何? 僕のこと養ってくれるの?
町中だし大丈夫かと俺はそれから部屋を片付け、気がつけばキヨラが暫く経っても帰ってこないと心配になって見に行こうとした時、ドアが目の前で大きくひらいた。
「何やってんの?」
「ドアが開いたってかドアがぶつかってきたよね」
「普通そんな場所にいると思わなくない?」
「そうですよね……!」
そんな勢いよく開けると思わなくない?とかキヨラに返すのは愚の骨頂だと素直に白旗を上げれば、キヨラは「はいっ」と俺の手にメダルを渡してくれた。
「え、何これ」
「金貨」
「金貨!!?」
マリーさんのお店でも見たことない大きな金貨は『大金貨』らしく、金貨の10倍の価値だという。
「ど、どこで盗んだの!?それとも……」
パパ活!?とか繋げたら怒られそうだと、それでもこの美少女にしか見えない美少年とはいえ、お酌だけでこんな大金もらえなさそうだし、てぇへんだてぇへんだと脳内で岡っ引きが騒ぎ出せば、相変わらず呆れた顔で俺の手から金貨を取ると親指で弾いてパシリと手に取った。
「何想像してんのか知らないけど、アンタがここまで倒した魔物のドロップアイテム売ってきただけだから。なかなかレアモノがあったから高く売れたよ。だからこれは半分はアンタの」
「えぇ!マジでか!」
普段背中にいたのに、魔物倒した時だけ拾いに行って、コツコツと貯めてるな〜とは思ってたけど、価値も分かってなかった俺に半分もくれるなんて優しすぎると目を輝かせれば呆れたように「もしかして僕が独り占めすると思ってた?」と聞かれて思わずブンブンと頭を勢いよく振れば怪しいと見られたけど笑顔で誤魔化すことにした。
「え、じゃぁもしかしてこんなにあるなら今日から宿も2部屋取れるんじゃないの!?」
「それだとすぐ使い終わっちゃうでしょ。節約は大事」
「あ、そっか」
アオは小さな身体だったし、お金もなかったから一部屋にシングルで寝ていた癖で、キヨラと最初旅することになった時に同じ部屋を取って警戒された初期を思い出す。
「いやでもさ、キヨラも俺みたいなデカいやつとじゃ寝にくいでしょ?せめてベッドは2つあった方がよくない?」
「僕は逃げた聖女だよ。追手が来て別のベッドじゃハジメがぐーすか寝てて気付かないうちに誘拐されたらどうするの?」
「えっとむしろ聖女様が逃げ出したのが問題なのでは?」
「は?」
明らかな圧を感じて一歩下がれば、一歩近づかれて胸に人差し指を当てられた。
「アンタさ、自分が間違えて呼ばれたのにさっさと捨てられたあの場所がいい場所だと思うわけ?」
「思わないです!」
「そんな場所で今度は王妃にしようとしてた聖女が今更男でしたとかなったらどうなると思う⁉︎」
そう言われて遠慮なく切り掛かってきたあの王子を思い出す。
「それは……やばいよな」
「でしょ?せめて聖女の力を手に入れるとかで手籠にされて幽閉でもされても困るし」
「手籠……!」
そんなこと考えていなかったと言葉に詰まれば、キヨラはそんなことも気付かなかったのとでも言うような目でこちらを見る。
「だからあそこに戻るメリットなんて一つもないんだ」
「そうだね!そんなことにならないように、俺っ、これからも頑張るよ!」
「何? 僕のこと養ってくれるの?」
「え? えっと、そうだな? この先俺もこうして生活が不便じゃない程度の稼ぎが出来るなら……あ〜、でも老後まで冒険者って訳にはいかないだろうしな〜……キヨラと俺で何が出来るかな? お店とか?」
「老後……?」
マリーさんのところで働いていたことを懐かしく思いながらそう呟き、それでもこれだけは言っておかなきゃとキヨラの顔を見て、
「でもなにより、まずはアオに会ってから!」
そう言うと驚いたような、なんか少し赤く見えた顔はあっという間に不満気なジト目に変わり、あれっ?と思う時には頬を引っ張られていた。
「い、いたいんれすけろ?」
「アオってやつが大事みたいで!!」
「だ、だいじっていふか……」
そこで頬の手をそっと掴んで外して、最後のアオの顔を思い出す。
「悲しい目でお別れしたし、アオにも俺が無事なこと、知らせたい。会ってそれでアオが「ふ〜ん」で済ませたならそれでいいし、それでも、あのまま別れるなんて嫌だから、顔を合わせて挨拶したい」
キヨラがこの世界に来る前に俺の家族に伝えてくれたとはいえ、やはり家族がその全て信じきれたとも思えない。
……だからこそ、繋がりが出来た人とちゃんとお別れ出来ないのはもう嫌なんだと、無意識にこぶしを握っていた。