あっ、アクティブゥ〜
「あっ、目ぇ覚めた?」
「えっと、ハジメ……さん?」
扉を開ければ目覚めたらしくぼんやりとベッドに座っていた美少女ちゃん。声をかければ、少し驚いたようにこちらを見てから名前を呼んでくれた。
改めて見れば本当に美少女で、その服も聖女らしく白一色。まるでコックさんみたいにボタンの沢山ついてる服だけど、神聖さを感じさせるのはえっと、なんか全体的にシスター的な要素がある服だからかもしれない。よくわかんないけど。
それにしても髪は黒にしたって、瞳は日本人ぽくない綺麗な水色なのはもしかしてハーフなのだろうか?
ちなみに泊まっていた宿にこんな美少女ちゃんを背負ってやってくれば冷やかされたり、アオはどこと聞かれたりと色々あったが、とりあえず美少女ちゃんをベッドで寝かせて、怪我も大してなさそうだし、あらぬ疑いをかけられないよう俺は宿の食堂で飯を食って戻ってきたところでの今の会話だ。
「ご迷惑おかけしました。ハジメさんですよね」
「えっと、なんか名前呼ばれるのも照れるな……。えぇっと、そうだ。君の名前は?」
「セイラです。吉屋聖良。聖書のセイに、良いって書きます」
「こりゃまた聖女っぽい名前で」
「あははっ、言われてみればそうですね」
聖良ちゃんは朗らかに笑うと、こちらを見つめて頭を下げた。
「改めて、あの時はありがとうございました」
「いやいや、結局君がここに連れてこられたなら意味はなかったか」
ベッドサイドにある椅子へと座り、頬を掻きながら苦笑いをすれぼ、聖良ちゃんは首を振った。
「あんな非現実的なことが起きてハジメさんが消えたので、両親には万一の事を伝える時間が出来ました」
「万一って……」
「ハジメさんが消える時どこからか、『聖女』って聞こえた気がしたんです。だからそれが本当なら、狙われたのは私なんだろうなって」
「なるほど……」
彼女の視線は下がり、シーツを握った手は少し震えている。なんと声をかければいいものかと思っていれば、勢いよく一度視線が上がるとベッドの上で正座をすると両手をついて改めて頭を下げる。
「両親もあのまま消えてたら泣いて過ごしたかと思います。でもきっと、私の話を信じきれてなかったかもしれないけど、説明する時間があったからきっと……少しは違うと思います!ありがとうございました!」
年下の彼女に頭を下げられて居た堪れずに、顔を上げるよう言おうとすれば、また勢いよくこちらを見ると、「あとっ!」と続けられた。
「ハジメさん、学生証落としてて!コレ!」
「あっ、まじか!ありがとう!」
出された学生証にホッと息をはけば、聖良ちゃんはそれをこちらに渡してくれると、
「はい!それで、ご実家に伺ってご両親とご兄弟にもお話ししておきました!!」
「え??」
そんな聖良ちゃんの行動力に驚いていれば、こちらに身を乗り出して続きを告げてくる。
「あの、信じてもらえないかとは思ったんです!でも行方不明はホントだし、みんなハジメさんのこと心配してて!でも弟くんとかは『ハジメ兄ぃならなんとかどこでもやってけそう』って言って、そしたら皆さん頷かれてて」
ハジメ兄ぃは確かに弟が俺を呼ぶ言い方で、彼女は俺がこちらに来てからのひと月ほど、こんな学生証一つから、載っていない実家の住所まで探し出し駆け回っていたのだとわかる。
「……そっか。ありがとね」
「いえ、本当にこちらこそありがとうございました」
「それで、君は、ホラ、呼び出したイケメン王子はどうした……の?」
そんなに御礼を言われては照れてしまうと、ひとまず笑顔で聖良ちゃんに話題を振れば、一瞬聖女とは思えない般若のような顔に見えた気がして思わず身じろぎしてしまうが、見間違いかと思うほどに聖良ちゃんはニッコリと笑ってくれる。
「誰ですか?」
「いや、ほら、呼び出されたところに……ザ・プリンスってのがいなかった?」
笑顔なのにその醸し出されるオーラは聖女っぽくなくて、引き攣る笑顔の前で聞けば更にそのオーラが強まった。
「あー……いましたねぇ。勝手に呼び出しといて、聞けばハジメさんを追い出したそうじゃないですか。そんなこと抜かした後に、ステータス見せろって偉そうに言うもんだから意地でも開かずに、泣いて騒いで、一晩様子見してからにしろと言われた部屋から逃げ出してやりました♡」
「おぉう……」
「その辺も感謝です。最初からあんな見知らぬ場所に連れてこられて、わからないまま聖女だなんだと囃し立てられたら、人間勘違いしちゃうじゃないですか」
「え、あ、うん」
「それで見知らぬ異世界の人間なのに、聖女だから自分の嫁にとかいう発想怖くないですか?私、絶ッッッッッッッ対嫌で!!!」
「そ、そっかぁ」
「それで閉じ込められてた部屋でステータス見たら『浮遊』ってあったから、試しに窓から飛び降りたらゆっくり飛べたから抜け出してやりました!!」
「あっ、アクティブゥ〜」
流石聖女ステータス。浮遊とは凄いと思いながらも、その行動力に冷や汗をかいていれば、聖良ちゃんは躊躇わずにその場でステータスを開き出した。
「聖良ちゃん!?ステータスは人に簡単に見せちゃいけないらしいよ!」
「はい。当然です!ハジメさんだから、見せるんですよ?」
慌てて立ち上がって止めれば、聖良ちゃんは上目遣いで少し照れくさそうに何より美少女にそんな事言われては……、
「え〜、でもさ……、まっいっか。見せて貰っていい?俺のも後で見せるね〜」
……必死で普通を取り繕うしか出来ない!!20歳彼女無し!いや高校の時はいた時もあるよ!?大学離れるって分かって即座にお別れ切り出された思い出!
「いや……ホントに聖女じゃん」
ステータスを見ての感想は正に見たままだった。