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ひとりきりの星使い  作者: めもたー
第一章 学園の日常編
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7話 太陽

 ティアルが踏み出したそこは、今までとはまるで別世界のようだった。


 雑草ひとつ生えていない広い石畳の道が、奥の何層にも分かれた豪勢な噴水を境に十字路を刻んでいる。


 向かって左側には、巨大な学園寮が佇んでおり、既にティアルの屋敷と同程度の広さを誇っていた。

 右手に見える天を()くような図書塔は、他とは違った螺旋(らせん)状のユニークな形でありながらも、確かな風格を醸し出していた。


 そして、正面の一際目立つお城のような建物が本校舎なのだろうと、ティアルはさらに想像を膨らませる。


「お嬢っ! すごいです! あの校舎、私たちのお屋敷よりも大きいですよ! 周りの建物も豪華で、本当にここ学び舎なんでしょうか??」


 田舎から都会へ飛び出してきた無邪気な子供のように、目を輝かせてはしゃぐリラン。


「興奮する気持ちも分かるけど、一旦落ち着いて。あなたさっきからすごく目立ってるわよ」


 リランは少し驚いた様子で周りをキョロキョロと見渡すと、付近の生徒から注目の的にされているのにやっと気づいたらしく、恥ずかしそうに肩を(すく)めて縮こまってしまった。


「あへへ……すみません……」


「……まあいいわ。それにしても、本当に同じ世界の建築物とは思えないわね。王都より栄えてるんじゃないかしら?」


「それは言えてますね。あんなに大きな建物、王都の魔法局くらいでしか見た事ないですよ」


 王都魔法局は、ルミナークを管理、統一するこの国の核のような施設である。

 主要都市の王都や城下町のみならず、国全域が魔法局の管理下にあるため、この場所なくして世界の均衡は語れない。


「いや~、これから毎日お嬢とこんな素敵な所へ通えると思うと私ワクワクドキドキが止まらないですよ!」


「そうね。ここの雰囲気に馴染むまで、しばらくは私達も寮を使う事にしましょう」


「え! もしかしてお嬢と同じ部屋でお泊まりですか!? まだ私心の準備が……!」


「何を言ってるの。さすがに一人一部屋よ」


「……しゅん」


 誰が見ても分かるほどに落ち込んだ様子のリラン。

 毎度大袈裟な反応をするリランだが、今回はいつも以上に気を落としているように見えた。


「……わかったわ。お屋敷じゃいつも隣の部屋だったし、機会があれば学園のお偉いさんに掛け合ってみるわよ」


「ホントですか!? やった! 嬉しいです!」


 リランは喜びのあまりその場で小さく飛び跳ねた。

 目立たないよう忠告したばかりなのに、と、ティアルは短くため息をつくが、不思議と嫌な気持ちではなかった。


「よお! 君たちも新入生か?」


「うわあ!?」


 いきなり背後から声をかけられ盛大に驚くリラン。それとは反対に、ティアルは冷静のまま、その声の主の方へと視線を向ける。


 そこには、少しくせのある金髪ショートヘアの少年が爽やかな笑顔で立っていた。

 深い青色のジャケットに、ベージュの膝丈パンツとブーツ、チャームポイントだろうか首に赤いスカーフも巻いており、いかにも陽気で活発そうな雰囲気が溢れ出ていた。


「驚かせてすまねぇな。そんなつもりはなかったんだが……」


 申し訳なさそうに頭をかく少年。

 しかしリランは、人慣れしていない事も相まって、急に背後から現れた少年に対し、既に警戒態勢に入っていた。

 リランはティアルの一歩前に踏み出し、獲物を見定める獣のように鋭く睨みつけた。


「おいおい、マジで謝ってるんだって。白と黒の二人組がいたらつい声かけちまうだろ?」


「……あの、このお方が誰だか知ってての戯言(ざれごと)ですか?」


「リラン、警戒しすぎ。それに、今は私達はただの学園の生徒よ。他の何者でもないわ」


「うぅ……お嬢がそうおっしゃるなら……」


 渋々ティアルの隣へ戻るリラン。だが、その眼光は依然として少年を捉えたままだった。


「んー、まあ誰だかは分かんねーけど、お前ら面白いな! 俺はルーク・フェルナード。ルミナーク西の田舎村から遥々やってきたんだ。これからよろしくな!」


 ルークと名乗る少年は、そう言って右手をティアルの前へ差し出す。


「……元気な人ね。あなたのような人が、きっと良いムードメーカーになるんでしょうね」


 ティアルはそう返し、微塵(みじん)躊躇(ちゅうちょ)せずその手を軽く握り返す。

 視界の端っこでリランが絶望に満ちたような顔をしているのが見えたが、ティアルは何も見ていない事にした。


「嬉しい事言ってくれるな! 俺の取り柄は誰よりも明るい事だからな! これから学園をバンバン盛り上げていくぜ」


「そう。楽しみにしているわ」


 握手を終えたルークは嬉しそうに両手を腰に当て、ニッコリと盛大な笑顔を作った。


「ところで、お前らは名前なんていうんだ?」


「私はティアル。こっちは私の執事で、リランよ」


 ティアルがリランの方へ手を差そうとするも、ビクッと肩を震わせ、リランはすぐにティアルの背後へと隠れるように回り込んだ。


「ど、どうも。リラン……です」


「偉いじゃない。よくできました」


 その言葉にリランの曇った表情に光が現れる。


「執事がついてるって事は、まさか王都の人間なのか? うげー。よりによってそんな二人に無礼働いちまったのか。もしかして俺、処刑される?」


「王都の人間なのは合ってるけれど、これだけで処刑は有り得ないから安心して」


「そうかそうか! それならこれからも仲良く出来るって事だな! それじゃ、俺は先に教室に向かうぜ。お嬢様達も、遅れないようにな!」


「余計なお世話です早く行ってください!」


 相も変わらずリランは、ルークに対して反抗的な態度を見せる。

 ニコッと笑った(のち)、ルークは小さく手を振り、軽快な足取りで校舎の方へ向かっていった。

 その後ろ姿が見えなくなるまで、リランはティアルの背後で身を潜めていた。


「まったく、初対面の人に対してあれは失礼よ」


 ティアルはため息混じりにリランの方へ視線を向ける。


「私、ああいう太陽みたいな人は苦手なんですよ……さすがに、まだ私にはハードルが高すぎます……」


 未だティアルにしか完全に心を開いていないリランからすれば、ルークのような明るさ全開のキャラは、本能的に(いと)ってしまうらしい。


 初めは一人で学園に通う予定だったティアルがリランの同行に賛成したのは、この場所を経て『他人へのトラウマ』を克服させるための良い機会だと思ったからである。

 しかしこの幸先(さいさき)の悪いスタートにティアルは、はあ、と吐息を漏らし、静かに空を仰いだ。

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