いいよ。僕、ハジメになら……
顔見知りに久々に挨拶して、夜も酒屋で手伝おうとしたところ、マリーさんに「休みな」と背中を押されて、キヨラと2人部屋へと入ると、下の階からは酒屋で盛り上がる声が聞こえてくる。
「いや〜、今日は色々あって疲れたな!でもマリーさんも気にせず働かせてくれたら良かったのなぁ。俺だって、ホラ、店なら少しは役に立つし? それにキヨラは可愛いんだからお客さん呼ぶだろうけど……、いや冒険者のおっさんら相手にするにはちょいと怖いよなぁ〜!!」
部屋に入るなり、机に置いた四次元バッグをゴソゴソと漁り笑って言えば、キヨラはバッグから出した俺の手を握る。
「ハジメ……ハジメの選択は間違えてないよ」
その言葉に優しさに動きが止まる。……いや、止まってはいないのだと、改めて強く握られたキヨラの手の下の俺の手が震えていることに気がつく。
「あの死は……あの竜が望んだことなんでしょ?」
その言葉に目を見開いて震えた声で呟いた。
「……そうだ。俺、兄貴の名前すら聞いてないんだ」
「うん。それは僕もだ。竜なんて初めて見たし、彼らに名前があるだなんて考えもしなかった」
「兄貴は、名前で呼んでくれたのに……言付けも頼まれたのに、名前も知らないで、ころ……殺した!!!」
言葉の最後はキヨラに抱きしめられて、それでも嘆きの言葉は止まらない。
「俺が!あの時声掛けなければッ!! 俺が!! 強ければッ!! 俺がッ!! …………俺が……殺し…た……」
「違うよハジメ。竜はハジメに助けられたんだ。僕みたいに」
華奢な肩に額を擦り付けるように頭を振れば、キヨラは優しい声で言葉を紡ぐ。
「ハジメはなんて言われたの?」
「……殺してくれって」
「うん」
「でも……!でも俺は……!!」
俺が掠れそうな声で告げればキヨラは強く抱きしめ、
「僕もわかる気がする。アイツの称号にあった『聖女殺し』。……僕も殺されればアイツのただの一つの飾りになってたんだ」
思わずキヨラを見つめれば、「情けない顔だな」って笑われる。
「それでも俺は嫌だよ……」
「うん。僕も嫌だ。もしアイツみたいなやつに殺されるぐらいなら、ハジメに殺されたい」
「嫌だッ!!」
「僕だって殺されるの嫌だよ。……でも、もしそうなったらハジメは覚えてくれるだろ?その胸の傷になって、僕のこと、きっと一生忘れない」
優しい笑みになんて返せばいいのか分からなくて情けない顔をしていれば、キヨラはチュッと唇をつけてくれる。
「だったら僕もハジメの中で生きたい。君の傷になったって、僕の死を喜んでただの称号にされるより、君の傷になりたい」
そう言ってもう一度キスをしてくれると、その細い肩を抱く。
「いいよ。僕、ハジメになら……」
優しい声にそのまま唇を重ね、俺たちはベッドの上に2人、重なった。
***
チュンチュンと窓の外から鳥が鳴き、朝を告げる。
(あ……あぶねぇぇぇぇぇぇぇっっ!!)
キヨラを胸に抱きしめ目覚めた朝。
念の為毛布を捲ってみれば、ちゃんとお互い服着てました!!!よくやった俺の理性!!!
「危なく無いよ意気地無し」
「おはようございますキヨラさんッッッ!!俺、口に出してました!?」
「口にも出してないよ」
その意味がわからずにいれば、「もういいよバカ」とベッドから蹴り出されたので、装備を整えて扉に手を掛け……、
「……いや、あのさ、……感情とか勢いに任せてしたら後悔するだろ?」
「え?」
「いや、ホラ、うん。そーゆーのは夜景の綺麗なさ!!あんのかなこの世界にも!?」
そう言いながらめちゃくちゃ恥ずかしくなって扉を出ていけば、部屋の中では、
「馬鹿。DT過ぎない?」
そう言って呆れた顔をしてドアを見つめた後に頬を赤らめてたことは、それ以上に恥ずかしさのあまりに走り去る俺に見えるわけなかった。