めっちゃグイグイくるじゃーん!
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ヨシヤ セイラ
・聖女 レベル 6・
種族 ヒト科
年齢 17
職業 学びビト
スキル 癒し手 防御壁 浮遊
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「わっかりやすく聖女ってかいてあるねぇ〜」
「そうなんですよ。ハジメさんは?」
「俺はそこはバグしか書いてなかったよ。しかし浮遊って、コレすごくない?」
「あのこれ……多分なんですけど、……スカイダイビング経験したからかなって……」
「そのスキルでよく窓から飛び降りたよね!?」
「最初はそれだと知らなかったから、とりあえず浮遊ってあるからいけるかなって……!!」
この美少女ちゃん、顔に似合わずアクティブすぎるってゆーか後先考えてない系っていうかと苦笑いを返せば、美少女ちゃんにしか出来ない技、ほっぺプックリを見せつけてきた。
「ハジメさんも見せてください!」
「うん。まぁ、いいよ」
ここまで聖良ちゃんに見せて貰って見せないとはいかないと、俺も「ステータスオープン」と呟けば、相変わらず目の前に文字の羅列が浮かび上がった。
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サトウ ハジメ
・ハジメ・
種族 ヒト科
年齢 20
職業 学びビト
スキル 空気を掴む手 たがいに打つ シノビ
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「うん。特に変わりはないかな」
「さっきのはこれですか?」
聖良ちゃんが覗き込むようにステータスを指差し言ってくるのは『空気を掴む手』。
「うん。聖良ちゃんがダイビングなら、俺はこれ多分『空手』だと思うんだよね。なんか一回二回と翻訳して戻された感じで、むちゃくちゃになっちゃったみたいな?」
「これでよくスキル使えましたね」
「それこそたまたまなんだよね〜」
助けたいと思って伸ばした手からそんなスキルが現れると思わずに起きた現象だと告げるには少しカッコつけすぎかと指で頬をかけば、聖良ちゃんが首を傾げた。
「どしたの?」
「え?いえ、今この2個目のハジメって名前書かれてるとこがブレた気がして」
「そう?」
2人で暫く覗いても変わる気配は無いと、「気のせいだったかも」の聖良ちゃんは笑顔で自分のステータスを閉じる。
「あと『互いに打つ』はわかんなくって。忍びはそれこそ遊びで取った忍者検定がかっこよく判定されてるんだと思うよ」
「ユルユルですね」
「うん。本当にね」
そこまで言い合って、互いに「は────っ」とクソデッカイ溜息を吐いてから、顔を合わせて大笑いをした。
「えっと、知ってると思うけど、俺、佐藤一。聖良ちゃん身分証拾ってくれて、あと家族にも伝えてくれてありがとう」
「こちらこそ、改めてあの時助けて頂いてありがとうございました」
俺もステータスを閉じながら、2人で笑いあって握手して、お互いのこれまでの健闘を讃えあいながら「それじゃ」と、聖良ちゃんを廊下に出して笑顔で扉を閉めた。
「って!!閉めさせません!!!」
「いやぁーー!何ぃぃぃ!!?」
健闘を讃えあってたのは俺だけらしく、聖良ちゃんは聖女と思えない形相で閉め掛けの扉に手と足を入れて無理矢理こじ開けてくる!
「お疲れ様ッ、これからもお互いに頑張ろうね!じゃ、ないの!?」
「ハジメさんはそれでいいかもですけど、こちらは王家から逃げて来たか弱い戦闘力皆無のレベル弱者なんです!!袖擦り合うも多生の縁とか言うけど、別世界で触れ合うは後生の縁です!!一緒に逃避こ……いえ、冒険者しませんか!?」
「やだこの子!王家から逃げ出したことに巻き込もうとしてる!!?」
「そうです!こんな美少女が困ってるんですよ!!?助けてあげるのが世の常ってものじゃないですか!?」
「めっちゃグイグイくるじゃんーー!」
「それにハジメさん!冒険者するなら1人より2人ですよ!!?」
そう言われては無意識に力が抜けたのか、その扉が聖良ちゃんの力のまま勢い良く開かれる。
予想外だったのか聖良ちゃんは倒れ込むように入り込んできたが、安宿の為か扉の木のささくれに聖良ちゃんの服が引っかかって、その服を留めていたボタンが飛んで、その胸元が開いた。
「わぁ!!」
思わず声を出したのは俺で、こんな美少女のあられもない姿を廊下に出すわけにいかないと、慌ててその手を引いて中へと入れて、背中を向けるが……なんか、一瞬見ちゃいけないものを見た気がして、思わず「え?」っと呟いた。
「あーぁ。バレちゃった」
「え?」
その声に恐る恐る振り向けば、ドサリとまたベッドに座る聖良ちゃんの服の胸の辺りは隠されることなく開いていて……その服の中からおもむろに綿を出される。
「え?セイラ……ちゃん?」
名前を呼ぶ以外に何を言っていいかわからないとしていれば、聖良ちゃんはやっぱり美少女にしか見えない顔で微笑みながらその黒髪を引っ張れば……、カツラが取れて、黒髪だった下からは薄桃色のショートボブが現れる。
「親がつけた名前は聖なるに良いって書いてキヨラ。でも文字のバグのおかげか、普段の服装なのか、ただ単に僕が美少女過ぎたせいか、『セイラ』表記」
「な、なるほど?」
カツラがだったとか突っ込むことも出来ずに、確かに自分の名前も最初『1』に表記されてあたり、仕方ないかと頷いてしまう。
「だからあんなとこで初めてステータスオープンとかして性別なんて出されたらその場で打首とか怖いだろ?」
「うん、そうだね。えっと……君、日本人だったよね?」
「そっ。普段から持ち歩いてたこのカツラはともかく、地毛はこの世界に来たらこんな色になった。聖女仕様かもな。ピンク頭でフラフラしてたら即バレするだろ?」
しかし情報過多過ぎるソレに対応出来ず棒立ちの俺の前には、先程までは160センチくらいの美少女だったのに、今や美少年でしたと告げる子が迫ってくると、俺の手を握る。
動揺が抜けきれないままの俺に、彼女……いや彼は、眉尻を下げて保護欲をくすぐる様に俺の手を握り首を傾げ、
「だから僕のこと守って♡ハジメ兄ぃ♡」
もしや俺の家族まで探してくれたのは、また万が一こうしてこの世界に呼ばれた時の為の保身だったのかとも頭をよぎるが、たしかにこの世界に頼れる相手は互いにいないのだとも思え……、
「……アオ……」
それでも守ってあげなきゃと思ってた子を思い出し呟けば、セイラちゃん改め、キヨラくんの目が睨んでくる。
「……アオ?」
「アオっていうのは、えっと、君より小さくて、生意気だけど、俺にこの世界の薬草とか教えてくれた子で、それで……」
「それで?」
何故だかキヨラくんが嫌そうな顔でこちらを見ていることに気づきもせずに、俺は無意識に身振り手振りをしていた手をゆっくりと下ろすと、視線も一緒に下がっていく。
「それで……いなくなっちゃった」
「は?」
「知らない人に連れていかれて……」
「誘拐かよ!?」
慌てたように言われて、今更その時の状況を思い出せば……気づけば首を振っていた。
「アオは、自分から着いていった」
「なんだ相手知り合いか」
「そうかも……でも……」
そう言いながらも、銀髪くんの後を追ったアオの最後の顔を思い出せば……、
「でも、アオ、嫌そうにも見えたな」
「自分から行ったんだろ?」
「うん。でも……」
悲しそうだったと、思えた。
「アオに会いたいな」
俺の手にはキヨラくんに直して貰ったにも関わらず、残っている小さな傷跡はアオに投げられたナイフを思い出させる。
そんな小さく呟いた声に、キヨラくんは気に食わないとばかりに舌打ちをしてまたベッドへと座った。