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ひとりきりの星使い  作者: めもたー
第一章 学園の日常編
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8話 一歩

 周囲の景色を堪能しながら、校舎へと歩みを進めるティアルとリラン。

 その途中、度々生徒からの視線が集まるが、ティアルは出来るだけ気にしないように前を向いて進んでいった。


「あのお嬢。ふと思ったんですが、私たちも校内で制服を買ってそれを着た方が目立たないんじゃないですかね? 周りに合わせるだけでも、幾分はマシになるかと……」


 リランは思い立ったようにティアルへ耳打ちをする。


「いえ、この服は私のアイデンティティなの。これだけは譲れないわ。リランがどうしてもと言うのなら、あなただけでも制服を着るといいわ」


「えっ! それはなんか嫌です! お嬢がそのままなら、私もこのままで!」


 ルミレイア学園では、生徒達を極力縛らないという、他の学園とは正反対な理念を掲げている。

 服装自由というのもその一環だが、仮にも学園という立ち位置にあるため、制服自体は校内で購入出来るが、実際に制服を着る生徒は半々くらいだった。


 このような自由な校風が、多様な才能や背景を持つ生徒達を引き寄せ、結果的に学園を世界でも類を見ない才人の集う場所へと押し上げていた。


「もしかして、お嬢がこの学園を選んだ理由って……」


「私服で通学出来るからよ」


「やっぱり!? ルミナーク最難関の学園に対してなんて余裕綽々な……」


 ここに来て初めて明かされた衝撃の事実に、リランは驚きを隠せない様子だった。

 死に物狂いで勉強漬けの日々を送ったリランからすればその反応は無理もない。


「天才お嬢様はやっぱり格が違いますね……」


 尊敬の眼差しを送るリランだが、その視線を受け流すようにティアルはそっぽを向いた。


「……あなたはそうやって私の事を天才と言うけれど、こう見えてれっきとした努力なのよ?」


「え!?」


 追い討ちをかけるように重なる衝撃の言葉に、リランは開いた口が塞がらなかった。


「私てっきり、生まれ持った才能だとばかり……。私、まだまだお嬢の事全然知れていなかったんですね」


「あまり思い入れのある過去じゃないから気は進まないけれど、いずれ話してあげるわ」


 ティアルは涼しい表情でそう述べるが、その声にはどこか寒気を感じるような響きが混ざっていた。


 そうこうしているうちに、二人はいよいよ校舎の目の前へと辿り着く。

 こうして見ると、遠くから見ていただけでは感じられなかった迫力と威厳がひしひしと伝わってくる。

 陽の光を受けて微かに輝くその姿は、威圧感溢れる見た目とは裏腹に、幻想的な雰囲気すら漂わせていた。


「お嬢、ついに来ましたね。この時が」


「ええ、そうね」


 ティアルとリランはチラッとお互いの顔を見合せ、息を合わせるように校舎の中へと足を踏み入れていった。


 校舎内も沢山の生徒達で溢れており、和気あいあいとした様子で各々(おのおの)縦横無尽に行き交っている。

 校舎内も外見と同じく、白を基調とした壁と床で統一されていた。天井には間隔よく並べられた小さなランプが吊るされ、その柔らかな白い光で廊下の隅々まで明るく照らしている。

 所々に見える大理石の柱や、壁に飾られた貫禄のある肖像画など、どれも格式高い様子がうかがえた。


「確か、一年生のフロアは五階でしたよね。そこに昇降機があるのでこれで行きましょう」


 ティアルは小さく頷くと、先導するリランの後ろをついていった。


 廊下の人混みをかき分けて昇降機の前へ辿り着くと、リランはそっと横のボタンに手をかけた。

 すると、小さく音を立てて鉄の格子が滑らかに開き、その先に狭い空間が現れた。


 昇降機の内部は、金属と石が融合したような独特な雰囲気で、どこか神秘性を感じさせるものがあった。

 中へ足を踏み入れると、それに反応するように床に描かれた魔法陣が青白く光り出す。


「五階、ね」


 ティアルはそう小さく呟くと、腕を伸ばして五階のボタンを押した。

 それから間もなくして、どこからともなく聞こえる風の音がティアルの耳をくすぐり、同時に柔らかい風が二人を優しく包み込んだ。


 風の音が段々と低くなってきた頃、その空間は二人を乗せてふわりと浮かび上がった。

 体を引っ張られるような浮遊感に、リランはほんの少し身を震わせた。


「あわわ……この感覚、いつ乗ってもやっぱり慣れないです」


 そんな落ち着きのないリランとは反対に、静かに立って到着を待つティアル。


「最近の技術はすごいわよね。人を空間ごと上下へ運搬するなんて、普通思いつかないわ」


「風属性の魔法を上手く使った……って、私そんな呑気に話してる場合じゃないです! うぅ、ふわふわする……」


 リランがそう必死に耐える中、昇降機はやがて目的地である五階へと到着する。


 格子が開き目の前に現れたのは、赤地のカーペットが敷かれた広い廊下だった。

 眩しい陽の光が透き通る硝子から射し込み、真っ赤なカーペットをより際立たせるかのように、悠々とその光を落としている。


 立派な壺に植えられた観葉植物、白い壁に並ぶアンティークなランプと肖像画、(ほの)かに漂う上質な香木の香り。感じられるもの全てが、この学園の風格をそのまま表しているようだった。


「まったく。エントランスといいこの廊下といい、どうしてこう変わり映えしないのかしら」


「いや、それはお嬢が屋敷に住み慣れているからそう思うのであって……。他の人からすれば、この景色はものすごい感銘を受けると思いますよ」


「……そういうものなのね」


 顎に手を当て、考えるような仕草を見せるティアル。

 少しの間その姿勢を保ったまま思考を巡らせてみるが、この時点で『普通』とは違う自分が腑に落ちなかったのか、諦めて何も言わずに昇降機から降りていった。


「私たちの教室は、確か一番奥だったはずです。席、隣だといいですね!」


「ええ、そうね」


 そんな小さな期待を胸に、二人は肩を並べて廊下を歩み始める。

 エントランスとは違って、教室の廊下は静寂に満たされていた。ティアルは時折、過ぎる他のクラスの中を窓越しにチラッと見てみると、たくさんの生徒が楽しそうに言葉を交わし合っている様子が目に入った。


 私もこんな感じに周りに馴染めるのだろうか。そんな不安を抱きながらも、その裏には楽しみな気持ちも浮かんでいた。


「お嬢、到着しましたよ。ここが、私たちの新生活の場です……!」


 五階端の教室。ティアルとリランは気持ちを落ち着かせるように、木製の扉の前で一息つかせる。


「私も多分、お嬢と同じ気持ちだと思います。でもここまで来たからには、全力で学園生活を満喫しましょう!」


 ティアルはそっと頷くと、期待を込めながらその扉に手をかけた。

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