人の背中で文句言わないでくれない?
「次の町までまだかよ〜……」
「人の背中で文句言わないでくれない?」
2人で旅に出始めて数日。
『魔物と言えば北だろ!』の、キヨラの一言で北に向かっている。
何故魔物?と聞けば、『アオってやつを連れていったのは空間開けるようなヤツなら人じゃなく魔族。そんで人型ならば上位魔族で違いない』と、自称ゲームのヘビーユーザーだとキヨラの想像。
ステータスやらがあるならそんなもんだろと、その言い方に適当なのかとも思ったが、以外と的を得てる気もして従ってしまった。
ちなみに一度上書き保存してしまった名前は癖付いてしまい、ついつい何度もキヨラと呼んで怒られたが3日目くらいに諦めてくれた。
「それに北の方がギルドとかの依頼も多いみたいだしな。まずは路銀だ路銀」
「なんで俺より後にこの世界に来たのにそんなに詳しいんだよ」
「それは僕が美少女だからね。酒場に行けば情報なんていくらでも」
横からウインクした顔を出してくるキヨラに「それよりそんな場所は危ないから気をつけなよ」と言えば、酒は飲んだ端から浄化で酔わないから大丈夫だと、あまり安心出来ないことを言われてしまう。
「そうじゃなくてさ……」
お尻が落ちて来たと背負い直そうとすれば、少しだけバランスを崩してしまう。
「僕のこと落とさないでよ」
「なら自分で歩こうよ」
「僕が持ってた収納バッグのお陰で手ぶらで旅が出来てるんだから、感謝して背負うといいよ」
「俺の荷物よりとキヨラの方が大きいんだけど」
そう文句は言いながらも確かにキヨラの持っていたバッグはビックリするほど収納出来て、キャンプ用品や買い溜めた食料品も時を止めるのか痛むことなく持ち運べているのには感謝しかない。
それにキヨラの最初に着てた聖女衣装もしまわれていて、彼は今は町で買った女性用の服にズボンを合わせて着ている。
「とにかく僕に感謝して……」
「そういえば、コレどこで手に入れたの?キヨラ持ってた杖も最初着てた服も高そうなやつだったけど。こっちの世界に来てあんまり経ってないみたいな言い方してなかった?」
今更ながらの疑問を聞けば、キヨラは一瞬固まると、「聖女だし?」と微笑んだ。
その顔をジトッとした顔で見つめて「まさか」と聞けば、「いいんだよ。聖女用に用意したって言ってたから」と返されて確信にかわる。
「キヨラ、お前っ、城からパクって来たな!?」
「閉じ込められた部屋にあったんだよ!僕の為に準備したって言ってたし!」
「それ盗んだって言うし!」
「言わないし!」
ギャーギャーと背中に乗ったキヨラと言い合っていれば、少し先の切り株の側に角の生えたウサギが目に入った。
「ハジメ、あれ倒せよ」
「えー……可愛い生き物だし、何より無益な殺生はちょっと」
躊躇いなく言われた言葉に苦笑いを返せば、何言ってるのとキヨラがこちらを覗きこむ。
「無益じゃないだろ?僕のレベルがあがる。僕の糧になれれば万物全てきっと幸せだよ」
「すんごいこと言うじゃん」
そんな会話していれば、ウサギさんはぴょんぴょんと可愛く跳ねてこちらへとやってくる。
「え?人参とか食べるかな?」
「ハジメ、ベタすぎる」
「え?」
なんのこと?と問おうとすれば、目の前で可愛いウサギさんのお口は突然口裂け女よろしくと開いちゃいけないところまで開き、その中からはギザギザの歯が並んでいる!
「ハジメ!!」
「はいっ!!」
名前を呼ばれて我に返り、慌ててウサギに向けて手を伸ばして空気を掴んで握り締めれば、最初は可愛かったウサギさんは、怖くなって……グシャリとエグくなった。
「相変わらずエッグいな」
「俺もそう思う」
そう言ってからキヨラは背中から降りて、ウサギのいた場所に落ちた宝石を拾って来ると、その小さなピンクの宝石を俺の胸ポケットに入れてくれる。
「何コレ?」
「レアドロップ。幸運のアイテムだよ」
「へー」
「お前なんでかレベルも表記されないし、せめて運くらい味方につけとけよ」
そういえば海外ではウサギの足がお守りみたいにされてるところあったなとか思っていれば、キヨラは俺の胸に額を付けて祈りを捧げている。
「これでよし」
「なに?」
「聖女様の祈りで更に幸運アップだろ」
「そんなもん?」
「そんなもんだろ」
ふーんと胸に手を当てて、なんとなく確かに幸運が増した気もすると頬が緩む。
「キヨラありがとう」
そう告げればキヨラの頬はなんとなく赤くなった気もしたが、背の小さいその顔を覗き込む前に後ろに回られ、
「さぁ行け!ハジメ!僕は今日は宿でゆっくり休みたい!」
そういって背中に飛び乗られれば、「ハイハイ」と笑って、俺たちは……いや、俺はまた歩き出した。