僕の可愛さと尊さと大事さはどのくらいか考えてたらいいよ
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「ねぇねぇハジメ!! 火の魔法とかでバーーーっと暖かく出来ない?」
「無茶言うなよ〜。てゆーか火の魔法なんて俺使えないし」
「僕もだけどさぁ〜」
足取りがバレては困ると早めに町から離れようと出たのは今朝の話。
そして相変わらず背中にキヨラを乗せた森の中。足元はザクザク雪の中。そろそろ空は宵の中。
「それにしたって、寒いよね。日も暮れてきたしさぁ」
「そうだな。あと……」
「あと?」
俺は不思議そうなキヨラにジトッとした視線を向け、
「丸々してて背負いにくい」
「え! もしかして太った!?」
「いや! 寒いからって着すぎだろ!」
「だって寒いんだからしょうがないじゃん!」
先日俺が防寒にと買った上着すらインナーと呼べそうになるほどに、重ね着に重ね着を重ねた重ね着マイスターキヨラ。
森の中を歩くにせよ、今までなら弱いモンスターならばなんとかキヨラを背負ったままでも、空気を掴む手でなんとかしてきたが、片手なんぞ離せなくなるほどに丸々としてる。
「あっ、そうだ。キヨラも四次元バッグに入ったらどうだろ!?」
いいアイデアだとキヨラを降ろし、そそくさとバッグを開けて笑顔で言えばドン引きされた顔をされている。
「やだよ」
「なんでだ?」
「その中どうなってんのかわかんないじゃん」
「たしかに……」
「酸素は? 食べ物とかも入れたら傷まないんだよ? 真空になってるとかだったら即死だよ」
「た……たしかに」
謎の四次元バッグの中の理屈がわからないと、改めてその中に手を入れてみるが、冷たくも暑くもなく、試しに塊肉を一つ取り出してみる。
「たしかに傷んでないよな。そういや中ってホントどうなってんだろ」
「ちょっ……!?」
キヨラの声が聞こえる前に俺は頭をバッグへと突っ込み、そこから出したとき……俺の頭はなかった。
「ぎゃーーー!!!?」
「なーんちゃって」
そう言って顔を服の中から出せば、キヨラの青い顔が目に入る。
バッグに顔を入れたと同時に襟元を持ち、顔を出すときに頭を服の中へと隠しただけのシンプルなマジック。
「びっくりした?……て、し過ぎたよな」
「馬鹿なの!?」
「ごめんなさい」
冗談が過ぎたと素直に謝るのはキヨラが腰を抜かしたかのように座り、そしてボロボロと涙をこぼしてたから。
「馬鹿なの!?」
「はい。すみません」
繰り返される言葉にただ詫びの言葉を繰り返し、休憩しようと中から食料を出し、薪も出して並べて、火の魔石で落ち着くためにもひとまず暖を取ることにする。
正直朝から歩き詰めだったしと、少し早いけど野営の準備と小さなテントも出して水を入れた鍋を火にかけて、丸太に座ればその足の間にキヨラが座る。
「近すぎませんか?」
「寒すぎるじゃん」
「それはそう」
見上げてくる美少年に言われては、なんかもういいかと、その背中からその腰に手を回す。
「でもキヨラさん。これだと俺に火が当たらないんだわ」
「ふっふっふ。僕のレベルアップした魔法をお見せしてあげよう!」
そう言ってキヨラは両手を前に出すと、そのまま手を上げて、「シールド!」と言えば、ドーム状の防護壁が周りを囲う。
「お!これなら背後からの攻撃も大丈夫だな!」
「しかも熱は逃げない、テント使用さっ!!」
「キヨラ様!!」
どやぁと鼻高々にコチラを見ると、またその背でよしかかってくる。
「重いけど」
「僕に重いはNGです」
シールドの中はあったかいくなってゆくのに、離れる様子がないきよらまた少し眠いのかその瞳は閉じそうに見える。
「寝ろよ」
「うん」
そんな2人だけの空間はこの世界にはまるで俺たち2人だけのようだと思えて、その力の抜けてゆく身体を支えれば無意識に笑みが浮かぶが、そんな時に浮かぶのは前の世界の家族や……アオの顔。
……出会った時、アオは家族がいないと言ったが、あれは本当だったのだろうか?
キヨラに言われたように、あのモノクルの長髪美形は魔族なのか? それにアオの関係は?
彼らが家族ではないにしろ、アオがついて行ったのはきっと知らない仲ではなかったから。
それでもアオが無事だと確認したいだけで、あんなウェントロスのような危険なヤツとも会うかもしれないのに、キヨラを連れてこうして旅してるのはどうなのだろう。
キヨラがこの国で聖女がいやだと言うなら、他国に保護してもらう手は?
それにこのまま逃げ回って、俺たちが自分達の世界へ帰る手立ては見つかるのか?
そんな疑問のままに見上げた空は厚い雲が覆った空には星も月もなく、ただ視線を戻して揺れる焚き火を見つめていれば、思う事は止めどなく消えることなく次から次へと浮かんでゆく、
考えたところでどうとなるわけではない。
知りたいのはアオの無事。でもそれはただのお節介かもしれない。
あの小さな手と、記憶を無くしていた不安げな赤い瞳。
……俺は正直知らない街でマリーさんの好意に頼り、ただこの先どうしていけばいいのかわからない不安と、それでも歩み出せないこの世界で、あの繋いだ手は勇気をくれた。
─── 手を繋いで、引いて貰ったのは俺のほうなんだ ───
─── 元気か? あの時はありがとう ───
チープな台詞はきっと眉を寄せられそうだと視線を落とせば、胸の中には安心しきったように眠るキヨラ。
『って!!閉めさせません!!!』
『袖擦り合うも多生の縁とか言うけど、別世界で触れ合うは後生の縁です!!一緒に逃避こ……いえ、冒険者しませんか!?』
アオとは違いぐいぐいと俺の世界へと入ってきたキヨラを思い出し、笑みが漏れてそのお包みレベルに服に包まれたキヨラの頬を触る。
「……何?」
「ごめん、起こしたか?」
「寝るよ」
「うん」
「ハジメも…今のうちに寝なよ……」
目も開けられことなく交わされた短いやり取りに頷きが返されて、そしてまた無防備に眠ろうとするキヨラの額にキスを落とす。
「おやすみっ」
「照れるならしなきゃいいのに」
「ごめんなさいね! ……したかったんだよっ」
ジトっと開かれた瞳に照れ臭さを隠せず返せば、フワリと聖女の笑みを浮かべて「許してあげる」と、また瞳を閉じた。
「勝てないな」
「当たり前デショ。僕の可愛さに勝てるものなんていないからね」
「ソーデスネ」
棒読みに返せば、ふふんと自信満々に息を吐くと、また大あくびをしてキヨラは俺の頬に手を伸ばしキスをして、
「ハジメは悩んでも仕方ないから。僕の可愛さと尊さと大事さはどのくらいか考えてたらいいよ」
「ふはっ、なんだよそれ」
思わず笑ってしまえば、キヨラは目を細めて「うん」と満足気に言うとまた俺の腕の中で目を閉じると、また少しすれば聞こえてくる寝息。
「ホント、そうだな」
俺もそう呟いて、キヨラを抱きしめたまま……眠った。





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