広いな……
*
「アオエーン様」
祭壇の様な椅子に座るオレの前に跪くは、風のウェントゥス。
オレはこの間まで記憶すら失い、気が付けば幼い姿で町を歩いていてアイツと出会ったが、このウェントゥスの顔を見た時、少しだけ記憶を取り戻した。
しかしウェントゥスの見覚えのある姿と相違を感じ、ここへ来た時にジャラジャラと魔石を付けているのは護身ではなく趣味だと聞いて、まるで人の子だと告げればまるで違うものだと人から見れば妖艶にも見える笑みを浮かべて告げてきたが、別段興味もないと視線を逸らした。
「赤き主よ。いかがなさいますか?」
「何もせん。それにオレはもう主ではない」
「それでも……わたくし共にとっては主でございます」
「お前たちの勝手な主観だ。オレはもうやらない」
それだけを告げてオレが立ち上がりウェントスの横を過ぎればその顔に悔しさが滲んでいることに気がつく。
「それにこんな小さな身体のオレにどうしろと?」
「それはまた魔力が戻れば何とでもなりましょう」
「ハハッ、どうすれば戻るかも不明なのにか」
嘲笑うように見るが、その姿を見上げた状態がまさにその象徴だと嘲笑えてくる。
「寝る。放っておけ」
「…………畏まりました」
自室だと用意されていた部屋は懐かしく、手入れが行き届いた広い部屋。
今の小さな身でなくとも、両手両足を伸ばしても余るほどの広さのベッド。
「広いな……」
宿賃の節約だとアイツと2人で寝たベッドを思い出す。
小さなオレを潰さないようにだと、背中を壁につけて、ベッドを出来るだけ広く使わせようとしていた馬鹿みたいにお人好しのアイツ。
「広い……」
寝返り手を大きく広げても余る場所は、なんだか無性に苛立ちを覚えて起き上がり、手の平に魔力を灯せば、封じられていたはずの魔力が炎となり、燃え上がる。
「!?」
驚きと共にこぶしを握り消し去れば、我が身の変化に気がついて……。
「どういうことだ?」
まだ理解ができないソレを疑問に持つが、なんだか今は考えるのも面倒だと、改めて横になって眠ることにした。
*
「疲れた〜!」
「疲れてないだろ」
「くそぉ〜っ! ホントに疲れてねぇぇぇ〜!」
今の会話の通り、この聖女様は程々に回復魔法を使い、俺の背中という馬車に乗っていた為に本人は悠々自適に寝たり起きたりを繰り返し、その合間合間に俺を回復させるという万能っぷりをして下さり、なんなら俺絶好調だわ!!着いた早々に宿のベッドに横になってすみませんレベルで絶好調だわ!
「流石聖女様ッス」
「ふふんっ、そうでしょ」
仕方なく座り直して言えば、そのドヤっとばかりの顔は確かに可愛くて、苦笑いしか返せないでいると今度は不満気に顔が歪んだ。
「なんなのさ」
「別に。可愛い顔してんな〜って思ってさ」
「なっ……」
「え?照れてる?照れてるのキヨ……うぐぅ」
絶句して言葉に詰まる様子につい食い付いて顔を近づけたら殴られました。調子乗りましたすみません!
「僕が可愛いのなんて知ってるよ。子役から最近はモデルもしてたしね!」
「え!そうなの!?」
「はぁ!? もしかしてこっちに来て髪色とか違うから?駅前とかに大きなポスターとかで僕のこと見たことない!?」
「いや……俺、漫画のポスターくらいしかまともに見たことないもんで」
「あっきれた。だからこんなダサいジャージいつまでも着てられるんだよ」
モデルさんの本気のため息と共に会心の一撃に胸を抑えていればキヨラは「元は悪く無いのに」とかなんとかボソッと何か呟いたけど、よく聞こえなくて近付けばまた怒った顔をしたのでそれ以上は聞かないと両手をあげて降参のポーズをとった。
「でもさ、これも一応このジャージはブランドの……」
「メーカーでしょ」
「はい」
スポーツブランドと言うからブランドじゃないの?スポーツメーカー?何が違うんだ?とか思ってる間にキヨラは何も言わずに部屋を出ていってしまった。
町中だし大丈夫かと俺はそれから部屋を片付け、気がつけば暫く経っても帰ってこないと心配になって見に行こうとした時、ドアが目の前で大きくひらいた。