アレを同じモノだと思うな
「やぁっと降りてきたか羽虫めがぁ!!」
『楽しいか。余や人の子を、暇潰しにいたぶるのは』
牛人の楽しそうな声に、兄貴はそっと俺を気遣いながらその背から降ろしてくれると先程までの優しそうな声とは違い、唸るような声で返した。
「あぁそうだなぁ。さして楽しくも無いが、少しは暇潰しにはなる」
俺を守るように前に立つ兄貴の言葉に、大したこともないとばかりに答える牛人に戦慄を覚える。
『魔族が称号など集めて何となる』
「だからそれこそ暇潰しだろぉがぁ!!」
そう言った牛人の背後に突然羅列するのは称号らしき文字。
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【トニトロス】
人殺し ファースト
人殺し 10
人殺し 100
人殺し 1000
人殺し 10000
人殺し 30000
人殺し 50000
エルフ殺し ファースト
エルフ殺し 5
エルフ殺し 10
ドワーフ殺し ファースト
ドワーフ殺し 100
ドワーフ殺し 500
同族殺し ファースト
同族殺し 10
同族殺し 100
同族殺し 500
同族殺し 1000
同族殺し 5000
同族殺し 10000
四天王殺し 1
聖女殺し 1
・
・
・
・
ーーーーーーーーーーーー
それは最後まで見たくもない文字の羅列。
……こんな殺戮の証をただの称号だと出せる牛人を……、それこそが人の見た目に近いからとて、人では無いのだと背中に汗がつたる。
「人なんぞはいくら殺しても湧いて出るが、この数以降に称号が付いてこねぇし、エルフやドワーフは見つかりにきぃ!!同族をやれば周りが煩い!!そんな時に珍しく竜が聖域から出たってんなら殺るしかねぇだろ!!」
そう言って、またも弄ぶように風の魔力で兄貴の身を削る。
「そんな称号なんかの為に……これだけの数の命を……?」
『アレを同じモノだと思うな』
兄貴の厳しい声に頷いて、守られてばかりの自分が情けなくなってくる。
『ハジメよ。これからも変わらず真っ直ぐに恥じなく生きよ。お前の言った「種が落ちた場所で咲く」はいい考えだと思った。こんな知らぬ世界に落ちたにも関わらずそれを言えるお前は素晴らしい』
「兄貴……」
『何よりそう呼んでくれるのも嬉しかったさ』
「なぁにをゴチャゴチャと言ってやがる!!」
牛人はそう叫ぶと、そのこちらに向けた両手とその周りに風の刃が浮かぶ。
『ハジメ!!!躊躇わずにやれぇ!!!』
「その隠れた弱ぇ人間が相手をするってぇのか!?」
馬鹿にするような笑いと共に繰り出される刃が次々に兄貴を傷つけて行く中、俺は兄貴の後ろから手を伸ばし……。
『気にするなハジメ……』
優しくそう言うと、その風の刃を受け切り俺を守ると……消えていった。
「ハハァ!!殺ったかぁ!!竜っていっても大したもんじゃねぇなぁーー!!」
涙に濡れる俺なんか見えていないように、牛人の……いや、称号を見せてきた時のヤツの名は……、
「トニトロス……」
「あ?竜殺しの称号がつかねぇな?」
俺に名前を呼ばれたことにすら気付かないで目の前に出した称号を確認するトニトロス。
俺は兄貴が身命を賭して落としてくれたアイテムを拾い上げて、片腕にはやはり涙を零すキヨラが捕まった状態でいれば、トニトロスは何かに気がついたようにこちらを勢いよく見た。
「テメェが……殺りやがったのか」
「……」
「テメェがぁ竜を殺しやがったのかぁぁぁぁ!!!」
それに答える義理はないと、信じられないスピードでこちらへと駆け寄るその前にキヨラが壁を張る。
「それにやはり一人隠してやがったのかぁ!!その力、その髪ぃ……やはり聖女か!!? 仕方ねぇ聖女殺し2人目で妥協してやんよぉぉ!!」
そう言って壁を破り、こちらに近付いてくるのを待つことなく、俺は落とされたアイテム『竜の翼』を使うと、一瞬で俺の背に翼が生えるとそのままキヨラを抱いて何処かへと飛んでいった。
***
「って、ここかぁ」
ただその町の前で茫然と2人で立ち尽くしていれば、キヨラはカツラを出して慌てて被れば、町の中の人が俺たちに気がつく。
「ハジメ!!お前ハジメじゃねぇか!!久々だなぁ!!元気してたか!?」
「……うん」
そこは俺の始まりの町。
マリーさんの宿屋がある場所だった。





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