甘えん坊な子猫ちゃんだゼ!
「雨だ」
俺がそう呟いたのはアオといた頃と変わらない薬草探しの最中。
ただ今回はギルドからの依頼ではなく、俺たちが使うため。
「ホント、傘もマトモなのがない異世界での雨はイヤだね……って何その顔」
キヨラは空を見上げるとカツラが濡れるのがいやなのか四次元バッグに仕舞うと、中から出した雨用のフード付きの服をこちらに投げてくるのを受け取る。そして俺はまた座り込んで地面の草を抜く。
「……キヨラはいいよなぁ〜。これその目には薬草とか表記されてるんだろ?」
それはキヨラから聞いた話。レベル10にアップしてからはまるでゲームのように手に取った草の名前が彼には見えるらしい。
「そうだね。あっ、それ毒消草だからそっちに入れて」
「はい……。いやさぁ〜、だって俺には見えないし、しかもキヨラのお薬評判いいじゃん?」
「そうだね。ちなみにポーションな。普通に作ってるだけじゃなく、バレない程度に癒しの力も少し入れてるからね」
「いいなぁぁぁぁ〜〜〜」
語尾はため息混じりの嘆きになったのも仕方ない。キヨラはメキメキとレベルを上げて今はもうレベル13。
それに引き換え俺は相変わらず表記無しなのは、もしかしたら村人Aなのかもしれないとイジイジと地面に木の棒で文字を書く。
「グチグチとうるさいなぁ〜!アンタがエッグい技でモンスター倒してくれるから僕のレベルがあがってるんでしょ!? この僕を成長させてるんだからもっと胸張っていいと思うよ」
「それは……キヨラにとってはそうかもだけどさぁ〜」
それでも村人Aからしたら特別な力は羨ましいと、手に取っても見た目で薬草を見分けられる程度になった自力の選別眼を使って見極めると、それをいつの間にか木陰に隠れて雨を凌いでいたキヨラへと渡す。
「そろそろ薬草も必要な分は取れたし、そろそろ行こうか」
「そうだな。雨も小雨で済んで良かっ……!!」
そういうとキヨラは俺を引っ張り胸の中へとすっぽりと入る。
「キッ、キヨラさん!?」
「シッ!黙って!」
なんのことかと視線をそっと周りに向ければ、なんとなく聖職者っぽい人達と、雇われた冒険者みたいなやつらがこっちに向かってくるのが目に入った。
「ゴホン……っ、そこの冒険者。ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「み、見てわかんねぇのか!?とっ取り込み中だ!」
雨具の中でバッグからカツラをだして被りながら出されるキヨラからの指示通り、棒読みながらにそのまま言えば、聖職者というだけあってあまりこーゆー光景になれていないのか、しどろもどろになっている。その背後でニヤニヤしてる冒険者の下世話な顔やめて!俺が聖職者張りに慣れてないんだ!
あっさりと踵でも返すかと思えば、聖職者はまたゴホンと一度咳をすると、少し真面目な顔をして俺の腕の中を指し示す。
「そこの女性の顔を少し……」
「ね〜ぇ♡ またお店にきてよぉ〜♡いいでしょぉ〜冒険者サマぁ〜♡」
カツラを被ったキヨラはそう言って俺の首に手を回し、もう片手は俺の太ももをもてあそぶように撫でてくる。
「あ、ぁ。甘えん坊な子猫ちゃんだゼ!その時はタップリ甘やかしてやんヨ!」
「……ンふっ」
俺のアドリブに明らかに吹き出すのを堪えたキヨラだが、それも潜もった音となってなんかセクシーに聞こえてしまったのは俺だけではないようだった。
「失礼した!!」
そう言って去ってゆく聖職者は去り際に「あんな女性が聖女様なわけがない!」と、聞こえてキヨラの行動の理由をやっと察する。
「行ったよ……」
「馬鹿、まだ離れるな!」
照れ臭くて離れようとした俺に、キヨラの声と共にまた引かれながら、冒険者達はまた興味深げにこちらを見ているのだと視界に入れた時、唇に柔らかいものが当たる。
「オイ暴れるなよっ!僕のウィッグがズレたら終わりだ」
少し唇を離されて告げられたその言葉に、慌ててその簡易的につけた頭を抑えれば、キヨラは驚いたような視線を向ける。
「あ、いや、ホラッ、取れたら困るし」
互いの息のかかり合う距離の会話に慌てれば、キヨラは更に少し背伸びをして、また唇を重ねた。
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