!」
俺が声を上げた時はもう遅くて、その子供はソレにぶつかり、「ヒッ」と小さな悲鳴を上げた。
そして俺も駆け寄ろうと踏み出した足が一瞬止まってしまったのも仕方ない気がする。
「ゴブリン……?」
思わず呼んだ名前はゲームでしか見たことのない、緑色の肌をしたその姿。
背丈は小学生なら低学年。フードの子供とさほど変わらない身長とはいえ、明らかにその耳は尖っていて、腰を抜かした子供を見下ろすと、ニヤリと笑う口からはギザギザの歯とヨダレが見えていて、その手には殺傷能力高めな棍棒。
「え?食べちゃう感じ?」
思わず説明を求めてみるが、もちろん答えをくれる人などいなくて、困惑してる間にその棍棒は振り上げられた。