追わないでぇぇぇ〜〜!
「どぉもぉ〜、おはざーす」
ヘラっと笑って挨拶すれば、その人とその後ろの2人はニヤリとした笑いを浮かべると、その腰にあるナイフに手をやると、
「変な挨拶だなぁ。まぁいいか、そんでサヨウナラ」
明らかに賊だという風体の男は躊躇うことなくそれをこちらに向けて振りかぶる。
「うおぉっ!」
俺は慌てて身体を横にそらして間一髪に避けて、躊躇いなく背を向けて走り出した。
「てめえら追え!!!!」
「追わないでぇぇぇ〜〜!」
必死に駆け出してみれば、思いの外に賊との距離が取れてることに気がつく。
「あれ?!俺足早くなってる!?」
とはいえそんな油断はいけないと、木々の合間を曲がったところで、ヤケになったのか投げられたナイフが飛んできたらしく足をかすめた。
「くぅ……こんな距離あんのに上手じゃんか!」
痛みにもつれた足でこれ以上の距離は取れないと、彼らの死角になったと思ったところでその横の木の影へと飛び込んだ。
「アイツ……どこいった!!?」
「ナイフは当たった!! この辺のどこかに隠れてるはずだ!!探せ!!」
「おうっ!!!」
その予想通りだと木と草の影で隠れているが、雨のおかげで少し落ちた血も水溜りに消えてくれたと、木に背を当て息切れの音が聞こえないように口元を抑えてやり過ごそうとした時、葉の隙間から賊の足元が見える。
「……ッ!」
必要以上に荒くなりそうな息を止め、木々と同化するつもりで息をゆっくりと整えた時、目の前の葉を足で踏むようにどけられて、見開く瞳で先程のリーダー格の男と目が合って……、あぁこれまでかとむしろ呆気なさすぎて笑えると頬の筋肉を緩めた時、賊は左右に視線を向けると盛大に舌打ちをして、
「こっちにはいねぇぞ!!クソッ、どこに逃げやがった!!」
『えっ……』と呟きそうになる声を堪えて、見逃してもらえたには少し違う気がすると、遠のく足音を聞いて、それから更に様子を見てから町へと歩き出した。
***
「馬鹿!!何してるの!?」
「怖いのはモンスターだけじゃなかった〜」
宿屋までなんとか帰ってくれば、慌ててキヨラが外へと迎えに出てくると怒りながら俺の頬に手を当てて「ヒール」と癒しの魔法をかけてくれる。
「ありがとな〜」
「馬鹿ッ!」
繰り返される罵倒も、涙目のその顔には心配したと書いてあると嬉しくて笑みを浮かべれば、やっぱり「馬鹿」と繰り返された。