ななな何を言っとりますか!!?
「それで、見逃してもらったってわけ?」
「う〜ん。よくわかんないんだよねぇ〜」
まずはシャワーを浴びてきた俺を明らかに不機嫌にベッドの上で胡座をかいて、こちらをジトっとした目で見つめるキヨラに向かいの椅子に座り苦笑いを返す。
「そりゃハジメなんて見逃してもメリットないもんね」
「そうだよねぇ〜、キヨラくらい美少……ゴニョゴニョならともかくね」
「美少年でも美少女でもどっちでもいいからハッキリ言ってくれる!?なんか腹立つから!!」
投げられた枕は甘んじて顔面で受けて、それをそのまま胸に抱く。
「とにかくわかんないんだよね。隠れてたの絶対見つかったと思うのに」
「……ハジメ、かくれんぼしよ」
「繋がりが古典的!!俺鬼な!」
「絶対今の流れ違うよね!!」
怒りの含んだ声と下の階からクレームきそうな足音を出してキヨラが廊下に出ると、「10数えたら入るからね!」と半端強制的に始まったかくれんぼだがそう言われても……、
「この宿屋の小さな部屋でどうしろと……」
苦笑いを浮かべて、とりあえずベッドに横になり布団をかければ、数を数え終わったらしいキヨラの気配がすると、「ふんっ」と腹にパンチが入る。
「ひどくない!!?」
「ひどくない!! もっと真剣にやって!!」
そう言って顔を出した俺を指差すと、また部屋から出ていくのをお腹を抑えてどうしたもんかと、部屋を見渡し、今度はクローゼットの中へと入れば、また数え終えたらしいキヨラの足音。
「真剣にやってなくて次に見つけたら怪我してももう癒さないからね!ハジメ!本気でやってよ!」
その怒りの含まれた声の数秒後に開いた扉の音。俺は回復してもらえないのは困ると思いながら、室内でベッドのシーツを捲る音、それにその下でも覗いてる気配、それからシャワー室……そこまでくれば後はここしか無いと、ジッとその時を待てば、クローゼットの扉が開き光が入ってくる。
「…………」
「…………」
見つかっていたとて声を出せば真剣味が足りないと怒られそうで息を殺す。
それでもジッとこちらを見つめる目はなんだか不思議に不安そうに見えて、そっとその頬に手を伸ばせばキヨラはその身をビクリと震えた。
「どうした?」
「どうしたじゃないよ!!どこから湧いたの!?」
「言い方ぁ!」
しかしその言われ方に覚えがあると記憶を手繰れば、
「あ……それ、アオにも同じこと言われたことある」
「アオ?」
キヨラは何故か不機嫌そうに眉間に寄る眉を気にせずに、俺は思い出そうと天井に視線を向ける。
「ねぇ、ハジメのそれってもしかして、シノビ?」
「……かもしれないねぇ」
手のひらをジッと見つめてそのまま集中すれば、今度はキヨラから手を伸ばされて抱きしめられた。
「どした?」
「消えてくから……」
「マジか」
忍びだ忍者だと言われても、現代科学で出来た出来ないと解明された忍法は、異世界では科学を飛び抜けて出来ちゃうらしいと驚くが、そんなことよりもキヨラの身体が小さく震えてることに気がつく。
「大丈夫。俺はここにいるよ」
「目の前で異世界に飛ばされた人がよく言うよ」
「それはそう」
キヨラの不安の理由がわかったと、クローゼットの中で暫く不安げに震えるその背中を撫でつつけていれば、キヨラが勢いよく体を上げるとこちらを見つめて、
「ハジメが僕の前からいなくなるのは許せない!」
「だから大丈夫だってば……って!何してる!!?」
俺が慌てるのも無理はなく、キヨラはいきなりその胸のボタンを外しはじめ、
「ハジメが僕に夢中になれば僕から離れないでしょ?」
「は、離れないから!?そんなことしなくてダイジョブだから!」
慌ててその前のボタンを押さえて止めて。
「ハジメが大丈夫でも僕が不安なの!」
「そ、そんなことして可愛いキヨラを俺が傷付けるのが怖いよ!?」
慌てて何言ってるかわからない自分の言葉だが、キヨラはその大きな目を一度パチクリとさせると、
「なら僕がハジメを抱いてもいいけど」
「ななな何を言っとりますか!!?」
そう言うキヨラを慌てて抱き上げてベッドまで運び、可愛い顔して妖艶に笑うその頬に伸ばされた手ごと、シーツでぐるぐる巻きにしてその背中から抱きしめて、
「俺もいるしキヨラもここにいる!それだけで大丈夫なんだよ!!キヨラは俺が守るし!ねっ!!」
「こんなに僕可愛いのに?」
「可愛い!ね!超可愛い!!でもそんな理由で一緒にいるわけじゃないし!?」
とはいえなんで一緒にいるんだっけ?そうだやっぱり追われてるキヨラを守んなきゃいけないんだったとか、だったらやっぱり俺は大人だし守る方で、あとアオも探さなきゃいけないのに、そんなこんなであんなこんななコトを美少女美少年としてる場合じゃないと、自分を戒めてるのか混乱してるのか、とりあえずキヨラを寝かさないといけないとその背中を抱きながら、ポンポンとその身を軽く叩いてる間に、やはり今日は色々な事があったと、疲れからいつの間にか寝てしまった。
「……結局アオかよ」
……アホみたいに寝てしまった俺の顔を、キヨラが不満げに見つめているのも知らずに。